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10.騒がしい来客

翌日になり何者かが窓硝子をコツンコツンと叩いている音でメリアルは目を覚ました。

寝惚け眼を擦りながらのそっとベットから降りてカーテンを開ければ、其処には白いフクロウがいた。首を回しながら早く開けろといった様子で窓硝子を嘴で叩いていたのだ。


ガラッ

『さっさと開けなさいよネ。いつまで寝てるのよ、この寝ぼすケ!』


梟はメリアルが開けた窓から入り、さも当然のように喋ってはいるがれっきとした普通の梟である。決して人間が化けているとかではない。

もしそうだとしたら結界に阻まれて敷地内には進入出来ないのだ。なら何故話せるのかと言えば、梟に取り付けられた青い宝石が取り付けられた首輪のお陰である。


「煩い。羽を毟って丸焼きにするわよ」

『まっ!相変わらず口が悪いわネ!折角手紙持ってきてあげたのに失礼しちゃうワ!!』

「捨てといて」

『駄目に決まってるでしョ。ダーリンが気持ちを込めて書いた手紙なんだかラ!』


梟はワーワー騒いでいるが、メリアルはそれを無視して歩きながら服を脱ぎ捨てて(それについてもワーワー言われているが聞こえない振りをする)シャワーを浴びにいった。

何がダーリンなんだか。唯の飼い主とペットの関係であり、自分の方がサッサと死んでしまう癖にそんな言葉であの人を縛り付けるのかとメリアルは舌打ちをした。


「(あんなものに名前を付けるなんて、どうかしてるわ)」


シャワーの水を止め体を拭きながら思い出すのは、小さな生き物だった。真冬の雨の中震えるその生き物は今にも死んでしまいそうな程に弱っていた。

しかし可哀想という気持ちを幼少期から持ち合わせていないので、その生き物を無視して行こうとしたメリアルの手を引っ張り、側にいた人が足を止めてその生き物を両手に乗せたのだ。


「ーーーーーわ」


幼少期のメリアルがそう言うと、その人は眉を下げて悲しそうな顔をしたのを今でも覚えている。だけど何故そんな顔をしたのかは、成長した今でも理由は分からないままだ。

私の言葉にあの人は何て言ってただろうか。表情は思い出せるのに言葉が思い出せない。知っている筈なのに思い出せないのは、なんというもどかしさだろう。


『準備がいいじゃなイ。頂いてるわヨ』

「……早く帰れ」


シャワーから戻っても梟は部屋に居座っており、昨日食堂から持って来た山盛りの果実が入った籠の中から抜き取ったのか、ブドウを美味しそうに突いていた。

通常の梟であれば肉ばかりで果実を食べたりはしないのだが、人間みたいなこの梟はレディだからとか良く分からない事を言って果実を摂取する。


メリアルからしたら見慣れた光景であるから、今更何とも思わないのだけれど。髪を乾かしながら自分もリンゴを手に取り齧ると、芳醇な香りと味が口一杯に広がった。


『手紙のお返事頼まれてるから無理ヨ』

「書くわけないでしょ」

『あんたは昔から可愛くない子供だったワ。それでもダーリンは貴方を心配してるんだから、手紙の一枚くらい書いてあげなさいよネ』


足で手紙をズイッとメリアルの前に出してくるこの梟をどうやって追い出そうか考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえたので、適当にそこら辺に置いてあった服を着てドアを開けた。


「何?」


リンゴをかじりながら、ドアを開けるとリヒトが居たので、こんな朝っぱらから何の用だとメリアルは冷ややかな目を向けた。


「何?じゃないよ。とっくに時間過ぎてるから」

「知ってるわ」

「……はぁ。メリアル、人が話してる時は食べるのやめようね」


笑顔だけど笑顔ではない顔でリンゴを奪ったリヒトに、メリアルはムッとしたが人が触った食べ物はもういらないので、部屋の中に戻り白衣を羽織って新たな果実(次はナシ)を手に取り梟から逃げるように部屋を出た。

