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17.人助け

ドン

「あ、悪い悪い…ってげぇっ!!」


メリアルが食堂に着いて食事を取りに行く途中に誰かがぶつかって来た。

それにどのように制裁を加えてやろうかとぶつかって来た人物の顔をメリアルが見上げると、今日の朝に見た顔だった。


「ブライドどうしたのぉ?早く行こうよぉ〜」


その人物とはドリゲロス…ではなくブライドだった。

隣にいる女はクネクネしながらブライドに先を促すが、気付いていないのか顔が死人のように青ざめているブライドの耳には当然その声は入っていない。


「ん?知り合い?」


先を歩いていたリヒトが気付き顔を見合わせている二人に声を掛けると、ブライドは我に返りそそくさと逃げようとしたのを、メリアルに足を掛けられて転びそうになった。


「テメェ何しやがる!!」

「別に何も」


朝の事も忘れて頭に血が上ったブライドはメリアルに噛み付いた。もう女性とリヒトはこの状況に置いてけぼりである。


「え?え?メリアルまた何かしたの!?」

「してない」

「したじゃねぇか!足引っかけやがって」

「先にぶつかって来たのはそっちよ」


口の端を上げるメリアルにブライドは顔が引き攣る。

この顔は悪い事を仕出かす前の顔だという事を朝の件と同時に思い出したからだ。


「ま、待て…話し合おう!」


ゆっくりと手を持ち上げるメリアルにブライドが慌てて制止させようと声をかけるも止まらない。

また朝の二の舞になるとブライドが覚悟すると、神の一声が入った。


「メリアル?分かってるよね?」

「………」


メリアルの腕を掴みながら笑顔でそう聞くリヒトに、不満気な顔で見返すメリアル。しかし再度念を押されたので渋々手を降ろした。

この前の件で貰った果物が、それはもう美味しくて美味しくて。でも何処で売ってるか教えてはくれないので、ここで制止を振り払ってしまうともう二度と食べられないかも知れないという思いがメリアルを止めたのだった。


「助かった!ありがとう!あんたは救世主だ!!」

「え?何々!?」


ブライドはリヒトの手を握り感謝を伝えるも、見知らぬ男から手を握られても何も嬉しくないリヒトは引いている。


「ちょっとブライド〜!訳わかんないんだけどぉ」

「いいから少し黙ってろって」

「酷い!もういいわよ!ブライドのバカ!!」


女性はプリプリとお尻を揺らしながら行ってしまった。ブライドからしたら複数いるうちの一人だから気にもならない。

そんな事よりメリアルから自身の身を守る方が大事なのだ。墓標を建てられるのは勘弁願いたいのである。


「よく分からないけど、もう行ってもいいかな?」

「おう、いいぜ」

「ほら行くよメリアル」


リヒトに促されるメリアルに、ブライドは興味深く観察する。

あの男には逆らえないところを見るに彼氏か?いや、そんな感じはしないな。何か弱味でも握られてんのか?うん、それはあり得そうだとブライドが一人頷いていると、すれ違いざまにメリアルが一言言葉を残していった。


