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SEASON  作者: 梅谷 雅
6/6

運命の日

運命の日


 4月12日(月曜日)

 2連休を挟みついにやってきた運命の日、四季は時雨により闘いの日を知っていたが、恋夏とハルはその日自分たちに起こる事を知らない。

 なぜなら冬侍の独断で彼女らを襲い結果的に殺そうと考えているからである。

 その日は快晴だった。雲一つ無い青空で太陽の光が地上に向かって容赦なく降り注ぐ。

勿論春という季節でもあり、そこまでひどいものではない。

 風は冷たくもなく暖かくもない。いわゆる生暖かい風と言ったところであろう。

そこら辺には桜の花びらが散っておりきれいなピンク色の道ができあがっている。

「いよいよ明日ね。」

 本当の闘いが明日だと思っている恋夏とハルは、自分たちが今日殺されるとは知らないのでのんきな会話を成立させようとしていた。

「そうだね、私も何とか銃弾作れたんだよ」

物騒な事を普通に言うが、先週の金曜日と違いハルの手には大きな鞄が握られている。

人が一人はいるぐらいのスーツケースが握られている。

恋夏はそのスーツケースについて、つっこむことはしなかった。

“ただの実験”

中学の時からハルの事を見てきた恋夏にとっては、そんな光景は別にどうって事無かった。

 しかし、それを全く気にしてないかといえば嘘になる。

 荷物があまりにも大きい気がしてならなかったからだ。

だが、いつまでも気にしているわけにもいかなかったから恋夏は話を元に戻した。

「ホント?四季君喜ぶんじゃないの?」

「でも何か嫌な予感が渡しするんだけど何でだと思う?」

少し考えて恋夏は、「……実はなんにもありませんでしたとか?」それではむしろいい予感である。

「なんか胸騒ぎがするの。だから私今日は“アレ”持って来ちゃった。」

その“アレ”という言葉に言葉を一瞬失う。

さっきから気にしていた人が一人はいるほどの大きなスーツケースの中身が分かった。

アレというものの恐ろしさを恋夏は知っている。ハルは開発者なのだからそれがどういうものかは分かっていた。

「…………アレって!何考えてるのよ!アレは駄目でしょ?」

「大丈夫、使わないから。」言葉に力がこもっている。

 ちなみにアレの正体は、超圧縮キャノン砲といわれる一般人が気軽に?使える最強にして最悪の武器である。

「…………」

 そんなハルを見て恋夏は何を言っていいか分からない。

いつもならきっと、使わなくても持ってくるだけで駄目でしょ?と言うであろう。

だが今日のハルの様子はいつもとは明らかに違っていた。そのためどう声を掛ければいいか分からない。

「……なっちゃん、変な事言ってごめんね。もう8時30分だから急がないと遅刻になっちゃうよ」

流れを変えたのはハルだった。作り笑いをしているのだが、あまりにも苦しそうな顔をしている。

「うん、そうだね。」そういって恋夏とハルは学校に向かって走っていく。


 校門前で二人は心臓を捕まれたように苦しくなった。

 理由は校門の前にいた男のせいだった。

「おはようございます。いや、さようならって言った方がよかったかなぁ!」

光が一瞬で闇に変わっていく気がした。それが冬侍の力が闇に負けてしまったのだとすぐに分かった。

「明日じゃなかったの?」怯えた声を出し恋夏は聞く。

「明日?なんの事だ?……あぁ四季を殺すのは明日って事だぜ?」

 ゾクッと背中が妙に冷えた。殺される。目の前にいるこの男に。

 どうしようもなく、あらがいようのない力によって殺される。

恋夏とハルは頭の中をその思考しか回ってこなかった。

「じゃあ、殺そうか」冬侍は一歩ずつ確実に彼女たちに近づいてくる。

「来ないで!サイキ!」

 そうだ、あたしには超能力が使える!自分の力を思い出し反射的に、本能の赴くままにサイキを喰らわせる。

 そう、“恋夏には”抵抗する方法なんていくらでもあった。今は思考が混乱しているが冬侍から逃げ出そうと思えば自分の持てる力を全て振る舞えばいいだけであった。

だが、「残念、俺様には刀や銃器のような異能の力以外は通じない。だから四季だってタイム・アイが聞かなくて怯えてたんだぜ?もしかして聞いてなかった?」

 恋夏はその場に足をつき完全に戦意喪失しかけていた。

その横でハルは持っていた大きな荷物の中からアレを出して組み立てをしていた。

そしてハルはそこから1mちかくもある大きな重器を冬侍に向ける。

「喰らって下さい!ファイナルショット!」

 轟!という大きな音と共に光の光線が飛んでいく。

「なっちゃん、大丈夫?私の最高の武器……エクス・ラディアン(超圧縮キャノン砲)で攻撃したからもう終わったんだよ」

ハルはそう言って恋夏の方によっていく。

笑顔のハルに心を救われたと思った恋夏だが、それが間違いである事にすぐに気づいた。

「ハル?何で?冬侍君にファイナルショット聞かないの?」

恋夏の顔が泣きそうと言うよりも怯えきっていた。

 ウサギは寂しいと死んでしまう。

この事実と同じように、今の恋夏にはその男が生きているという事実で体が震え、恐怖による支配が始まってしまう。

「えっ?だって直撃し…………何でですか?」

それはハルも同じであった。

一般人であり超が二つ付く天才であるハルが作ったエクス・ラディアンを喰らって生きているという事実は相当応えてしまうものである。

「それは簡単だ。俺のディメンション・アイで交わしたからだ」

 そのとたん小さな水玉が振ってきた。

まるでハル達の心境を現しているような雨。

その冷たさがハル達から体温と共に戦意を奪っていく。

“ここで死ぬ”

