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19.合流と約束

「襲われてるよ!助けなきゃ!!」


冒険者が襲われているのを確認したシャロンがメリアルにそう言うと、不思議そうな顔をされた。何をとち狂ったことを言っているの?とでも言いたげに。

えっと思いリヒトを見ると首を横に振られた。まさか見捨てるつもり!?と問い詰めるとメリアルは不機嫌そうに一言「お腹が空いたわ」とアイテムを仕舞い帰り支度をしだした。


「メリアルに人を助けるって気持ちは、残念だけどないよ」

「そんな!襲われてるのに!?」

「自業自得でしょ。実力もないのにこの場所まで来たんだから」

「そうそう、自分の力量を見誤った彼らの責任だよ。なんたってここはダンジョンだからね」


一向に助ける素振りも見せない二人にシャロンは愕然とした。メリアルちゃんはともかくリヒトもそんな事言うなんて!!と。でも二人の言っていることも分かるし、何よりシャロンには誰かを助けられる程の力を持っていない。二人が動かない以上、聞こえてくる悲鳴をただ聞き流すしかないのだ。


「っ、でも!それでもやっぱり見捨てられないよ!!」

「あ!シャロン!!」


シャロンは飛び出して冒険者達の方に走っていった。


「貴方がそんな事言うなんて意外ね」

「そうかな?危険な場所に自ら挑む愚か者だからかな。ダンジョンに入らなければこうして命を落とすこともないのにね」

「同感だわ。それで?あの子行っちゃったけどどうするつもり?」

「シャロンを失う訳にはいかないから助けるよ」


そう言って歩いていくリヒトの背を見ながらメリアルは僅かな違和感を覚えたが、気の所為かと傍観者の立場でその後を追った。


目的の物は手に入れたのでこれ以上働くつもりはないのだ。自分の為にしか力を使わない。そうやって生きてきたから、誰かを助ける為に力を使う気持ちは微塵も持ち合わせていない。それはきっとこれからも変わらないだろう。


「貴方達大丈夫!?」

「た、助けて!貴女が死神でしょ!?お願い助けて!」

「え?死神って?」

「ぐああああああ!!」

「マクレガー!お願い!早く助けて!!」


冒険者達の一番後ろにいた金髪の髪を両サイドに縛った魔法使いのエレナは目に涙を溜めた状態で、シャロンに助けを懇願した。

しかし死神でもなければ、勢いだけで来てしまったシャロンにはどうすることも出来ない。しかしそんな事を言ってられないので防御魔法で結界を作り冒険者達を一時保護した。


「結界…やっぱり貴女死神ね!?こんな事出来るなんて!」

「すまない、助かった…」

「動かないでマクレガー!シーザ治療を!」

「分かったわ!」


口々に話す冒険者達にシャロンはただ茫然としていた。何故なら確かに結界を張ったが、それは通常の前方のみの結界だったはずだからだ。しかし今はドーム型になっており全方位から守られた状態である。こんな高等な魔法はシャロンには使えない筈だった。


「ね、ねぇ待って!死神ってシャロンの事!?」

「あー本人は知らないってやつか?ここまで来るときにモンスターを全部倒したの貴女だろう?」

「それはシャロンじゃなくてメリアルちゃんが…」

「メリアル?じゃあその人物が死神なのだろう」


怪我を負った傷を癒してもらいながらマクレガーと呼ばれていた黒髪の男が口を開いた。治癒魔法により傷は塞がったが、内部まではまだ間に合っていないようで肩を抑えたままだ。

きっと死体を追って最深部付近まで来てしまったのだろう。その治癒魔法の程度ではこの場所はまだ早い。ダンジョンのことはシャロンにはよく分からないが、それぐらいは分かった。リヒトが言っていたのはこういう事だったんだと理解するのに時間はかからなかった。


「すまない、都合のいい話だとは思うが助けてくれないだろうか。仲間が一人はぐれてしまったのだが、我々にはまだこの数のスケルトンを相手にするのは無理なようだ」

「私からもお願いするわ!」

「私も!お願い!!ファルケを助けて!!」


全員に懇願されるがシャロンにはそんな力はない。メリアルちゃんなら助けれるけど、そのつもりはないみたいだし、リヒトも協力的ではなかった。でもでも、見捨てることも出来ないし、かといって非力ですとも言いにくい…。もーメリアルちゃんの馬鹿ぁ!助けてよーーーー!!!