「今度、ドリゲロスをプレゼントするわ」


その言葉に冷や汗が出たブライドは足早にその場を離れた。


「まったく、メリアルからは怖くて目が離せないよ」

「大丈夫よ。上手くやるから」

「そういう事じゃないんだけどね!?」


何もしでかさないで欲しいって意味なんだけどなとリヒトは視線を遠くに投げた。

すると、食堂には庭がありガラス張りの為中から庭が見えるのだが、そこには若い男女が何やら揉めているのが目に入った。


「(どうしたんだろ?)」


男女は此方に背を向けている為、顔がみえないので顔見知りかも分からないが、決して穏やかな雰囲気ではなさそうだ。

食堂にいる他の人達は特に気にする様子もなく、観察しているのは自分の他に数人いる程度であり、仲裁するような人はいなさそうだった。


「ただの痴話喧嘩でしょ」

「へ?あ、メリアルも気付いた?」

「貴方が見てれば嫌でも気付くわ」

「そっか。ちょっと険悪そうだから大丈夫かなって思ってさ」


心配そうに男女の様子を伺うリヒトに、メリアルは立ち上がりその男女の元に向かった。

突然の事にリヒトは驚き、慌ててメリアルの後を追う。


「待ってメリアル!どうするつもり?」

「別に。少し目障りだから一言言うだけよ」

「目障りって…。でもそうだね。仲裁した方が良さそうだね」


メリアルが中から庭に出れるドアを開けた瞬間、男が女に手を挙げた。


「きゃ!」


リヒトがその女性を庇おうと走りだすと、メリアルは馬鹿ねと溜め息を吐いて指先を少しだけ動かした。


「!!…て、手が動かない!?」


男が宙に浮いた状態の手を振り下ろそうと踏ん張るが、手はピクリとも動かない。

それもその筈、メリアルが魔法を使ったからである。


「君、大丈夫?」

「あ、はい…大丈夫です…」


リヒトが女性に近付き男から距離を取ると、メリアルは魔法を解いた。

急に手が自由になった男は反動で前に転んでしまい、その目の前にメリアルが見下ろす様に立った。


「な、なんだよお前!!いでででで!!」

「メリアル!?」


メリアルは男の頭を踏み付けてグリグリと足を動かしており、男が悲鳴をあげている。

リヒトが驚いてメリアルを後ろから羽交い締めにして引き離すと、メリアルに舌打ちされた。


「ちょっと!?何してるの!!?」

「頭を踏み付けてるのよ」


何か文句でもある?とでも言いたげなメリアルに、リヒトは目眩がした。


「それは見れば分かるから!やり過ぎだって!!」

「煩い男ね。ほら貴女もどうぞ」

「え!?い、いいです!!」


メリアルが女性に頭を踏み付けるように促すと、女性は全力で拒否をした。そして顔は完全に引いている。

そんな女性にメリアルはジッと女性を見る形で考え込む。

自分に手をあげようとした男なのに、何故拒否をするのか理解出来ないからだ。


「貴女が代わりにしてくれたので十分です。ありがとうございます」


言葉を選びながら女性はメリアルにお礼を述べてニッコリと微笑み、それと…と言葉を続けた。


「プライドの高い人だったから、もう再起不能みたいなので私がやるまでもないですから」

「確かにあれは立ち直れないね…」

「代わり?違うわね。貴女の為じゃなくてストレスを発散しただけよ」


メリアルの発言にリヒトと女性は驚きの表情のまま固まった。

そんな二人を見て、どいつもこいつも自分の都合のいいように解釈していい迷惑だとメリアルは思いながら泣いている男に情けないと視線を向けた。


メリアルからしたらブライドへのムシャクシャした気持ちを、偶々目の前に踏みやすい頭があったから、そこにぶつけただけなのである。

何時ものように他に他意はなく、自分のしたいように動いただけであるから感謝されても嬉しくない。


「…はぁ。何でいつも派手にやるかな…」

「いつもですか…。心中お察しします」

「ありがとう…」


ガックリするリヒトに女性は同情の言葉をかけた。いつもという言葉とこの状況で察したからだ。

リヒトはやれやれといった様子で男に近付き、笑顔で手を差し伸べた。


「悪いけどあんまり大事にしたくないんだ。君も自分の悪評が流れたら困るでしょ?だから分かるよね?」


それを聞いた男は震える手で立ち上がり、何度も何度も頷きながら女性には目もくれずに、駆け足で庭から出ていった。


「(あの人はあの人でヤバイ人だわ…)」


女性は内心戦慄しながら二人に再度お礼を述べて、自身も足早に立ち去る。その場に残されたメリアルとリヒトは元いた席に戻ると見慣れた二人が座っていた。


「はろーん!メリアルちゃんにリヒト!」

「また派手にやってんな」

「見てたんだ…」


シャロンとイアンの二人がニヤニヤとしながら二人を出迎えた。勿論先程の光景はバッチリ観察済みである。


「いやー、頭を踏み付けるなんて痺れるな」

「女の人を助けてあげるなんてカッコイイねっ!尋問会の件も人助けしたからでしょ?」

「別に、どっちも目障りだったから」

「またまたぁ〜。素通りや無視も出来たのに、しなかったのはメリアルちゃんが優しいからだよぉ」


ニコニコと笑いかけてくるシャロンにメリアルはモヤっとしたので、シャロンの左頬を抓った。


「いひゃいよーメリヒャルひゃん」

「はは!気に入らなかったみたいだな」

「メリアル離してあげなよ。イラっとしたからって手を出したら駄目だって言ってるでしょ」

「煩い」


ふいっと手を離し顔を逸らすメリアルに、開放された左頬を摩りながらシャロンが口を開いた。


「ねぇねぇメリアルちゃん。次の水の週の週末って暇だったりする?」

「何で?」

「城下町に一緒に買い物行こうと思って!」

「一人で行けば」

「メリアルちゃん冷たぁ〜い。シャロンはメリアルちゃんと行きたいのに」


ねぇねぇとしつこいシャロンの今度は両頬をメリアルは抓った。痛い痛いと騒ぐシャロンに少し楽しくなったメリアルは抓った頬を動かして遊び出した。勿論無表情で。


「メリアルそれぐらいにしといてやれよ。シャロンの顔が面白い事になってるから」

「買い物ぐらい行ってあげたら?メリアルの部屋、殺風景だし何か買い足しておいでよ」

「興味ないわ」

「はいはい!ならシャロンが選んであげるよぉ」


どう?名案でしょ?と言いたげに手を上げながらメリアルに同意を求めるも、却下されていた。

メリアルからしたら部屋は寝れたらそれで充分なので、女性が好きそうな小物とかには全く興味がない。研究の材料で欲しいものはあるけれどと考えて、そこでふとメリアルはシャロンの顔を見て魔法は使えるかどうかを尋ねた。


