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14.尋問室

重厚な扉の前に立ちふわぁと欠伸をするメリアルにリヒトが注意をするが、そもそもメリアルからしたらこの場所に拘る理由はないので緊張感はないのは当然である。

ここを追い出されたらブルシュック博士の元に戻るだけなのだから。


「いいかい?メリアル。今日は異例中の異例で上部の人間が来ているんだ。だから粗相があってはいけないよ?」

「ふぅん」

「え…?何でまたこんな場に?」


ガイアの言葉にメリアルよりもリヒトが驚きの声を上げた。尋問会に王はもとより上部の人間が立ちあった事は今までにないからだ。

いつも決まった人物がこの場を取り仕切っている。と言ってもそんなに回数は行われてはいないが。


「何でもメリアルに興味があるみたいだよ。なんでかは知らないけど…と時間だ。メリアル、君は余計な一言言わないよう気を付けるんだよ」

「………」

「お願いだから大人しくしててね。無事に終わったら特上の果実取り寄せてあげるから」

「分かった」


間髪入れずに頷いたメリアルにリヒトは胸を撫で下ろした。大分扱いが慣れて来たねとガイアは内心微笑みながら重いドアを開けた。


「モンスター研究所所長、ガイア・デンブルクがメリアル・レティシアを連れて参りました」

「うむ、これにて両者揃ったな。では始めるぞ」


部屋の中には白く長い髭を生やした老人が取り仕切るように真ん中に立っており、ガイア達の反対側には別の研究所所長である男と昨日の女達が此方を睨むように立っている。

リヒトはこの件に関して部外者になるので、中に入れず扉の前で後から来るリーツと共に待機である。


「(眠い)」


女達の視線など気にもならないメリアルは、手持ちぶたさに視線をずらすと、老人の奥に特別に用意されたであろう椅子に座る1人の男とメリアルは目が合ったが、直ぐに逸らした。

艶やかな京紫の髪と瞳の男は若く見えるが、歳は結構いっている。魔法や薬で若さを保っているのだとメリアルには直ぐ分かった。


「(上部の人間?あれは…)」


その男は上部の人間ではなく、正真正銘のこの国を統べる唯一の王、フォルモント・ライトニア・ロキスラン・ルフェール=トルス・ブリアビーズ・リドル・ゲシュテルンであるがあまり表に顔を出さないので、知っている者は少ない。

名前がこんなに長いのは前国王の名が入っているからであり、全部入れると長くなりすぎるので前国王五人までといった笑える決まりがあったりするのだが、あまり知られてはいない。


勿論メリアルは王と面識がなく、顔も知らないのである。

しかしながら何故分かったかと言えば、フォルモント王の小指に嵌められたリングは魔法がかけられており、目に付かないように(着けてるのに目に入らず気にならない)してあるのだが、メリアルの身に付けてるピアスには物にかけられた魔法を見破る効果(一時的な魔法はあるが常に発動する物は存在しなく、メリアルのオリジナル作品である)があり、それをハッキリと見て取れる。


そこには王の証である宇宙石レグルスという宝石が埋め込まれている。ほぼ見つからない貴重な宝石でこの国の王しか着ける事を許されていないのだ。

それはまるで星空のように黒い石の中に光が瞬いている不思議な石なので見ればすぐ分かるようになっている。


「ーーーーこの者は突然現れて彼女らに魔法による危害を加えたと聞いている。相違ないな?」


考え事をしていた所為で話を聞いて居なかったが、まだ最初の方だと意識を戻したメリアル。しかし相手の所長による問い掛けが誰に対して聞いているのか分からず、ガイアに視線を向けたら答えるようにと頷かれた。


「えぇ、間違いないわ」

「ふむ、何故そのような事をしたのかね?」


それを聞いた老人がメリアルに問うが、下手なことを言われては堪らないという事でガイアが口を開いた。


「それは僕が代わりにお答えしようかな。彼女が魔法を使用したのには理由があってね、何でも其方のお嬢さん方が1人の人間に向かって危害を加えていたと聞いているんだけど、君達心当たりないかな?」


