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16.ドリゲロス

メリアルが食堂に訪れると「あ、メリアルさん!」という声が聞こえてきたので、声の主を探すも視界にはそれらしき人物は見当たらない。

気の所為だと思い食事を貰いに行こうとする足を再び前に出すと、再び同じ声が聞こえてきた。


「僕です!リーツです」


人の中から出て来たのは、外見は女の子に見えるけど実は男の子であるリーツだった。背が低い為に見えなかったらしい。


「先日は本当にありがとうございました!」

「別に。貴方の為じゃないから」

「今からご飯ですか?」

「えぇ」

「僕も今からなので一緒に食べましょ!」


目をキラキラさせているリーツに、拒否権なさそうねとメリアルは諦めの溜め息を吐いた。

リーツなら気を使う必要もなければ、話を聞かない(いい風に変換される)ので同じテーブルに座るぐらいならとメリアルは自分に折り合いをつけた。


「今日はリヒトさんいないんですか?」

「いつも一緒なわけじゃないから」

「そうなんですね。あ、あそこ空いてるんであそこに座りましょ」


食事を受け取った後に窓際のテーブルに移動して座り、食事を取りながらリーツの話を聞き流していると、一人の男が此方に近づいて来てリーツの頭をグシャグシャに撫でた。


「よっ!一丁前にデートかぁ?」

「わっ!ブライド!急に止めてよね!!それにデートじゃないから!」

「分かってんよ。どう見てもお前は女の子だもんな」

「男だよ!」


リーツの頭を撫でた男は芝のような緑色の長い髪で、遊び人って言葉が似合いそうな派手な男である。

二人の騒がしさに眉を顰めていると、ブライドと呼ばれた男がメリアルに気付き挨拶してきた。


「どうも。俺はブライドってんだ。あんた可愛いね!名前は?」

「……」

「ちょっとブライド!どっか行ってよ!」

「いいじゃんいいじゃん。俺も仲間に入れてくれよ」


無視を決め込むメリアルを気にして、リーツがブライドをグイグイ押しても体格差から敵うはずもなく、ビクともしない。

ブライドはリーツを軽くあしらいながら再びメリアルに向かって声を掛けるも無視をされた。


「あんたさぁ、いくら可愛いからってお高くとまってると人が離れてくぞ?」

「メリアルさんに失礼だよ!もぅ、早くあっち行ってってば!!」

「ちょっとリーツ黙れって。なぁ聞いてんのかよ?」


しつこく絡んでくるブライドに、メリアルは溜め息を吐いて立ち上がった。そして上から見下ろした状態で口を開いた。


「その頭、ドリゲロスみたいね」

「ぶっ!」

「は?ドリゲロスって何だよ…。おいリーツ!テメェ何笑ってやがる!」


思わず吹き出したリーツにブライドの目が向いたのを見計らいその場を離れたメリアル。

ドリゲロスとはティラノザウルスをもっと小さくしてずんぐりむっくりにした、醜い二頭身のモンスターで頭から背にかけて緑色の苔のような毛が生えているのだ。


メリアルが出口に差し掛かった所でドリゲロスが何か聞いたブライドが怒った様子で追いかけて来て肩に手を掛けたので、メリアルは条件反射で薙ぎ倒し魔法で床に縛り付けてしまった。


