頼み
コールが耳の中で響く。
呼び出しの音に中々反応が無かったが、ようやく音が途切れて声が聞こえてきた。
「よっ、どうしたんだ、優人?」
いつも通り気持ち良いぐらい明るくて、それでいて何処か気の抜けたような親友の声。
しかし通常運転の親友と違って、僕の気持ちは平常通りではない。
「……健人。次の日曜日に会わないかって誘われた」
「はっ? 急に何だよ。次の日曜日に誘われた? 誰に――って、おいっ、ちょっと待て! まさかあの子にか!」
「うん、そう。詩織さんに誘われたんだ」
驚きを目一杯表した声で反応した健人に、僕は自分でも不思議なくらい平坦に言った。
「マジかよ。向こうから誘ってきたって?」
「うん。僕も信じられないけど、そうなんだ」
先程見た文章を思い出す。
まさか僕らのやり取りを知っている誰かが詩織さんになりすまして送ったなんて可能性はほぼ皆無だろうから、彼女が僕と会いたがっているという言葉は紛うことなき真実なんだ。
しかし、望んでいた筈なのに今心の中には喜びより勝る感情がある。
「マジかよ。すげー予想外だわ。――でも、どうしたんだお前? の割にはなんかそんな嬉しそうじゃねえな」
「いや、そんなことないよ。そんなことないけど…」
誘いの文章を見たとき、胸が高鳴り嬉しかったのは本当だ。
でも直後に、不安が襲ってきた。このまま会ったら、彼女との関係が終わってしまう気がして……。
やっぱり会いづらい。
「まさかお前、まだ前言ってたこと気にしてんのかよ? 会えよ。大丈夫だって。それともお前の会いたいと思ってる人は顔だけで人を判断する奴だと思うのか?」
「そんなことはないと思うけど……」
そのことで幻滅されるのが恐いのもそうだけど、それよりも騙していたと取られるのが嫌だとか、女性とろくに話したことのない僕が直接会った所でちゃんと話せるのか、とかつまらない男だと思われたらどうしようとか、そんな不安ばかりが募ってくる。所詮会った所で、嫌われてしまうんじゃないかと恐れている。
――でも、会いたい。その気持ちも強い。実際に会って話がしたいっていうのは僕も一緒だ。
「そうだよね……。会った方が良いよね」
「ああ、このまま会わなかったら多分いつか関係も途絶える。ネットだけの関係なんてそんな続くもんじゃない。その時に後悔するぐらいなら、とりあえず会っておいた方が良いと俺は思うぜ」
やって後悔よりやらずに後悔。それをさっき誰かさんが口にしてたな。
そうだ。その通りだ。その言葉は僕の本心だった。
まさか人には言っておいて、自分は例外だなんて言う訳にもいかないだろ。
「よし、分かった。会ってみるよ」
「よく言ったぞ、優人!」
「でも健司。それについてちょっとお願いがあるんだ」