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7.人付き合い

作業に入ってから3時間。メリアルはこの作業に心底飽きていたが、目の前の男の所為で逃げられないのだ。同じ作業の繰り返しは単調すぎて眠気を誘うのだった。全く集中してなくても核を完成させてしまう所は、流石と言うしかないだろう。


「よし、今日はこれだけ出来たら充分だね」

「…はぁ」

「お疲れメリアル。明日は寝坊しないで来てね」


リヒトの言葉に返す気力もなく、メリアルはその場を後にして歩いていると、別の部屋から女性が出て来た。

萌葱色もえぎいろの髪が腰まである日本人形のような女性で、昨日ガイアが紹介してた時に居た、ミリアと呼ばれていた人物である。


「お疲れ様です。お仕事終わられた所ですか?」

「…えぇ」

「そう言えばまだ挨拶していませんでしたね。私はミリアと申します。同じ研究所で働く仲間として宜しくお願いしますね」


ニコリと微笑み握手の手を差し出すミリアに、メリアルは黙ってそれを見つめるのみ。


「握手はお嫌いですか?」


その言葉にメリアルは間を置いた後に、短く肯定の返事を返した。同性は苦手だ。下手に返すと煩く騒がれるのだから。だからといって気にするメリアルではないのだが。

なら適当に合わせて握手すればいい話なのだが、握手の行為自体がNGであるので、無理な話なのである。だからミリアの質問はメリアルにとっては、喜ばしい質問だった。


「そうですか、それは失礼致しました」

ガチャ

「おっと…。あれ?ミリア何してんの?」

「メリアルと丁度お会いしたので挨拶をしてました」


ミリアと同じ部屋から出て来たのは、頭にバンダナを巻いた男性で年はメリアルより少し上ぐらいだろう。その男性も昨日居たメンバーの一人である。


「おっ、昨日の子じゃん!!俺はシュクナっつうんだ!宜しくな!!」

「メリアルは握手が苦手みたいですので、遠慮した方がいいみたいですよ」


シュクナがミリアと同じく手を差し出して来たので、ミリアがやんわりと制止してくれる。


「そうなのか?そりゃ悪いね!」

「それよりどうかされましたか?」

「あ、そうそう!なぁんか調子が悪い玉があってさ、ミリアに見てもらおうと思ってよ」


玉って何の?と聞きたい所だけど、メリアルはもう眠たかった。それにどうせ核の中に入ってる物だしと、その場を去ろうとするとミリアがそんなメリアルを呼び止めた。


「メリアルはまだこの開発部内の事あまり知りませんよね?」

「…えぇ、まぁ」


特に知りたいとも思わないけどと内心思いながら頷く。ここで悪態を付くと後でリヒトの耳に入った時に、なんて言われるか分かったものではないからだ。


「(あの男、苦手だわ…)」


人に気を使うとか無縁の生活をしていたのだから、他人とはなるべく関わりたくない。だからこそブルシュック博士はメリアルを人と関わらせようとここに送り込んだのだが、メリアルにとっては非常にいい迷惑である。