「うわっ!何だコレ!!」

「もぅ!こないだ話したでしょ?メリアルさんは僕を助けてくれた人だってば!」

「何!?あの墓標の女か!早く言えよな!」


墓標の言葉にピクリとメリアルが反応した。


「あれを見たの?」

「ブライドはあの後、僕を探しに来た時に見てるんです」

「そう。あれが墓標だと良く分かったわね」

「は?あんな気味悪い蝋燭の立て方してたら嫌でも分かるだろ」


影縛りの魔法でぐるぐる巻きにされているブライドは吐き捨てるようにそう言い放った。

成る程、中々いい性格してるわねとメリアルは内心ほくそ笑んだ。


「貴方のも建ててあげるわよ?墓標」

「いらねぇよ!これ解けよな!前回ので学べねぇのかよ」

「学ぶ?大丈夫よ。上手くやればね」


ほんの少しだけ口の端をあげたメリアルにブライドは背筋に冷や汗が流れた。本能が叫んでいる。こいつには逆らうなって。


「とんでもねぇ女だな全く」

「どうも」

「褒めてねぇよ」

「迷惑かけてごめんなさい。でもこんな奴だけど、僕が絡まれてないか気にしてくれるいい奴なんです」


リーツが間に入りブライドを解放してくれるように頼むと、メリアルは魔法を解除した。

それにホッとするリーツと、ようやく自由になり体を動かすブライドにメリアルがポツリと零した。


「他人には見えないようにしてたから、側から見たら貴方が一人で地べたに這いつくばっているように見えたかもね」


くるりと背を向けて食堂を後にするメリアルの背中には、ブライドの叫びが飛んで来たが振り返る事もなく研究所に戻った。


「ちくしょう!上手くやればってそういう事かよ!」

「メリアルさんに敵う人なんて居ないって。ほら僕らも行くよ。そろそろ戻らなきゃ」

「たくっ、分かったよ」


ブライドもリーツに促されて自身の研究所へと足を進めた。次会ったら極力関わらないようにしようと心に決めて。




☆★☆★☆★☆★☆




「おはよ〜。そう言えば王の注文品は出来たかい?」


メリアルが研究室に戻るとリヒトは居らず、ガイアだけだった。

ガイアは机に置かれた地球儀をクルクル回して思い出したようにメリアルに投げ掛ければ、嫌そうな顔で舌打ちされた。


「煩い」

「その様子だと苦戦してるようだねぇ」

「あの男、無茶振りもいいとこだわ。期限がないだけマシね」

「なんて言ったってこの国の王だからね。まぁ気に入られといて損はないよ!」


ニッコリと笑うガイアに一瞥をくれた後、メリアルは自分の席に座り書類を取り出してペンを走らせた。


「あれ?無視かい?も〜そんなメリアルに伝言を伝えちゃおっかな」

「伝言?誰から?」

「王からだよ。注文の品は今週までにだってさ!」


その言葉にメリアルの目に殺意が宿ったので、すかさずここでやっていいからとガイアはフォローを入れると、何とか気持ちが落ち着いたようだ。

僕が八つ当たりされるのは勘弁だからねぇ。


「いつか息の根止めてやる」

「物騒な事言わないでよ〜。ここも一応城内なんだからさ」

「はぁ、材料持ってくるわ」

「行ってらっしゃい」


ヒラヒラと振っていた手をガイアは静かに降ろして、深く息を吐いた。


本当は明後日にはって言われたんだけど、それは流石に僕の身が危ないから今週一杯に引き延して貰ったんだよねぇ。

まぁでも、メリアルならそれぐらい容易に出来そうだけど、何をそんなに行き詰まっているんだろうね!ここでやってくれたらアドバイス出来るかも知れないし、お手並み拝見といこうかな!


「お帰り〜」

「あれ?メリアルその荷物どうしたの?」


メリアルが箱を抱えて戻ると、先程まで居なかったリヒトが戻って来ていた。


「ちょっとね」

「何か作るの?でも仕事中だよ?」

「いいのいいの!僕が許可したんだよ。メリアルは王からある品物を作るよう頼まれていてね。暫くは免除したんだ」


それを聞いたリヒトはある考えが過ぎった。それは罰則の件である。お咎めなしと言っていたが、その依頼こそが罰則なのではないかと気付いたのだ。

あの人のやりそうな事だと、リヒトは苦笑するしかなかった。


「手伝う事があったら言ってね」

「結構よ。八割がた出来てるから」

「残り二割はなにで手間取っているんだい?」

「それは…」


言葉を詰まらせるメリアルに二人は首を傾げる。

何故メリアルが言葉に詰まったかと言うと、高性能の物を作るのは難しくもあるがそう時間は掛からないで作る事が出来るのだ。

しかし今出来る最高の物を王とはいえ、他人に渡してしまうのは些か頂けない。まぁ腹立った事に対する嫌がらせにあたいすると言ってもいいだろう。


早い話、簡単に纏めると自分の持っている物よりは性能はいいが、最高と言うには多少質を落とした物を作ろうとしているのである。


「別に大した事じゃないわ。気が進まないだけで」

「案外手を抜いた物を作ってたりしてね」


リヒトの発言にメリアルは動かしていた手を止めてリヒトを見た。

何で分かったのだろうと不審な目を向けるメリアルの視線に気付いたリヒトは「え?当たり?」などと驚いたように聞き返している。


「えーそうなの?止めた方がいいよ!バレたら酷い目にあうからさぁ」


今迄に王の無茶振りにどんな被害を被ってきたのかを、ガイアが切々と語り出したがメリアルの耳には入ってこない。

あの男、惚けてはいるがあれは当てずっぽうな答え方ではなかった。確たる証拠はないが、メリアルの勘がそう訴えている。

なら何故分かったのか。それについて思考を巡らせていると不意にリヒトの顔が目の前に現れたので、考えを中断した。


「メリアルは分かりやすいよね」


メリアルにだけ聞こえるような小さな声でポツリと言ったリヒトを、メリアルは睨むも本人は気にする様子もなくガイアの話に入っていった。


「(分かりやすい?私が?)」


有り得ないと斬り捨てるのは容易いが多少なりとも心当たりがあるので、メリアルは反論が出来なかった。

やはり前に危惧したようにリヒトは要注意人物な男であるようだ。


幾つか出来た試作品を壊して一から作る事に決めたメリアルは、一旦考える事を止めて作業に集中する事にした。


「ーーーー!」

「ーーーール!」

「メリアルってば!」

「……何?」


作業に没頭していたメリアルに、リヒトの何度目かの呼び掛けで漸く反応を見せた。

その集中力には脱帽するけどねと肩を竦めて、メリアルの作業を中断させたら不愉快そうな顔で見られた。


「ずっとぶっ通しだから休憩挟んだら?」

「別に問題ないわ」

「いつもお腹空いたとか言ってるのに集中するとそうでもないんだねぇ。でも倒れられても困るから休憩行ってきなよ。リヒト連れてっていいからさ」


ガイアが資料から目線を外してそう言えば、メリアルは渋々ながら手に持っていた物を置いて引き出しにしまい扉に魔法を施した。ガイアに触られるのを危惧したようだ。


「一人でいい」

「そう言わずに行くよ、メリアル」


ヒラヒラと手を振るガイアに見送られて、リヒトに引き摺られるようにしてメリアルは食堂に連れてかれた。



最近リヒトに抵抗しても無駄だと思っているので大人しくしているメリアルです。

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