ガイアが向かいに立つ3人の女性達に刺すような視線を(勿論笑顔で)送るとビクッと体を震わせているが、相手側の所長は顔色を変えていない所を見るに知らないのだろう。


「そのような話は聞いておらん。苦し紛れの戯言をぬかすな!」

「戯言ねぇ。この場で僕がそんな真似をすると、本気で思ってるのかい?」

「なに!?」


挑発するような笑みに相手側の所長は青筋を浮かべている。やはりガイアは人を苛立たせる天才だとメリアルが思ったのは言うまでもない。


「ガイア・デンブルク、其処まで言うのなら証拠はおありでしょうな?」

「勿論ですともザンベル総括長。証人がいますのでお招きしても宜しいですかね?」

「許可しよう」


にこやかな笑顔のままガイアが扉を開けると、リヒトに連れられたリーツが緊張した面持ちで入室すれば、女性達がざわめいた。

リーツがこの場に来るはずがないと踏んでいたのだろう。見る見るうちに青ざめていく顔が面白くてメリアルは口の端を上げた。


「そなたの名前は?」

「は、はい!リーツ・リベリアです」

「ではリーツ・リベリアに聞こう。この者達に危害を加えられたというのは本当か?」

「…はい、本当です。と、突然呼び出されて罵声や手をあげられました…」

「成る程。ではそなたら三人に聞こう。この者の言う事に相違はないか?」


ザンベル総括長がリーツから女性達へと視線を移すと、三人は青ざめた顔を見合わせている。それを見兼ねた相手側の所長が一歩前に出た。


「そんなものデタラメだ!我が研究所にはそんな程度の低い者はおらん!」

「口を慎みたまえフェルメール・ファルガー。わしはその子らに聞いているのだが?」

「っ、失礼致しました」


ザンベル総括長の厳しい視線に口を紡ぐフェルメール。

フェルメール・ファルガーは病菌研究所と治癒薬研究所の二つを受け持つ所長である。

病菌研究所では病気や流行病などの菌の特定や性質などの研究をしており、治癒薬研究所で同時にそれに対抗する薬の開発などを担っている。

なので二つの研究所は隣接しており、連絡通路で繋がれている。


因みに魔法を使用して作られる薬は、魔法薬研究所という別の管轄になる。

フェルメールの研究所では魔法が使えない研究者が集まる場所になっているのだ。他にも魔法が必要ない研究所はいくつか存在する。

これには王の考えで魔法を活用するのもよいが、魔法に頼らず人類の英知を高めるのも必要だとの事で、両方共に重きを置かれているのである。


「どうかね?」

「あ…、わ、私は頼まれただけでっ!ユリナラがあの子を痛めつけようって!」

「ちょっ!何言って…!!」

「私も仕方なく!!本当はやりたくなかったんですけど、ユリナラが…」


この空気に耐えられなくなった三人の内の二人が罪を告白した事により、真ん中に立っていた金髪を二つに結んだ縦ロールの女性に視線が集まった。

やはり聞かされていなかったフェルメールは苦虫を潰した顔をし、ユリナラ達を睨んでいる。恥をかかせやがってといったところだろう。


「ザンベル総括長。これでメリアルが何の理由もなく危害を加えてないと分かって頂けたでしょうか?」

「うむ。しかしながら魔法の使用は規則を破っておるから無罪放免とは行かぬぞ。メリアル・レティシア、人を助ける為にあれはやり過ぎではないのか?」


蚊帳の外状態だったメリアルは急に話を振られて半分寝ていた脳を叩き起こした。余計な事を言うなとリヒトに念を押されており(特上な果実が待っている)、どうしたもんかと少し考えた後に口を開いた。


