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ネットサーチ

「あっ、そういえば優人ゆうと。お前、女作りたいならSNSサイト使ってみれば良いんじゃね?」


「……はいっ?」


 日曜日の午後、時間にして十五時、特にやることもないので小学生の時からの親友、健司けんじと二人で僕の家で遊んでいた。そんな時に、突如思い出したかのように、健司が僕に提案してきた。

 しかしおかしい。僕たちは今野球の対戦ゲームをしていたところだ。五-四という接戦を僕が制した直後だった。僕の使ったピッチャーがヒーローインタビューを受けていた所だった。

 なのに何故、そんな話題になる。どこから繋がった。ついさっきまで、「くそっ! コントローラーがの反応が悪いからだ!」とか、なかなか苦しい言い訳をしていたくせに、どうしてそんな話になった。


「いや、ごめん、突然何で? っていうか、SNSって、あのフェイスブックとかツイッターとか言うネット上で交流するやつのこと?」


「まあそうだけど、他にも色々あるんだよ。で、それを使ってお前は出会いを求めろ!」


 整った顔達を、性格通り快活な笑顔に変えて僕に向けてくる健司。ついでに言うとニヤリとさぞ楽しげな笑顔を向けてきた。さてはこいつ、俺を出汁にして自分が楽しもうとしているな。

 確かにそういうのは世界中で結構参加してる人も多いとは聞く。僕もLineぐらいなら使っているけど、他は全く、どんなものなのかも知らない。

 そもそもそんなものをやる必要性も分からない。


「だから何でさ? そういうのって会員登録とか、顔も名前も知らない人と交流とか嫌なんだよね。面倒くさいし」


 そもそもそんなネットでちょっと知り合ったぐらいでリアルでも会うぐらいの仲になるとか、普通はないでしょ。


「会員登録なんて、あっという間に終わるよ。まあ良いからやってみろよ。お前言ってるだろ。毎日全然面白くないって。彼女とか出来れば変わるのになって。だからネット上で彼女を探してみれば良いじゃねえか」


 いや、確かに言ってるし、思うけども……。


「そんな、ネットで知り合った女性なんか信用出来るないよ。顔も名前も知らない赤の他人を打ち込まれた文字だけで信用しろって無理でしょ」


「そうか、お前はそんな顔も見たこともないようなどこの馬の骨とも知らないやつとなんかやってられるか、って言いたい訳だな」


「うん。ちょっと言い方はあれだけど、要約すればそういうことになるかな」


「ということは、プロフィール画像に自分の画像使ってる人なら大丈夫だってことだな!」


「いや、大丈夫だってことではないね」


 問題はそこじゃないということを分かってくれ。


「それにそもそもそんなネットで誰か気に入った人と仲良くなるとか無理だよ。それなら現実で見つける方がまだ簡単だ」


「ははっ、お前それが出来ないから悩んでるんだろ」


 鼻で笑われた。イラッときた。

 しかしその通りだった。


「くっ、それに関しては言い返せない……」


 そうだよ。彼女なんか出来てたら、今頃華やかな高校生ライフを満喫してるよ。

 彼女はいない、部活も何もやりたいことはない。正直もう高校二年生になるけど、未だに青春の真っ直中だということを実感出来ていない。

 僕だって思いっきり青春したいとは、そりゃ当然思う。


「それに何よりネットで出会うとか少しロマンがあるじゃねえか」


 そこは今一しっくりこない。


「でも、あれじゃん。個人情報漏洩とか怖いじゃん」


「そんなの、大丈夫だって。特にバレそうなことを書かなければ良いだけだ」


「でもマジで僕は良いよ……」


「なあ、優人、一回やってみろって。実験だ、実験! 何なら俺が設定してやるから。ネット上でもな、知らない人と関わることが出来たら嬉しいし、やっぱり楽しいもんだぜ」


「いや、でもな……」


「あー、もう! ちょい、ケータイ貸せ!」


 僕が悩んでいる内に、バッと僕の近くの床に置いていたケータイを健司が取り上げた。


「あっ、ちょっ! 何すんだよ!」


「俺に任せとけって。俺がやってやる!」


 胸を張って言う親友に抵抗するが、しばらく続けてから無理だと悟って僕はもう抵抗するのをやめた。

 嫌だと言ったのは本当だ。内向的でリアルでも女性とそこまで話したことの無い僕が、ネットとはいえ誰かと仲良くなれるなんて思えない。それに昔から健司はやると決めたことは、とことんやり尽くすタイプだ。これ以上の抵抗に意味はない。