ゴオオオオオオオオオォォ!!


「きゃ、なに!?炎で包まれたわ!!」


突然シャロン達がいる結界の周りを大火力で炎が包み込む。それでも熱さを感じないのは、この優秀な結界のお陰だろう。


「あ、メリアルちゃん!リヒト!!」


炎が消えて付近のスケルトンも消えたら、二人の姿が見えてシャロンは嬉しそうに声を上げた。やっぱり何だかんだ言ってメリアルちゃんは優しいなと思うシャロンだったが、その裏では取引が行われていたというのは知る由もない。


「ふん、まぁまぁね」

「そう?結構なパワーだったと思うけど」


メリアルは手にしていたキングスケルトンの杖を見た。ここには緑の球体の魔力石がついており、それを媒体にして先ほどの炎を出したのだが、メリアル的にはイマイチだったらしい。


魔力石を使えば魔力の少ない者でも魔力消費を抑えて魔法を使用できるので、魔法使いや治癒者ヒーラーには必需品の武器である。魔力石のパワーによって値段が決まっており、高い物は城が買えるのではないかという金額の物もある。


「あれってAランクの武器じゃ…?」

「ええそうね。キングスケルトンの武器だわ」

「凄いあの子…。やっぱり死神って呼ばれてるのは嘘じゃなさそうね」


シーザとエレナは憧れの眼差しでメリアルを見つめる。それに気付いたメリアルは不機嫌そうに結界を解除した。もう周辺に敵はいないからである。


「ありがとうメリアルちゃん!!結界ももしかしてメリアルちゃんが?」

「私じゃないわ」

「はは、それは俺だよ」

「リヒトだったんだ!助かったよ、ありがとう!!」


シャロンは二人に駆け寄り手をとってお礼を伝えると、メリアルはその手を解き欠伸をした。どうやら魔力を使ったから眠たくなったようだ。それにシャロンとリヒトが苦笑していると、マクレガーが口を挟んだ。


「貴女を実力者だとお見受けしてお願いしたい事があります。先ほどの襲撃で仲間の一人が逸れてしまい、我々には集団を相手にする力はありません。なのでどうかそのお力を貸しては頂けないだろうか?」


頭を下げてお願いするマクレガーにメリアルは冷たい視線を向ける。


「断る。自分達の責任を人に頼むのは違うんじゃないかしら」

「そんな!そうかも知れないけど、助けてくれてもいいじゃない!貴女はとても強いんだから!!!」

「エレナやめなさい。正論だもの」

「でも…。だからってファルケを見殺しにするの!?」


エレナは悔しそうに瞳に涙を溜めている。しかしそれでもメリアルの心が揺さぶられる事はない。

くだらない仲間ごっこで反吐が出る。力なき者がここまで安易に足を踏み入れたその驕りこそが、今の結果に繋がっているのだから。嘆くなら自身の力の無さねと、メリアルは心の中で呟いた。


「下らない。私用事があるから」

「メリアル、約束は守ってね」

「…分かってるわよ」


その場を離れるメリアルにリヒトは釘を刺した後、ヒラヒラと手を振り見送った。

シャロンはそれに納得はいかないながらも、力なき者であるシャロンには、何も反論が出来なかった。やっぱり優しいと思ったのは撤回すると思いながら。


「リヒト…」

「大丈夫助けるよ」

「ほんと!?」

「流石に目の前で助けを求められると断れないからね」


やれやれといったようにリヒトは肩を竦めた。それにスケルトンなんて雑魚に等しいしねと思ったのは内緒だ。冒険者達の夢を壊すのもいただけないからね。何故なら冒険者なくして、ダンジョンは成立しないからである。






