告知
診察室にいた担当医師は、恐らく40代前半位だろう。どこか眠そうな印象を受ける眼をしていたが、それでも毛を短く刈り込み、細身の身体だが精悍な印象を受けた。
担当医師の名前はOと言った。
全員が席に落ち着くと、O医師は医療用のパソコンディスプレイにNのレントゲン写真を写して説明を始めた。
「マーカーの数値と、腫瘍の拡がり方から見ても癌に間違いはありません。」
担当直入だった。
「卵巣はとらないといけません。
卵管はもちろん子宮にも腫瘍が拡がっています。
卵巣も子宮も取らないといけません。
お子さんは、あきらめて下さい。」
O医師はいたって淡々と告知してくれた。
一番知りたかった事だ。知りたくない事実だとしても、避けては通れない事実。
きっぱりと言ってくれる方が救われる事もある。
信頼できる医者だと感じた。
俺はNの様子を見た。
覚悟をしていたのだろう。うんうんとうなずいていた。
「腫瘍は腹部にも拡がっています。
ここにこう点々と白い影があるでしょう?これが一つ一つ癌です。
大腸にも癌が転移しています。」
「先生・・・
手術で治りますか?」
俺は堪えきれずに聞いた。
「かなり癌は進行してます。
ステージ3をさらに4段階に分けてその4位のレベルです。
あと3週間も来るのが遅かったら、手の施しようがありませんでした。」
衝撃だった。
たった3週間で?そんな早く進行する物なのか?じゃあ、俺と付き合ってから発病したのだろうか・・・
「流れとしては、手術で癌を取り除いてその後に抗癌剤治療を始めます。
Nさんの腫瘍は大腸にも広く転移してますので、場合によっては人口肛門になる可能性もあります。」
人口肛門・・・
もうダメだった。涙を止める事が出来なかった。
なぜNがそんな目に合わなきゃいけないんだ。あまりに酷すぎる。
「最近の人口肛門は良くできています。日常生活には何の支障もありませんし、服を着ていたらわかりません。プールでも泳げます。」
可能性が高いのだろう。
不安にさせない様にO医師は簡単に人口肛門の説明を始めた。
だが、もう俺の耳には入らなかった。その事実が重すぎて、それだけでもう一杯一杯だった。
ふとNを見る。
涙を流さず、説明を聞いている。
情けなかった。俺は涙を止める事が出来ないでいる。事実を受け入れられないでいる。
それでも、やはりどうにもならなかった。
人口肛門の説明が終わると、入院日が決められ、入院手続きなどの説明が始まった。
入院前にもう一度検査をする必要があるようだが、日数の余裕が無いのでその日の内に検査を行う事になった。
義両親に入院手続きをお願いして、俺とNは別の建物にある検査場所へ向かう事にした。
外は雨が降っていた。