 まあそれに。健司に言われて、ほんの少しぐらいならもしかして誰かこんな僕と仲良くなりたいなんて言ってくれる女性もいてくれる可能性があるんじゃないかと、本当にわずかだけど期待みたいなものも持ってしまったのは事実だ。だから、やってみるかなという気にはなってしまっていた。

 恥ずかしいから、親友にはもう好きにしてよとやけくそ的な態度を取っておいた訳だけど。

 そうしてちょくちょく「生年月日なんだっけ?」など個人的な質問をされながら十分程経って、やたらと画面をスライドさせていた健司の指が止まった。そしてそのままケータイを僕に返してきた。


「ほらよ。完了だ。ちゃんと誰かに絡んでいけよ」


「そんな簡単に言うなよ……」


 ネット初心者が下手に絡んだら、それこそ「このど素人が!」って蔑まれる。気がする。まずはマナー的なものとかも覚えていかないと。

 等と考えながら画面を見ると、写し出されていたのは自分のプロフィールのページ。そこの一部、プロフィール画像を見て、僕は目を見開いた。

 そこに写っていたのはドアップの親友の顔だった。


「この画像、健司の画像じゃん!」


 この野郎! なんか人のこと応援してる体で来やがった割に、なに自分のことめっちゃアピールしてるんだよ!


「いやいや、待て待て。よく見てみろよ。ちゃんと、お前写ってるだろ」


「はあっ、僕が写ってるってどこに……って、あっ、いた! 確かにいた! ――だけど、僕後ろにちょこっと写り込んだだけじゃん! これ誰が見ても、健司の方だと思うでしょ!」


 ついでに言えば、ゆーとんとかいう名前もダサい。


「大丈夫だって。実際に誰かに会うことになって何か言われても、いや写ってるじゃんって言い切ることは出来るだろ」


「いや、無理があるよ! 最早詐欺だよ!」


「いやいや、それはねえって。それに俺の画像にしといた方が女性ウケ良いって、ぜってえ!」


 なんだと、思い上がるなよ小僧!

 ……っと言ってやりたい気持ちは山々だったけど、それは流石に否定出来なかった。健司は男で親友の僕から見ても女性はとりあえず第一印象だけなら好感持つであろう、イケてるフェイスをしている。実際中学時代から結構女子からの告白を受けていたみたいだし。

 ちなみに僕と違って、健司はつい最近まで彼女がいたが、最近別れたらしい。くそ、羨ましい。


「はあっ……まっ、良いか」


「あっ、ちなみに別にお前の顔じゃダメって訳じゃねえぞ。お前だって悪くはないんだからよ。でも、俺の方が可能性は高いって話だ」


 図に乗るな小僧! ……っと言ってやりたい気持ちは、エベレストエベレスト、あっ間違った、山々だったけど、これも否定出来ないから僕は押し黙りつつ、睨み付ける。

 確かに昔から僕は可愛らしいとか言われることはたまにあった。けど、かっこ良いと言われたことはないし、健司といるとどうもやはり見劣りして写っている。……気がする。まあ、単なる思い過ごしかもしれないけど。それでも僕は平凡に成り下がっているというのは感じていた。それで健司を嫌いになってしまうとかは無かったけど。何だかんだ良い奴だし。

 まあ、それにどうせ後で変えれるんだろ。これはこれで、実は後ろのポツンと写ってるのが自分なんですよ、なんて言えば笑ってくれるかもしれないし、とりあえずネタにはなるだろ。これで行くのもありかもしれない。


「まあ、とりあえず地域で検索してみれば良いんじゃね? そしたら、ここら辺に住んでる奴と仲良くなれるかもしれねえし」


「うん、そうだね。えっと、入力っと」


 僕の住んでる地域の名前を打ち込んで、検索ボタンを押した。そこには多数の人間のアカウントが出てきていたが、許容誤差上下一歳の女子高生を探す。

 その一つ、詩織しおりという名前のアカウントに目が止まった。そのアカウントのプロフィール写真は茶色い本に筆記体の英語でタイトルが書かれた本の絵が写し出されていた。

 この画像からイメージするに本を読むのが好き。つまり控えめ女子。僕の好みの性格をしている可能性がある。そして、そこのプロフィールに書かれていたその人が住んでいる地域は、僕のいる地域と同じだ。会おうと思ったらすぐ会える。