        ☆★☆★☆★☆★☆






「うわ、来るな!!あっち行けよ!!!」


緑頭の男、ファルケは集団のスケルトンに囲まれていた。腰に差していた二本の剣を振り回しながら。腕には自信があった。だからスケルトンも何十体も剣で薙ぎ払った。

だけども剣だけでは姿を崩すだけで、完全に粉砕することは難しくただいたずらに体力を削られていくのだ。ファルケはもう限界に近かった。せめて魔法使いのエレナがいてくれたら状況は違ったのだが。


「く、ここまでか…」


剣を振り回す両腕は悲鳴をあげている。気力だけでやってきたが、死なぬ相手にはお手上げ状態だ。

そして剣を弾き飛ばされてしまったので、ジ・エンドという訳だ。

目を閉じ衝撃に備える。すると頭上でパンと何かが弾ける音がした。ファルケが恐る恐る目を開けると、無数にいたはずのスケルトン達が見る見るうちに砕けていくではないか!


「な…何が起こってるんだ?」


スケルトンの砕けた粉が舞う中ファルケは目を凝らす。するとその先には誰か人がいるのが分かった。仲間だと思いファルケは立ち上がり声を掛けながら走って近づくと、そこに居たのは仲間でもなく人でもなかった。


「う、嘘だろ…、ついてないぜ全く…」


人型だが皮膚には固い鱗を持ち、鋭い牙と頭部には二本の角を生やしたモンスター、鬼獣だった。


鬼獣は人語こそ話さないが、知性を持ち集団で生活をするモンスターで気性はかなり荒い。人間は彼らにとって格好の餌であり、鬼獣による被害は後を絶たない。

ここのダンジョンにいるとは聞いてないが、出会ってしまったのだからそんな事は言ってる場合ではない。逃げなきゃと脳が指令を送るが、シャルケの体は固まってしまって動かないのである。


「たた、頼む、見逃してくれよ…俺なんか食っても上手くねぇって…」


武器もない、逃げる体力もない。出来るのは命乞いだけ。声を振り絞るように出すが掠れてしまって聞こえているかは謎だ。だが鬼獣は体を少しこちらに向けたかと思うと、大きな音を立てて地面に立入れてしまった。


「悪いけど、人を食べる趣味はないわ」


その背後からは可愛らしい女性の声が凛と響く。スッと姿を現したのは傷一つ負う事もなく、ダンジョン深部にいる可愛らしい少女、メリアルだった。


「えっと、もしかしてあんたが倒したのか?」


「それ」と鬼獣を震える手で指して尋ねるシャルケに、メリアルは事もなげに「ええ」と答える。


「珍しいものが居たからつい狩ってしまっただけよ」

「ついって…いや、それはいいんだ。有難うな!お陰で助かった!!」

「そう」


素っ気なく返事をして鬼獣の角を魔法で折り、皮膚である鱗を何枚か剥がすとその場を立ち去ろうとするメリアルを慌ててシャルケが引き止める。


「待ってくれ!情けない話だけどよ、一人じゃ生きて帰れそうにないんだ。だからあんたの後ろを着いて行ってもいいか!?」

「………勝手にすれば」


メリアルは断ろうと思ったがリヒトと交わした約束があるので、渋々その申し出を許可した。

約束とはドリゲロスの件に目を瞑る代わりに、はぐれた冒険者を見つけたら助ける事だった。勿論、モンスターを生きたままダンジョンから出す許可は得ていない。そして頭部だけ持ち帰るのも却下された。

何ならOKが出たのかというと、その姿を映像として入手する事だけだった。

当然不満だらけだがそれ以上は無理だったので、仕方なくそこらへんにある適当な石に映写の魔法をかけ、ドリゲロスの生きた姿をそこに収録した。


―――――メリアルに魔法で倒される「死」のその瞬間まで、ばっちりと収められていた。


メリアルが出来る精一杯の嫌がらせである。


ここは冒険者達がいた場所からは2階程下なので、出くわすモンスターを倒しながら階段を上がり進んで行く。


「なぁ、鬼獣をどうやって倒したんだ?」


シャルケが疑問を口にするとメリアルは足を止めて振り返り鋭い視線を向けた。


「…知ったら貴方、生きて戻れないわよ?」


酷く冷たいその眼差しにシャルケは体を強ばらせる。身の危険を感じたシャルケは顔を引き攣らせながら、ぶんぶんと両手を振り「こ、答えなくて大丈夫だ」と必死で先程の質問を取り消した。