「……罪を犯した人間に情けは必要とでも?」

「なに?」


一応メリアルはこれでも言葉を選んだつもりなのだが、メリアルの言葉にあちゃーとリヒトやガイアは頭を抱えた。


「……申し訳ありませんザンベル総括長。メリアルは些か言葉が足りないので簡潔になっていますが、本当は「困っている人をみたらつい力が入ってしまった」と言う事です」


冷や汗を流しながらフォローするガイアに、「それは無理がある!」と全員の気持ちが一つになった瞬間だった。

するとそこに笑い声が聞えてきて全員そちらに顔を向けると、声の主は奥に座っていた男だった。


「おっと失礼。愉快な物を見せて貰った礼にメリアル・レティシアは私が預かろう。彼女らの処罰はザンベルに任せる」

「承知いたしました」

「お前達は此方について来い」


ずっと静観していた男(フォルモント王)が立ち上がり、言われた通りにその後ろをガイアとメリアルが着いて部屋を出た。


「この部屋でいいだろう。其処に座れ」

「失礼します」

「………」


城の内部である尋問室から少し離れた場所に案内された部屋は、煌びやかな装飾品が飾られた上品な一室であった。

メリアルとガイアは促されるままにソファへと腰を降ろして、向かいに座った男へと目を向けた。


「さて初めましてだな?私が誰か分かるかね?メリアル・レティシア」

「えぇ、フォルモント王でしょう?」

「ご名答。やはり噂通り優秀なようだな」

「………」

「あ、僕だよ。メリアルの話したら陛下が興味持っちゃってね〜」


フォルモント王の耳に入るような成果を出した記憶はないとガイアを見れば、あっけらかんとそう言われた。


「何処を見て私が王だと分かった?」

「小指の指輪にある宇宙石レグルスは王の証だから」

「ほぉ、魔法をかけてあるのだが君の前では無意味のようだな。何を隠し持っている?」


メリアルは面倒な事に巻き込まれたなと内心溜息を吐いたが、王の前で憮然な態度を取るのが得策ではない事ぐらいメリアルにも分かるので、渋々右耳に付けていたピアスをテーブルの上に置いた。


「これは?」

「不可視の魔法はこれを身に付けてる者には無効になるわ」

「へぇ、便利な物持ってるね。僕にも作ってよ!」

「絶対嫌」

「もー、冷たいんだから」


ブーブーと文句を言うガイアにツンとした態度で返すメリアルを、フォルモント王は興味深そうに見つめており、些か居心地が悪いメリアルは目を逸らす処かフォルモント王を真正面から見つめ返す事にした。

そうすれば向こうから逸らすか何かしらのアクションがあると思ったからである。


「そんな熱烈な視線を送られても女は間に合っているのでな。取り巻きにはいれてやれんぞ」

「誰が貴方に。絶対ないわ」

「駄目だよメリアル。嘘でも「残念です」ぐらい言っとかないと」

「………ザンネンデス」

「くっくっく、冗談だ。気にするな」


何とも迷惑な男だが王なので手は出せない。本当は死ねぐらい言ってやりたかったが堪えた私の気持ちを返せとメリアルは内心悪態を付いていた。

愉快そうに笑うフォルモント王は見た目を若くしているのもあり、それに合せているのか定かではないが、発言や態度が若いのでパッと見では誰も王だとは思わないだろう。

しかし稀に見せる表情や存在感は王の威厳を感じるので、わざとそうやって振る舞っているのだろう思うが定かではない。とにかく一つ言える事はガイアと仲が良さそうな時点で性格は悪いと言える。


「そんで?メリアルの処罰はどうするつもりだい?」

「ああ、そうだな。それ以上の性能の物を私に作れ。それでこの件はお咎めなしにしてやろう」

「これ以上の?…付加価値をつけろって事?」

「そうだ。材料は言えばこちらで用意してやろう。どうだ?軽い処罰だろう」


にんまりと笑うフォルモント王にメリアルは内心舌打ちをした。

軽い処罰とは良く言ったものである。いつだって身に付けている物が最新であり、高性能なのだがそれ以上の物を作れと言った上で、更に付加価値をつけろだなんて好き放題言ってくれる。

しかもここでの付加価値とは王が身に付けるに相応しい外見にしろという事だけでなく、別の効果もつけろという事になってくるとより話が難しくなってくるのだが、何を言っても結局やらされるだけなのは目に見えているので渋々了承する羽目になったのである。