その回答のみが頭の中に回ってくる。ほどけない、消えない、消す事が出来ない。

嘘であると信じたい。昨日までの生活に戻りたい。みんなで部活をやるために冬侍を倒さなければならない。

でも……でも、「どうやって倒せばいいの?」

恋夏の頭にはどうやって挑んでも死ぬ事しか浮かんでこなかった。

その隣でハルも考え事をする。倒すためでなく逃げるための策略を。

「さて、ここまでらしいな」

 冷め切った言葉で冬侍が言う。そこでハルが一つの答えにたどり着いた。

「そうだ!なっちゃんテレポートがある!」

そう、闘う事が出来ないなら逃げるまで。

そう言う意味ならテレポート以上のものなど考えられない。

「そうか、それなら!」

「おっ、いい事考えたねぇでも、まっさせるはず無いがな。」

 冬侍が白眼視して、冷たい口調でディメンション・アイと言おうとしたその瞬間一人の男が現れた。

 そいつは遅刻の象徴本玲と同時現れ、春という季節に似合わない着物姿をしていた。

その着物は、白くそして紅葉の葉が沢山散らばったものである。

「待たせたのう。恋夏、ハル。」

「「紅葉(君)(さん)!!!」」「……紅葉」

「お主はワシが絶対ゆるさん!」

 冬侍を睨みつけ言葉を吼える。

「そうか、おもしろいなぁ……やってみやがれ。……ディメンション・アイ」

辺りが一瞬で暗くなる。そして四季と闘った時とは違い黒雲が漂う大地の荒野であった。

そこは辺りに何もなく、物静かなところであった。

 そんな空間に3人は引き込まれた。

「これがお主の力か?」

「あぁ、ディメンション・アイって言う最高にして最強の力だ」

 冬侍はそういったが、紅葉は全く聞いていなかった。

「大丈夫か二人とも?」

「紅葉さん!」「紅葉君!」

二人は紅葉の胸に飛び込んでいく。紅葉はそんな震える二人を優しく包み込む。

まるで子猫や赤ん坊を抱くように優しく。

今までで感じた事のない生への感謝でハルと恋夏は泣き出す。

そんなハル達を見て、紅葉は優しい顔をし、「主等はもう闘わんでいいぞい。」恋夏達から手を離し冬侍の方を向き、「ここからはワシがやる!!」

「はぁ、かっこいいねぇ。」でもと小さくいい、「俺様には届かない」

「VER1!鬼神刀」

紅葉の手に刀が現れる。その刀はどこまでも澄みきった銀色で、見たものを魅了するような刀であった。

「百連刀。」それとは対照的に冬侍の刀は荒々しく、一本の刀から無数の刀身が出ている魔可不思議な刀を取り出した。

「いくぞい!」

 紅葉は自分の足の力をフルに使い冬侍につっこんでいく。

それ見て冬侍も紅葉につっこんでいく。

 大きな火花と共に二人の刀はぶつかり合う。

「てめぇは弱すぎた四季より楽しめそうだな!」

 冬侍は眼鏡越しに大きな目を開き、口はにやけていた。

「お主程度が……」

「あぁ?」

「お主程度が四季を語ってんじゃねぇぇぇぇぇ!!」

右手に持った刀で力ずく且つ無理矢理に冬侍の刀を弾く。