「でしたら見て行きません?私達がどの作業を担っているかを」

「お!いいなそれ!!そういや説明とかされてなかったもんな。所長も何考えてんだか」

「…遠慮するわ」


メリアルが断るとシュクナは眉を顰めた。それが良い意味ではない事ぐらいメリアルにも分かる。

だけども勘弁して欲しかった。やりたくもない事を延々とやらされて、酷く疲れているのだから。


「お前なぁ!人が親切で言ってやってんのに…」

「そうですか。ではまた次の機会に」

「おいかぶんなって!!」

「さぁ行きますよ。メリアルはまだここに来たばかりで疲れているのですから、休ませてあげましょう」


文句を言おうとするシュクナの言葉を遮り、ミリアはそうシュクナに言い聞かせて出て来た部屋へと戻っていった。閉じられたドアにはNo.3の表記があった。


「(…はぁ、疲れた)」


今日は厄日だわとメリアルは深い溜め息を吐いて自分の部屋に戻るのだった。








            ☆★☆★☆★☆








「あれ~?もう終わった感じ?」

「ガイア。今日の分は滞りなく終わったよ」

「そっかそっか!よくメリアルがやってくれたねぇ」


フラッと帰って来たガイアは完成された核を手に取って有り難いねぇと呟いた。


「メリアルはいい子だよ。言えば分ってくれるし」

「うんうん、可愛いよね~。ブルシュック博士もあんな子を隠してるなんて人が悪いよ」

「ブルシュック博士って俺あった事ないんだよね。どんな人なの?」


リヒトは片付けをしながら、ガイアとメリアルの師であるブルシュック博士の事を尋ねる。変わり者だけど天才の二人の師である人物に非常に興味があるのだ。


「博士かぁ~。うーん、どうだろうねぇ。簡単に纏めると懐の大きな人だよ」

「そうなんだ。ガイアの子供の時からの師なら、もういい年齢なんじゃないの?」


その言葉にガイアは大袈裟に手を横にブンブンと振った。


「いやいや、全然だよ!長命の種族だからね、そこから考えたらまだ若い方じゃないのかな」

「え?人間じゃないの?」

「そうだよ。知らなかったかい?」


ブルシュック博士はエルフだよとガイアは言った。エルフが博士と呼ばれる事も、様々な種族が共存する世界だから何ら不思議ではないのだ。


「博愛主義者だから人間でも保護するお人良しだね。まぁ物好きな人だよ」

「ふーん。全然イメージ湧かないな」

「中でもメリアルが一番のお気に入りのようだけどね!でも僕のが優秀だけどね!!」


親指を立ててアピールするも、リヒトには軽く流された。いつもの事だからだろう。酷いよと泣き真似をするガイアに、リヒトは「ああそうだ」と話を切り出した。


「メリアルが魔法消したのは俺だって言うんだよ。参っちゃうよね」

「おや、それは想定外だね」

「そんな事出来そうに見えるって言ったら、見えないって言われたけどね」


作業に使った部品を磨きながら、思い出すようにリヒトは笑った。見えないのに俺がやったと言えるって事は、何かを感じたんだろう。

頭が良いだけじゃなくソレを感じ取れる動体視力を持っているみたいだね。


面白そうな玩具を見つけたような純粋な笑顔で笑っているリヒトに、ガイアはあちゃーといった顔で頬を掻いた。


「あんまりちょっかいかけると、博士が出てくるよ」

「それは困るかな」

「ま、これでメリアルも人に慣れてくれるといいんだけどね」

「そう言えば、なんであんなに警戒心強いの?人間嫌い?」


人の手が加えられた物を口に出来なかったり、握手を拒んだり、我儘からそうしてるようにはリヒトには見えなかった。上級クラスの魔法も問題なく使えるし、そこまで警戒する必要性を感じないのだ。


「僕も詳しくは知らないんだよねぇ。まぁでも何となく想像はつくけどね」

「どんな?」

「そうだなぁ恵まれた環境にいる君には想像もつかない事かもね〜」


曖昧にしか答えてくれないのは何時もの事なので、そのうち分かるだろうと思考を切り替えた。研究者なら答えは自分で導き出すに限るからだ。


「ならいいや。明日は試作の実験してもいいんだよね?」

「相変わらずリヒトは諦めが早いね。メリアルが寝坊しなかったらね」

「どうかな?今日も疲れてそうだったからね」

「向こうでは夜行性だったみたいだし、数日は慣れるまで厳しいかもね!」


でもきっとメリアルは明日は時間通りに来ると思う。やりたくない事をやらされるぐらいなら、少し無理してでもやりたい事をするのがメリアルの性格だとリヒトは思ったからだ。


でもあの疲れ切った様子だとやっぱり明日は厳しいかもと苦笑するのだった。


「まぁ本当は時間の縛りはないんだけどね。ガイアも人が悪いよ」

「僕のせいじゃないよ〜。規則正しい生活に慣れさせるようにと、博士からの伝達があったのさ」

「まるで箱入り娘のような扱いだね」


何十枚あるの!?と驚く程に分厚い手紙をガイアは思い出してニヤつく。あの手紙を読んだ時に、親バカ過ぎて笑いが止まらなかった程だ。


「(溺愛という言葉がピッタリだね)」


ブルシュック博士はメリアルにあの子の姿を重ねているのだろうとガイアは口の端を上げた。それはなんて愉快なのだろうか。

止まらないニヤケ顔を誤魔化すように眼鏡を外して拭いた後、また掛け直した。


「ガイアこそメリアルを弄るの程々にしないと、余計に嫌われるよ?」

「昔からあの顔とは相性が合わなくてね!僕を見てるだけで、無性に腹が立つそうだよ」

「昔から?誰の話?」


この話はガイアとブルシュック博士にしか分からないので、当然リヒトには思いあたる節はない。だから当然の質問なのだが、ガイアは愉快そうに「さあねぇ」とはぐらかすだけであった。


「つまりちょっかいかけてもかけなくても、僕は嫌われる運命なのさ!」

「それ笑顔で言う事じゃないよね?」

「あの嫌がる顔が僕の楽しみだからね」


語尾に音符でも付きそうなノリでそう言ったガイアに、リヒトはメリアルに向けて合掌した。ご愁傷様という意味を込めて。



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