「(簡単に言ってくれるわね)はぁ、分かったわ」

「天才ならそれぐらい大した事ないだろう?」

「陛下はドSだから気を付けた方が良いよ!僕もこの無茶振りにどれだけ泣かされたことか…」

「ほう」

「はは、嫌だなぁ。冗談だよ冗談!これで処罰も決まった事だし、心配してる子もいるんでね、失礼させて貰うよ」


そう言ってそそくさと立ち上がりメリアルの背を押しながらガイアは王の前から退散した。

あのままいたら自分にも無茶な要求してきそうだったからである。そうなりかけたのは自分の所為なのだが。


「ふー、危ない危ない。さっさとこの場を離れよう」

「えぇ」


尋問室近くまで来ると待っていたリヒトとリーツが二人の元に近寄って来た。


「ガイア!メリアル!大丈夫だった?」

「問題ないよ、お咎めなしだったからね」

「本当に!?それで済むとは思えないけど…」

「あのお方って誰なんですか?偉い人みたいでしたけど…」


リヒトも王を知っているのだが、リーツだけが知らないので疑問を口にする。だが安易に王だと教える訳にもいかないので、ガイアが誤魔化した。


「偉いのなんのって王に近いお方だよ」

「え!?そんな人が来てたんですか!」

「吃驚だよね。こんな尋問会に来るなんてさ」

「でも良かったです!メリアルさんがお咎めがなくて!!」


キラキラした笑顔をメリアルに向けてくるのだが、お咎めがないどころか面倒な罰則を押し付けられたメリアルからすると、全然良くないのである。

何故ガイアがお咎めなしと言ったかは定かではないが、他人には関係なければ力になり得ないので、正解だったのかも知れないなとメリアルは思ったのだった。


「無事に終わって良かったよ。メリアルの発言に肝が冷えたけどね」

「あれね!いやぁ、ナイスフォローだったでしょ?」

「どこが!?」

「…あれでも言葉を選んだわ」


メリアルが疲れたようにそう言えば、三人から「どこが!?」と突っ込まれてしまった。


「あれでやり過ぎって言われるとは思わなかったわ。あんなの戯れたに過ぎない」

「それであんな事出来るなんて!メリアルさん、僕を弟子にして下さい!」

「断る」

「お、お願いします!僕強くなりたいんです」


懇願するリーツにメリアルは深く溜息を吐いた。


「貴方が魔王になると言うのなら考えるけど?」

「何言ってんの!?メリアル!」

「そ、其処までは…」

「リーツ君。メリアルもそうだし、君も研究者だ。仕事とは別の話になるわけだし、強くなるって力だけじゃないと僕は思うよ」


ガイアが諭すようにリーツにそう言えば、そうですよねと肩を落とした。


「御免なさいメリアルさん。僕が間違ってました。自分で強くならなくちゃ意味ないですよね!」

「…そうね」

「いや、そういう意味じゃなくてさ、本当の強さって精神面の事だと僕は思うんだよ」

「頑張っていつかメリアルさんを守れるぐらい強くなりますね!!」


そう言い残して頭を下げて行ってしまったリーツにガイアがうな垂れていた。


「僕の話、全然聞いてなかったよね…」

「だね。あれはメリアルの言葉しか聞こえないんじゃない?にしても魔王になるつもりならって本気で言ったの?」

「えぇ。だだ誰も魔王になって退治されたくはないでしょ」

「倒される前提なんだ…」


私が倒すからと言ったメリアルに、リヒトとガイアは身震いした。そのまま魔王になりそうで怖いからである。


「メリアルが魔王になったらこの世の終わりだね」

「うんうん。ドラゴンとか従えてそうだよねぇ」

「ならその時はモンスターをバックアップしてね」

「勿論!」

「いや駄目でしょ、何オッケーしてんの?」

「僕はいつだって面白そうな方につくから!」


親指でグーサインを出すガイアに、目眩がするリヒト。だがそこでふとある思いがよぎったのだが、口に出すのが可哀想になったので止めた。


「(そうなったらガイアが真っ先に狙われると思うんだけどな)」


知らぬが仏と言わんばかりに心の中で合掌するリヒトであった。



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