 クリックしてプロフィールの詳細画面を開くと、小説だけでなくマンガ、主にジャンルは恋愛ものが好きだということ、それから小説投稿サイトで小説を書いているということも書いてあった。


「へえ、その娘か。画像無いけど、良いのか?」


 何で普通に覗きこんでんだよ、と一瞬渋い表情をしてしまったが、何だかんだ健司も僕のことを考えてくれての訳だし、見守る義務的なものを感じているのかもしれない。いや、ニヤニヤしてるしただの興味本位だな、これ。


「そんなの信用出来ないだろ。偽の画像かもしれないし、本来はブサイクだけど、奇跡的に撮れた一枚を使ってるだけかもしれない。プリクラで写したのを載せてる人もいるけど、あれじゃ本当のところは分からないし」


「ああ、なるほど。それに本当は男かもしれないしな」


「えっ、そんなのあるの!」


 男が女の画像使って、ハートマークとか連発するのか。吐き気レベル九十五だな。


「まあ、でも別に顔じゃなくて……あっ、てか、そんなのはどうでも良いんだよ。僕は別にそんなの期待してないから。ちょっと交流出来れば良いな、的なだけだから」


「ふーん……」


「よし、この人のことチェックしておこう。で、終わりと」


「……はっ?」


「えっ?」


 僕の言葉を不満げに聞き返してきた親友に、僕も聞き返した。


「お前、アタックしないのか?」


「えっ、いやだって、まだこういうの慣れてないし、いきなり絡むのも変かなって……」


「それだもん。お前、女出来ないんだよ」


 ハリウッド俳優さながらに、やれやれと言った感じの溜息を溢しながら言われた。無性に腹が立ったのでリアルファイトしそうになったが、僕は必死に怒りを飲み下した。


「今までと一緒じゃ、何も変わらねえよ。もしかしてお前いつかは女性の方から話しかけてくるとか思ってる? それはねえからな。要は積極性だ。どんなイケメンでも全く知らない、関わりのない人間にいきなり声掛けられるとかそうそうある訳ねえだろ。まず関係を持ちたいなら自分からアタックして関係を掴む。これからだ」


「なるほど……」


 やけに熱弁する健司に妙に納得させられてしまった。

 確かに僕は自分からアタックすることが今までなかった。男子と話すことすら得意ではないのに、女子と上手く話せる訳がないと逃げてきたのはある。自分からというのが無かったから今の状態なら、何かを変えるしかない。変わるのを待っていたから、今はこうなっているのだから。

 そこは感嘆させられてしまった。

 でも、ネットとはいえやはり初舞台でいきなり知らない女性に、というのはなかなか厳しい。


「でも初めてだから、どうしていけば良いのか分からないよ」


「大丈夫だって。俺も協力してやるからさ」


「健司……」


 今日の健司はなんてありがたいんだ。やっぱり持つべきものは友だな。


「とりあえず、メッセージ送ってみようぜ」


「メッセージか……。こういう時、どう書けば良いか分からないんだよね。ねえ健司、何て書けば良いかな?」


「何、人に聞いてんだ、お前! 甘ったれてんじゃねえぞ!」


「ええっ!」


 僕は大仰に驚いた。

 提案したのはそっちなのに! まさかの突き放し!


「あのな、優人。仮に俺が言った言葉通りに送って仲良くなることが出来たとして、お前は今後どうするんだ? ことある毎に俺に聞いてくるのか? そんなんじゃ、いつまで経っても変わらない。ありのままのお前を見せてやれば良いんだよ。そうすれば、きっと相手も応えてくれる」


 その言葉に、確かにと納得してしまった。確かに言い出したのはそっちで、理不尽ではないかと思う気持ちもあるけど、それよりもその真剣な顔に、その言葉に納得させられるだけの、熱意と説得力があった。


「そうだね。その通りだ、健司。僕が自分で考えて送るよ。――まあ、そっちはともかく、健司が設定してくれた画像はありのままでも何でもなく最早ほとんど別人の画像だったけど」


