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15.ホワイトドラゴンの謎

時間になってもメリアルが来ないので、リヒトが部屋に探しに来るも中はもぬけの殻だった。

荷物があるので出て行った訳ではなさそうなので、別の場所にいるのだと思い探す羽目になった。

取り敢えず研究員が集まれる真ん中の部屋に移動した。


「あれ?リヒトさん。気難しい顔してどうしたんですか?」

「おはようチア。ねぇメリアル見なかった?」

「メリアル?あぁ、所長が連れてきた女の子ですね。私は見てませんけど…。カルメさん知ってますか?」


声を掛けて来た女性はチアという名前で、ゆるふわ系の可愛らしい女性である。

その隣で徹夜明けなのか、コーヒー片手に眠そうにしている大柄の男、カルメにチアは質問を投げかけた。


「んん??あー…それって濃紺の髪の可愛い子か?」

「多分それ!見た?」

「それなら生産室に入ってくのを見たぞ」

「生産室に?メリアルにはまだ教えてない場所なんだけどな…」


手を顎に当て考え込むリヒトにカルメは更に思い出したであろう情報を追加した。


「そうなのか?確か自分で開けて入っていったぞ」

「あー…そう来たか」

「?」

「ごめん、ありがとう!」


パスワード入力もメリアルの前では無意味らしい。

今度からもっと防犯に力を入れるようにガイアに伝えておこうと決めて、二人と別れ生産室へと向かった。


ピッピッピ

「OKっと」


生産室のパスワードを打ち込みドアが開いて中に入ると、今迄に見た事がないうっとりとした表情である一点を見つめるメリアルが目に入ってきた。


「(えっと…メリアルだよね…?)」


誰これ状態だが見た目はメリアルなので意を決して声を掛けようとすると、一人の研究員が半泣きでリヒトに駆け寄って来た。


「リヒト!助けてくれ!」

「どうしたの?ジルス」

「メリアルを如何にかしてくれ!」

「あ、やっぱりメリアルだよね。あれ」


ジルスから話を聞くに、突然押しかけて来たメリアルにホワイトドラゴンを出せと脅されたらしい。もうかれこれ30分程あの状態らしく、仕事が進まなくて困っているという事だった。


「メリアル。駄目でしょ邪魔したら」

「良くここが分かったわね」

「目撃情報があったからね。それで?何でここに?ていうか、パスワード良く分かったね」

「そう。ホワイトドラゴンが見たいと言ったら眼鏡が教えてくれたの」

「ガイアか…」


メリアルがハッキングした訳じゃなくてホッとしたリヒト。しかし何でまたホワイトドラゴンを見たいとメリアルは言い出したのだろうかと尋ねると、単純明快な答えが返ってきた。


「一番好きだから」

「…それだけ?」

「えぇ」

「なぁ、もういいだろ?仕事したいんだけど」


ジルスが割り込みもう勘弁してくれと言えば、少し残念そうな顔をしたメリアルにジルスは良心が痛んだが、仕事が滞る方が大変なので心を鬼にした。


「ダンジョン内のバランスを崩さない為にもドラゴンはあまり作れないから、止めてくれよな」

「……分かったわ」

「さ、戻ろうか」


珍しく何時もの調子ではなく、シュンとしてるメリアルにリヒトは可愛い所もあるんだなと思っていたのだが、普段の姿を知らないジルスからしたら自分が悪い事をした気分になるのである。

なのでジルスは「今度ドラゴン作る時は教えてやるから」と言ってメリアルの頭をポンっと撫でたのだった。


「約束よ」

「勿論だ!」


ニカっと笑うジルスの手をしっかり払い落としてから部屋を出るメリアルに、ジルスがキョトンとしていたのでリヒトがフォローしてからメリアルの後を追った。


「それにしてもホワイトドラゴンの何処がそんなに好きなの?」


その言葉にメリアルの眼が心なしか輝いたように、リヒトには見えた。


「あの存在感や威圧感は本物さながらよ。あの流れるような体のラインに王者の風格を表す強靭な角、獲物を一撃で仕留められる爪に英知溢れる厳格な瞳。どれをとっても素晴らしいわ。それに…」


