02 奇襲
「よっしゃ一気に二匹ッ!警備は全部倒したぜ!」
また一人、命が消えるのを確認すると、サクは遠隔視魔法を切った。
ニマッと笑う能天気なユウ。この男はもう少し黙らないものか。
サクは頭を抱えた。こいつは本当に人を殺しているという自覚があるのだろうか。
いや、無いのだろう。こいつは小さい頃から戦争ばかりに巻き込まれていると聞く。殺さなきゃ殺される環境で育ち、血に慣れているのだろう。
目の前で人が何人死のうが、彼には関係ないのだ。
昔、砂漠地帯に存在する軍の拠点を襲撃する任務で、ユウが無抵抗の兵士を容赦なく打ち抜いた事があった。
既に武器もハルに破壊され、命乞いまでしていた無抵抗な兵士だ。
ユウとハルで言い争いになったのだが、彼は一切悪びれた様子を見せなかった。
疑問にすら感じなかったらしい。
誰も悪くは無い。
環境が彼を染めたのだ。
「おーいサクちゃんよ、俺は行っちゃ駄目なんか?」
彼は退屈そうに弓を肩に掛ける。
「駄目だ。お前はここで待機。何かあったら矢で援護しろ」
「かー!つまんねぇな!」
ひとまず、警備はすべて排除した。次の段階に進む事が出来る。
魔法石版を取り出し、通信機能を呼び出す。対象にハルを選択し、通信する。
ピロピロと可愛らしい音が鳴り始める。
「ハル、出番だ」
・・・
南門。
今日の会合に参加する者は、主にこの南門から中に入る。
反対の北門は、非常用としてのみ使用される。
よって警備は南門に集中しており、厳重にな警備体制がひかれていた。
そんな中、南門に向かってゆっくりと歩いてくる人影があった。
「だれだッ!」
男は深くフードを被り、顔は見えない。
賢者一人が会合に遅れてきたのだろうか
だがそのような連絡は受けておらず、彼は身構える。
3m手前まで男が近寄る。月の明かりで、フードで隠れていた顔が少し見える。
茶色の髪。青い瞳を持った少年だ。およそ16,7歳くらいであろうか。
まだ幼さを残す顔立ちだ。
だが瞳には強固な決意を感じた。
「止まれ、証明書を見せろ」
彼は怪しいと思いつつも、マニュアル通りに対応する。
少年に向かって手を伸ばす。
その瞬間
彼の腕は跡形もなく消えていた
「ぁぁ….ぅぁあぁ….」
小さい悲鳴にもみたない、声を出す。
彼はようやく、自分の腕が切断された事に気付いた。
焼かれた様な激しい痛みに襲われる。
「ああああああああああああ!?」
腕から大量の血が流れ出る。
周囲が真っ赤に染まる。
やられた、と彼は思った。
ほんの数秒。一瞬の出来事だった。
すぐに助けを呼ぼうとする。
「誰か助け..ンフッ?!」
少年は彼の背後に回り込み、助けを呼ばれる前に彼の口を塞ぐ。
そして少年は彼の腹に、強烈な打撃を加えると、男はぐったりと崩れ落ちた。
「どうした!?」
男の声を聞きつけた兵士が、駆け寄ってくる。
少年は体勢を屈め、男に向かって驚異的な速度で突進した。
常人の脚力とは思えない速度だ。
「うわッ!?」
彼は肘を使って男のみぞおちを打ち抜く。膝を崩し、素早く首に手刀を入れる。
男は、何が起きたのかすら認識できずに、その場で気を失う。
再び静寂が訪れた。
「少しやり過ぎたかな」
倒れた兵士を見る。30代の少しやつれた男性だ。
顔がやつれている所を見ると、あまりまともな食事は取れていないのだろう。
胸にはペンダントがあり、家族の写真が顔をのぞかせていた。
戦争が始まり、兵士の強制招集が発令された。男は家族にもまともに会えず、辛い思いをしていたのだろう。
「奴隷でもないのに…つらかったな」
ピロピローピロピロー♪
可愛らしい音が鳴る。
少年はマントの中から小さな長方形の石を取り出した。
黒く光るそれは魔法石盤と呼ばれ、魔力を媒介として通信やコンパスなど様々な用途に使用される石だ。
一つで小さな家がひとつ買える程に高額であり、作るには専門の魔術師と貴重な素材が必要である為、一般の市場ではまず手に入らない。
さらに、製作時にも膨大な魔力と設備、時間が必要なのだ。魔法石盤を量産する為に、毎年莫大な国家予算がつぎ込まれている。
それほど、魔法石盤は貴重なのだ。
ハル達は組織から3つ支給されており、ハル・コウ・サクが使用している。
3つもこんな7人の少数部隊に投入される例は少ない。
それだけ彼らの組織が強大という事を示している。
「どうだハル?警備は崩したか?」
「ああ、警備兵二人を気絶させた」
二人を倒した少年、ハルは男を止血しながら答えた。
「また殺さずに倒したのか?本当に凄い奴だなお前は」
「そんな事無いさサク。無傷で仕留めたわけじゃない」
「だが、今まで誰も殺さず任務をこなしてるやつは、お前くらいなもんだ」
「その場で人の命を奪わなくても、俺たちの行いで結果的に死ぬ奴は山ほど居る。俺はただ自分の手で直接殺すのが怖いだけだ」
どこか遠くを見るハルの目には、数年前の事件が写っていた。
俺は殺すのが怖い。目の前で人が死ぬのは怖いんだ。
「そうか。まあ任務が達成されるなら何でも良いさ。すぐ次のポイントに…ん?何だって!?」
サクが声を荒立たせる。
「どうした」
「コウ達が『目』を持ったやつに見られたらしい。」
そんなミスをするなんて、コウらしくない。
いや、エリが一緒にいるのだった。
彼女のミスだろう。
「それはまずいな、すぐに合流しよう」
魔法石版をポケットにしまった。