「へ?魔法は使えないこともないけどぉ…」

「防御魔法は?」

「出来るけどなんで?」

「一緒に出掛けたいんでしょ。ダンジョンならいいわよ」


そう言うメリアルにシャロンの顔の血の気が引いた。

うら若き乙女が何が悲しくてダンジョンに行かなきゃいけないのかとシャロンが断ると、メリアルは「なら無理ね」と興味なさそうに欠伸した。


「ダンジョンって…。俺でも嫌だぞ」

「何故?アイテムを入手するには自分で倒すのが一番安上がりよ」

「いや、まずアイテム欲しい時がないからな」

「そうだよぉ!だからシャロンと一緒に洋服買いに行こうよー!」


引き気味のイアンにシャロンが同調する。シャロンとしてはメリアルの服を選んだりするようなお出掛けに行きたいのだ。折角可愛いのに、大して身だしなみを気にしないメリアルをもっと可愛くしたいからである。


「シャロン、無理強いは良くないよ。メリアルは君にダンジョンに行くのを強要してないでしょ?」

「そうだけど…」

「メリアルが同行を許可してくれただけでも、俺は凄いと思うけどね」

「おい。その解釈はちょっとどうかと思うぞ?」


リヒトが自分の解釈をシャロンに伝えると、シャロンは目を輝かせてメリアルを見た。その視線を鬱陶しそうに顔を背けるメリアルと、一人だけ疑問を覚えるイアンだった。


「メリアルちゃん!私ダンジョン行くよっ!だから買い物にも一緒に行こうね!!」


メリアルの手を取り満足そうに言うシャロンにメリアルは顔を引き攣らせた。そして元凶のリヒトを睨み付けるも、本人は気付いてない振りをしていた。

メリアルの視線には、体良く断わったのに何で面倒な事にするだという怒りが込められている。


「水の週の6の日にダンジョンで、7の日に買い物行って来たら?俺が申請出しといてあげるよ」

「勝手に…」

「うん!それでいいよぉ!あ、そだ、ダンジョンはリヒトも着いてきてよっ。女の子だけじゃ危ないし」

「そうだね。じゃあ俺も行くよ」


文句を言おうとしたメリアルの声にシャロンが被ったのでかき消されてしまった。勝手に決めるなと言いたかったが、シャロンはもう完全に乗り気であるから、ここで水を差すと煩くなるのが目に見えている。


「……どんまいだな、メリアル」


深い溜息を吐くメリアルにイアンが憐れみの眼差しで励ましたが、メリアルからしたらそれすらも鬱陶しかったようで舌打ちが返って来ただけであった。


「それでダンジョンには何が狙いなの?」

「……はぁ、キングスケルトンよ」

「え?キングスケルトンって…?シャロン嫌な予感がするんだけどぉ…」

「あー聞いた事あるな。ほらジャスが言ってた骸骨の話、お前も聞いた事あるだろ?」


リヒトの問いにメリアルは渋々呟いた。それに反応したのはイアンとシャロンだ。ジャスというのはイアンとシャロン共通の友人で冒険者をやっている男なのだが、その人物からキングスケルトンについて話を聞いた事があるらしく、その内容を思い出したのか青ざめた顔でメリアルを見ている。


「メリアル…それはいくらなんでも危険だよ」

「別について来なくていいわ。一人で十分だから」

「いやいや、そっちのがもっと危険だって。上級クラスの冒険者が苦労するモンスターだよ?」

「あれに手こずるのは弱いからでしょ」


事も無げにサラリと言ってしまうメリアルに、逆にシャロンは勇気を貰ったようで「メリアルちゃんがそう言うなら平気だよね!」と元気を取り戻した。


「まぁホワイトドラゴンを一人で何匹も倒しちゃうぐらいだから、大丈夫だとは思うけどね」

「は!?マジで?ヤバイな…。今度ジャスに教えてやろうぜ、シャロン」

「やめなよー。自信無くしちゃうだけだってばぁ」


イアンに軽蔑の目を向けた後に時計を見てシャロンは目を見開いた。どうやら休憩し過ぎたようで、慌ててイアンと共に自分達の研究所に戻っていった。


「相変わらず騒がしいわね」

「でも一緒にいて楽しいでしょ?」

「別に」


椅子から立ち上がり出口に向かうメリアルに、リヒトは素直じゃないなと肩をすくめるのだった。



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