先程見たよりは控えめではあるが、ほんのりと頬を赤く染めて興奮しているかの様に見えるメリアルは、珍しくペラペラと話し続けている。

内容はアレだが、今日のメリアルは色んな表情を見せてくれて可愛いな(本日二回目)とリヒトはほっこりしていた。


「ーーーー…よ。それと知ってるかしら?ホワイトドラゴンは………。何笑ってるのよ」

「はは、熱が入る程好きなんだなって。メリアルにもそういう物があったんだね」

「……少し話しすぎたわ」

「いいよ、もっと聞かせてよ。好きなんでしょ?」


優しくリヒトが微笑みながらそう言えば、メリアルは少し恥ずかしそうにまたホワイトドラゴンの話をしだしたーーーーとはならず、不機嫌な顔になり黙ってしまった。

思わず我を忘れて語ってしまった自分に、自己嫌悪を感じていたからである。


「もういいの?」

「結構よ」

「それじゃあ、そんなメリアルにホワイトドラゴンの製作者に会わせてあげるよ」

「……在籍してるの?」

「勿論だよ」


少し機嫌の治ったメリアルを連れてリヒトがやって来たのはNo.00と書かれたいつもの研究室だった。

嫌な予感しかしないが、メリアルはきっと気の所為だといい聞かして中に入るも、やはりと言うか案の定そこにはガイアしか居なかったのである。


「ほら、製作者だよ」

「え?何々?」

「………」

「ねぇメリアル。話はよく分からないけど、僕を見るその顔は酷くないかい?」


今迄以上に嫌そうな顔を前面に出してるメリアルに、ガイアが苦言した。思わず突っ込んでしまう程にメリアルの顔は酷く、ゴキブリを素足で踏んでしまったという話を聞いた時に思わず想像してしまった時の様な顔をしている。


「あはは!凄い顔だね」

「それで?メリアルがこんな顔してる理由は何だい?」

「メリアルがホワイトドラゴンが一番好きだって言ってたから、製作者に会わせてあげるよって連れて来たんだよ」


メリアルの予想通りの反応が見れてリヒトはとても満足そうだった。意外に酷い事してくれるなとガイアは苦笑する。

何故ならこれはリヒトが楽しいだけで、メリアルもガイアもいい迷惑なのである。普通に教えればそれで済んだ話なのにだ。


「それは光栄だなぁ。アレは僕の自信作なんだ!君の言う本物に近かったかい?」

「…貴方も見た事ある癖に」

「いいや?伝説級の生き物だからね。僕みたいな汚い大人の前には現れないんでしょ?」

「見た事なければアレは作れない」

「本物に近いようで良かったよ」


ニンマリと嘘臭い笑顔で笑うガイアにメリアルは苛立っていた。何故はぐらかす必要があるのかと。

そこでメリアルは、ふとある考えに辿り着く。この男は自分を苛立たせて遊んでいるのだと。ならばそれに乗るのは面白くないと一瞬にして冷静になったメリアルに、ガイアは残念そうな顔をした。