幸い梟の存在はリヒトにはバレていないようだった。


「コレどうしたの?」


自由なメリアルにリヒトは深い溜息を吐いて食べかけのリンゴをメリアルに返すも、拒否されたので仕方なくそのまま食べる事にした。


「昨日の夜に多めに貰って来たの」

「…まさか昨日夜遅くまで起きてたから、今日寝坊したって言わないよね?」

「馬鹿にしてるの?起きれない理由なんてそれしかないでしょ」


むしろそれ以外の理由を教えて欲しいくらいだわ、といった雰囲気を醸し出しながら尚もナシを食べてるメリアルに、リヒトは頭痛がしてきた。

思った以上に子供であるメリアルにどうしたものかと考えるも、結局何を言っても言う事を聞いてくれるワケではないのだ。


「寝坊の度にメリアルの嫌いな単調な作業だからね」

「………貴方、鬼のような人間ね」


信じられないという視線をメリアルが向けると、リヒトは「嫌なら早く起きてね」と言葉で返せばメリアルは歩いていた足をピタリと止めた。


「なら今日は遠慮しておくわ」

「何言ってるの?駄目に決まってるでしょ」

「ならモンスターを作らせるか実験させて」


それ以外は絶対にやらないからと言い切ったメリアルに、リヒトはやれやれといった様子で自分に着いて来るように言って移動した。


「この場所、来たことあるよね?」

「一度だけ」

「説明は…聞いてなさそうだね。この場所にはこの開発部内にいる研究員が集まる場所だよ。中には研究室に篭って中々出て来ない人もいるけどね」


リヒトに連れられて来たのは、ガイアがメリアルを皆に紹介する為に連れて来た場所である。

各研究室から来やすい様に三階の中心部に設けられており、事務仕事が出来る用にデスクも用意されていた。休憩も出来るようにソファーやお菓子なども置かれている。今も数人の研究員が休憩や仕事をしていた。


「書類関連は殆ど此処の棚に入ってるから。カテゴリーごとにファイリングされてるから、分かりやすいと思うよ」

「えぇ」


リヒトが立ち止まったのは部屋の側面に設置された棚の前だった。そこには色とりどりのファイルがこれでもかと並んでいる。

ファイルの側面にはどんな種類の書類が入っているのかが記入されているので、目当ての物が見つからないという事はなさそうだ。


「モンスターの提案書はコレね。それでこっちが各部署への依頼書だよ」


モンスターを作るには、まず提案書を記入しなければならないのである。

そこにはどんな種類のモンスターなのか、どんな姿なのかを事細かく細部まで記入して一度所長であるガイアに提出するのだ。

そしてそれがOKが出るといよいよモンスターの作成に取り掛かれるのだが、モンスターを完成させるには核が必要になる。その為に核の中に入れる玉がなければ、核が出来ないので各部署に依頼書を出さなきゃならないのである。


「後はこの書類だね」

「成形依頼書?」


沢山載せられた書類の一番上の紙を見ながらメリアルは呟いた。此処に来てから初めて聞いた言葉だから疑問に思うのは無理はないだろう。


「うん、核だけじゃモンスターは出来ないからね。肉体を用意して貰う書類だよ」

「ゔぇ」

「え?モンスターの解剖で慣れてるのにその反応?」

「私じゃないわよ」


てっきりメリアルが肉の塊を想像して嗚咽をしたのだと思ったリヒトは、メリアルの否定の言葉に後ろを振り返った。


「うぷっ…想像しただけで吐きそう…」

「なんだリーファだったのか。大丈夫?」


メリアルとリヒトの後ろにて吐きそうな少女は、リーファという名前の白金色の髪のエルフだった。

少女とは言ったがエルフなのでメリアルの何倍も生きているのは確実だが、まだまだエルフとしては子供の部類に入るので、見た目は少女と言った方が正しい。


「大丈夫…。ごめん、話の邪魔しちゃって」

「問題ないよ、簡単に説明しただけだからさ。実際目で見た方が分かりやすいしね」

「それなら良かった。貴女がメリアルだよね?私はリーファだよ。宜しくね?」


顔色はまだ悪いが人の良さそうな少女のエルフ、リーファはスッと手を差し出した。

どうせまたスルーするんだろうなと思っていたリヒトは、どうフォローすべきか考えていたのだが、杞憂に終わったようだ。


「えぇ」

ギュッ

「え!?」


リーファの手に自分の手を重ねて握手をしてるメリアルに、思わず驚きから声が出てしまった。「どうしたの?」と首を傾げるリーファに、リヒトは上手く誤魔化してメリアルにコッソリと理由を聞いた。何故リーファと握手出来るのかを。


「エルフだから」

「は?え!?」


普通の声の音量で言ってのける単純明快な答えに、リヒトは自分の肩の力が抜けるのが分かった。

リーファに至っては話が分からないと、頭にはてなを浮かべている。


「基本的に血生臭いのが苦手で、争いを嫌う種族だからよ」

「え、待って!それと何の関係が!?」

「人は私に害を加えて、エルフは私に害を加えない。ただそれだけよ」


メリアルはそれが当然のように言ってのけるが、リヒトにはイマイチ理解出来ないのである。

人は害を加え、エルフは害を加えない。この言葉にはガイアの言っていた通り、メリアルが決して恵まれた環境で生きていたわけではないのだと裏付けているようにリヒトには感じられた。