「賢明な判断ね」


メリアルは視線を外し前を向きまた歩き出した。

それ以上は言葉を交わすことなく来た道を引き返していきながら、シャルケは思った。


――――モンスターより怖い…と。


「メリアルちゃん!」

「シャルケ!」


暗がりの中で聞き覚えのある声がしたので、メリアルがバッと手をかざすとポウと輝く光の玉が二つ漂い辺りを照らした。


「この辺だけ明かりが切れてるんだね。報告しておくよ」

「あら。暗がりも悪くないわよ」

「人は闇を怖がる生き物だよ」


再会を喜ぶ冒険者を横目にやれやれとリヒトはメリアルに呆れた目を向けるも、メリアルは気にする様子もなく石ころを弄んでいた。


「やっぱりメリアルちゃんは優しいね!何だかんだ言いながら仲間見つけて来ちゃうんだもん!」


シャロンがこちらに来て満面の笑みでそう言うものだから、メリアルはムスっとする。

だけども何も言い返さないのは無駄だと知っているから。


「じゃあ、戻ろうか。用は済んだしね」

「えぇ」

「うん!早く帰ろ。こんな怖い場所から」


お礼を告げる冒険者達と別れてダンジョンの入口まで戻ってくると、明るかった空は鮮やかなオレンジ色に染まり夜と交代をしようとしていた。


「んー、やっと外だ!冒険者の人達はダンジョンによく入っていけるなぁ。シャロンには無理だよ~」

「彼らはそれを仕事にしてるからね」

「お腹が空いたわ」

「はは!じゃあ早く帰ろうか」


伸びをしながら新鮮な空気を吸うシャロンと空腹を訴えるメリアルにリヒトは笑った。

貰った王冠を手にしながらメリアルとシャロンに手を重ねるように言えば、シャロンは分からないながらもその手に重ねる。


「メリアルも早く」

「結構よ。どうせ移動魔法でしょう?」

「流石メリアル正解だよ。これ媒体にやるから心配しなくても大丈夫」

「誰が貴方の心配なんてすると?自惚れるのもいい加減にして」


ガイアに向けられる様な顔をされて苦笑する。

分かっているさメリアルは手を重ねるのを極端に嫌がる事を。だから手ではなく王冠に触れるようにと言い換えれば渋々とそれを掴んだ。


シュルと風が纏ったかと思えば体か浮く感覚がする…と思ったのも束の間に足が地面に触れた。


「はい到着」

「すごーい!シャロン移動魔法とか初めて!一瞬だったね」

「…?まだ橋の手前じゃない」

「そりゃそうだよ。橋からは魔法は使ってはならないからね」


そういう決まりがあるのだとメリアルは初めて知る。仮にも城に勤める者ならばそれを破ってはならないとリヒトに念を押された。

でないとまた王に何を頼まれるか分かったもんじゃないよ?と脅しのような言葉と共に。


「ふん」


前に頼まれた装置は完成させて王の元へと届けて貰っている。要望通り今出来る最高の品を。

後日呼ばれた先では満足そうにそれを身につけた王が玉座に君臨していた。


そして私に掛けられた様々な魔法を見て興味深そうに笑っていたけれど。ただ見ただけではそれが何かは分からない。知識なくしてそれを使いこなすことは出来ないのだから。


「くくっ面白い女だな。その身に数多の魔法を仕掛けてあるとは。時間がないのでな、その話はまたにしよう。想像以上の出来に感謝するぞ」


宇宙石レグルスの石がキラリと光るピアスを揺らしながら、マントを翻し部屋を出ていく後ろ姿に内心舌打ちをしながら自身も背を向けたのだった。


「もう御免だわ」

「でしょ?さぁ帰ってご飯にしよ。お腹空いたんでしょ?」

「えぇ」

「シャロン今日は何食べようかなぁ。お肉はしばらく見たくないかも…」


ゲッソリとしたシャロンを先頭に城へと戻ったのだった。


翌日投げ込まれた石ころから映写されたドリゲロスの死にゆく姿に、ブライドの部屋から悲鳴が上がったのは言うまでもない。




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