「どうでもいいわ、未完成なんだから」

「未完成?ホワイトドラゴンが?」

「そうよ。私はあれ以上のドラゴンを作るわ」

「そうかい?なら、楽しみにしてるよ!」


何にせよメリアルがやる気になってくれたなら良かったとは思ったが、ホワイトドラゴンが未完成とは聞き捨てならない。

自信作どころか今のところガイアにとってホワイトドラゴンは最高傑作に等しいのだから。

しかし未完成とメリアルが言うことにも一理ある。何故ならホワイトドラゴンは喋らないからだ。

モンスターなのだから当然だろうと言われたらそれまでだが、ガイアの目指す先は話す事が出来るドラゴンの製作である。


「(メリアルもまた同じ考えなのだろうねぇ)」


珍しく核の製作をしているメリアルを横目で見ながら口の端を上げるガイアだった。


「ホワイトドラゴンと言えばさぁ、一時期数が急に減ったよね」

「ああ、そう言えばそんな事もあったね」

「急に冒険者が強くなったのかな?って思ったけどある日ピタリと止まったから違うんだろうねぇ」

「あれは今でも最大の謎だよね。あのホワイトドラゴンが短期間で半数倒された時は研究所内で激震が走ったからね」


リヒトとガイアが思い出話をしてるのを聞いていたメリアルは、ふと作業していた手を止めて何かを思い出す素振りを見せた。

それに気付いたリヒトが声を掛けると、「もしかして」とメリアルが言い出したのはホワイトドラゴンが狩られた時期だった。


「そうだけど…え?何で知ってるの!?」

「やっぱり…」

「やっぱりって何か知ってそうだねぇ。そりゃそうだよね!大好きなホワイトドラゴンの事なら、メリアルは把握してそうだしね!!」


その言葉にメリアルはガイアをギロリと睨んだが、フイッと顔を逸らして作業を再開しながら口を開いた。


「それ狩ったの私だから」

「「え!?」」

「もしかしてメリアルが一人で?」

「ええ」

「何で!?好きなんだよね?」


ただの解剖ならば1匹で良い筈なので、リヒトが理解出来ないといった顔でメリアルに詰め寄った。


「目が必要だったから」

「目って…確かドロップアイテムとして魔法石だったよね」

「そうだよ。成程ねぇ、それを君の作る装置に使用するために狩ったんだ」

「でもホワイトドラゴンの討伐って難しいんじゃ…」


現時点でのホワイトドラゴンの数は20匹だ。各地に存在する無数のダンジョンの中から、上級者向けの限られたダンジョンにしか生息していないのだが、手練れの冒険者パーティも倒すのにはかなり苦労すると言う話である。

そして倒されたら追加しなければならないので、情報が入る仕組みになっているにだが、今までにホワイトドラゴンが倒されたのはリヒトが知る限り15匹で、今日の話を聞くにうち10匹はメリアルと言う事になる。



「魔法が使えればどうって事ないと思うけど」

「いやぁ男前だね。メリアルの実力ならパーティーに引っ張りだこだよね」

「え、待って!つまり冒険者が倒した数より、メリアルが一人で倒した数のが多いって事!?」

「リヒトがここに入ってからの討伐数で言ったらそうなるよね」


ガイアがのほほんと空になったカップにコーヒーをつぎ足しながら事もなげに言った。まるでそれぐらい倒せて当然とでも言う様な口ぶりであるが、リヒトにはホワイトドラゴンをましてや一人で倒す事は不可能に近い。

あれを一人で倒すには普通の魔法ではまず太刀打ち出来ないので、禁じられた魔法か超高難度の魔法を取得しなければならないだろう。結論から言ってしまえばこの二人が人間離れしているという事になる。


「今度是非ともメリアルが一人で倒す所を近くで見て見たいね」

「別に構わないけど自分の身は自分で護ってね」

「え、護ってくれないの?」

「なんで護らなきゃいけないの?」


当然でしょとでも言いたげなメリアルに、リヒトはパーティーはメリアルに向いてないなと悟った瞬間だった。

きっとメリアルの事だから仲間が敵に襲われていても自分の邪魔をしてこなければ放置して行くんだろうなと、勝手な妄想をリヒトは巡らせていた。


「そもそも女の子に護ってもらってリヒトはそれでいいのかい?」

「何で?得手不得手があるのが人間だから俺は特に気にはならないよ」

「メリアルも同意見かい?」

「どうでもいい」


何故そんな質問をするのかと不思議そうにしているリヒトに、心底興味なさそうなメリアル。ガイアはそんな二人の反応に今時の子はこんなものなのか、それともこの子達が変わっているのかと頭を悩ませるのであった。



メリアルの恍惚の表情にリヒトが若干引き気味の図がこの話の中で一番好きです。

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