「あたしには話が良く分からないけど、ここの人達は種族関係なくメリアルに危害を加える人なんていないよ。皆いい人ばかりだから」


メリアルの手を握りながら満面の笑みで心配ないよと言うリーファに、嘲笑した笑みでメリアルは返した。


「…貴女こそもっと警戒すべきね。エルフは色々と高く売れるそうよ」

「え?高くって?」

「メリアル!!」


リヒトが何て事を言うんだとメリアルを責めるが、メリアルからしたら本当の事を言ったまでであり、ましてや親切心から教えてあげているだけである。馬鹿にしているつもりはサラサラないのだ。


「自分の置かれている状況を理解する事も、生き残る為には必要な事よ」


かつての自分の二の舞にならない様に。情報や知識、力は自分を助ける事が出来るから。純粋で世間知らずの子供のエルフには、理解しなければならない話だとメリアルは思っているのだ。

しかし今ここで話す事ではなかったわねと、それ以上言うのを止めた。


「ちょっと待って…。メリアルは何と戦ってるの?」

「……悪の組織?」

「え!?それ詳しく!」

「冗談よ」


メリアルの返答に子供の様に目を輝かせたリヒトに、メリアルは即答で嘘だと答えるととても残念そうな顔をされた。まさかそこまで食い付かれるとは思ってもなく、何も考えずポロッと言っただけで他意はなかった。


「メリアルが冗談言える事に吃驚だよ」

「…私を何だと思ってるのよ」

「え?我儘な天才学者?」


褒めてるのか貶してるのかよく分からない返答にメリアルは軽く殺意が湧いたが、この前の事もあるので下手に手出しする事は止めた。

その事を知ってか知らずか目が合ったリヒトはにっこりと笑っている。本当に読めない男で、出来れば関わらない方が懸命だと分かってはいる。しかし同じ部署の人間でお世話係かのようにほぼ一緒なので、それは無理な話なのだ。


「くすくす、二人は仲いいのね!」

「そうかな?そう見えるなら良かった」

「目、悪いんじゃない?」

「大丈夫!目は凄くいいよ。あのね、自分じゃ気付いてないかも知れないけど、初日に見た時よりも雰囲気柔らかくなってるんだよ」


ニコニコと純粋な笑顔でリーファはまるで自分の事のように嬉しそうにそう言うと、リヒトもまた笑顔でメリアルについて勝手に話し出したのである。


「メリアルは無愛想なだけで、素直で可愛いんだよ。最初よりも沢山話してくれるようになったしね。でもこう見えて意外と人見知りだから、リーファ仲良くしてあげてね」

「ちょっと、何言って…」

「うん!メリアル口は悪いけどいい子だって聞いてるから大丈夫だよ!」


リーファのその言葉にメリアルが少し固まった。メリアルはリーファと面識はない。ブルシュック博士と同じエルフではあるが、あの人はかなり長い間人間の世界に入り浸っているのでエルフとの交流自体も少ない。

ならこの子供のエルフは誰を通じてそんな情報を与えられたのだろうか?


「…聞いたって誰に?」


メリアルの表情が硬く厳しいものに変わり、答え次第では攻撃をも厭わないとする張りつめた空気に、リヒトがスッとメリアルの前に出た。まるで駄目だとでも言われてるように背中が立ちはだかったのである。

少し異様な雰囲気を感じ取ったリーファだが、別に悪い事ではないので普通に堪える事にした。メリアルは知らないだろうからと。


「あのね、あたしのお母さんはブルシュック博士の妹なの。あたしは直接会った事はないんだけど、お母さんとは手紙でやり取りしてるみたいでね、お母さんから良くメリアルの事を聞かされてたんだよ。だからずっと会ってみたかったんだ!一度お母さんに会った事あるでしょ?カリファーラって言うんだけど」

「…?」

「え、あれ!?えっと、青いピアス付けてて、メリアルに一つあげたって言ってたけど…覚えてないかな?」


首を傾げるメリアルに、リーファが慌ててお母さんから聞いたエピソードを話すと、心当たりがあったらしく納得したように「あぁ」と呟いた。


「あのお節介なエルフね」

「人の親なんだからそんな風に言ったら駄目だよ。もう少し言葉を選ばないと」

「大丈夫だよ、その通りだから!もう凄い世話焼きなんだから困っちゃうよね」


メリアルに賛同するようにリーファが苦笑いしながら、自身の母であるカリファーラにあれこれと手出しされた過去を思い出した。

娘のあたしですら鬱陶しい時があるから、メリアルがそう言うのも凄く分かるなとリーファはほくそ笑むのだった。


「リーファの母親はそんな感じなんだね。エルフの持つ石は魔力が宿るとか言うけど、メリアルは貰ったピアスどうしたの?」

「それなら部屋にいるわよ」

「ん?いる?あるじゃなくて?」

「そう言えばピアスをどうしてあげたのか、あたしもお母さんに聞いてなかった!」


リヒトとリーファは興味深々といった感じでメリアルの答えを待っているので、二人について来るように言って自分の部屋へと戻った。



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