 そして僕は再び画面と向き合った。

 さて、女子にメッセージか。やっぱり緊張するな。

 うーん、ここは無難に挨拶から入って、それから住んでるところが近いという話、それから……あれっ、でも挨拶って今は昼だけどこの人が見るのは夜かもしれないから、こんばんは? いや、それはないか。でも芸能界は時間帯関係なくおはようございますだし、おはようございますで良いのか? 待てよ。そもそも普通は送った時間帯でやるもんじゃないか。

 浮かんでは否定を繰り返し、結局画面は変わらない。文章を書くのがこんなに難しいことだとは。

 それでも健司には頼らないと決めた。試行錯誤の末、なんとか僕は一人で書き終えた。

 そして最後にもう一度見直す。


『初めまして詩織さん。ゆーとんという者です。突然のメッセージ申し訳ないのですが、ふとあなたのプロフィールを見てみると、あなたが住んでいる地域と僕の住んでいる地域が一緒だと分かりました。そこでこれも何かの縁と思い、声を掛けさせて頂きました。気が乗ったらお返事ください。よろしくお願いします』


 うーん、自分で書いた文章だからよく分からないけど、特に悪い点は無いと思う。

 書き上げるのは自分の力でと決めたけど、最後のチェックくらいは健司にも確認してもらおう。そう思い立って聞いた。


「まあ見はするけど、これはお前なりの想いだ。だから俺はダメ出しはしないからな。……しないけど、一つだけ」


 言いながら、一通り見回して改めて僕を見直す健司。


「……一つ?」


「ゆーとんという者ですの後に、ニュートンじゃないですよ、ゆーとんですよって付け加えたら――プッ、それ面白くね?」


「うん、却下」


 僕は盛大な笑顔で、その提案を下げてあげた。

 何も面白くなどない。その事実だけで充分だ。


「いいや、このまま送ろう」


 決意を述べる為というより、言うことで気持ちを固める為に口にして、そのまま勢いで送信した。

 他から見れば何でもない、ただのメッセージ送信なのかもしれないけど、送った瞬間から僕の鼓動はばくばくと徐々に強さを増していく。期待とそして緊張も高まっていく。

 その後も健司とゲームして遊びながら、返信は来たのか、そのことばかり気にしてしまう。

 でも何となく、気にしてることを健司に悟られて茶化されるのも嫌だし、僕は無理矢理遊びに徹しようと努力する。それでも床に置いてある黒画面のケータイをチラチラ見つめてしまったのはしょうがないと思う。

 そしてゲームで僕が九勝目を取った後に、ようやく連敗阻止と共に初勝利を掴んだ健司が、誇らしげな顔のまま聞いてきた。


「そういえばお前、さっきのどうなったんだ? 返信きた?」


「あー、そうだな。まあ、一応見てみるか」


 あっ、そういえばそんなのあったね的な雰囲気を出して言っておいた。

 しかし、内心ではナイス健司と褒める。これで大義名分は得た。

 ケータイを手に取り見ようとしたところで、しかしドクンと落ち着きかけていた心臓が一層高鳴った。

 再び込み上げてくる緊張。もし来てたらと膨らむ想像と、でもなんて返せば良いんだ、急になんですかとか拒否の態度を取られてたらどうしようと募る恐怖。

 でも目的は変えない。急かす健司の声を受け、取ったケータイでページを確める。


 ――あった。


 あった。来てた。メッセージが一件ありますという表示が確かにあった。


「来てた、来てたよ、健司!」


「おう、まあそりゃそうだうな」


 当然だろと言わんばかりの顔で言われた。

 健司はそんな感じだけど、僕には自分で送っておきながらだけど、本当に来たという驚きがかなりある。

 とりあえず無視でもされてたら、僕はいきなりネット界で挫折していただろうから、それはなくて良かった。それに純粋な喜びの気持ちも込み上げてくる。


「で、何て書いてあるんだ?」


「今から見るとこ」


 でも、まだ恐怖は消えない。何が書いてあるか気になると共に、恐怖も高まっていく。怖いテレビは嫌いだけど、点いてるとつい見ちゃうという女子の気持ちが今ははっきり理解出来る。

 怖いけど、気になるんだ。そしてそれに勝るとも劣らない希望を夢見て、僕はメッセージを開いて見た。


『初めまして! こちらこそ同じ地域の方と交流が出来て嬉しいです! これからよろしくお願いします』


 僕の期待は爆発した。

nisem

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