「消えろ!秋風流剣術壱の型、銀杏!弐の型、時雨」

 二連撃を冬侍の体に与えた。だが、冬侍の体からは出血が思ったよりも出ていない。

「そんなものか?そういえばお前どうして今日俺が襲撃するって分かったんだ?」

「VER2、雷!」

ビリビリという音と共に紅葉の体から青白い光が見られた。

「答える気無し……か。まぁいいそれより雷?てめぇの力がよく分からないんだが、そりゃなんだ?」

「答える必要など無い。雷伝、秋風流剣術 壱の型、雷鳥!弐の型、雷龍!参の型、雷撃閃!」

冬侍は先ほど弾かれた百連刀を拾い上げすぐに紅葉の攻撃を防ぐ。

「きかねぇなぁ。ん?痺れる」

雷を帯びた刀を防いだため冬侍の体が痺れ始めた。

 だが余裕の表情を見せ、「……ならこれでいこう、ゴム刀!」

一瞬だが冬侍の刀が紅葉の刀を防いだ。

だが、所詮はゴム。すぐに斬られて終わりだった。

「そんなのでワシの攻撃を防げると思っとるのか!?」

そういって冬侍にいったん背を向け次の瞬間遠心力を使って大振りの攻撃をする。

「飛剣、雷竜閃!」

雷が轟!という音を立てて冬侍に飛んでいく。

 それを交わすの事はまず不可能、雷を交わすのと同じであるからだ。

交わせるのは四季のタイム・アイだけであった。

 未来永劫これからもそのはずだった。しかし冬侍はそれを交わせた、ただし四季とは全く違う防ぎ方で。

「さっきゴム刀使ったとき電気通さなかったんだよねえ~~」ってことはと笑って「ゴム壁!」

「なっ?何じゃそれは?」

冬侍の目の前に現れた大きな壁に雷が防がれた事に驚き紅葉は聞く。

「さっきもいったろ?俺は何でも出来るんだ。ただしこの世界でのみだがな。」

「反則なんてレベルではないのう。じゃから四季は自分より強い力と言っておったのじゃな。」

「わかったならとっとと全部の力を見せちまえよ。どうせてめぇの命はここで終わるんだからな」

 右手に持った百連刀を軽々しく振り、笑う。

 その表情は人でないものと認識できてしまう。

人?悪魔? そんなもので片付けられるものではない。

あえて言うならば深く……どこまでも深い海の底。

先の見えない暗い闇。

目の前にいる冬侍はもはや人ではなく闇。

油断したら自分までそっちの世界に引きづり込まれてしまう。

「………………」紅葉は黙る事しかできなかった。

そして思考を張り巡らせる事しか……

(VER3?否VER4?……本当に勝てるか?)

 まだ使っていないVER3,VER4を使わなくても一流の戦闘狂である紅葉には分かってしまう。

それに気づいたからこそ紅葉は恐怖していた。絶対に勝つ気でいた、目の前の闇に。

どんなに苦しくなろうとも、自分なら勝つ事が出来ると。

 四季がいれば倒せるであろう……だが今はいない。それは自分の力でのみ倒す事を意味する。

(怖い……目の前にいる……ある闇が)

体が震える。初めて本気で闘った四季とは別の恐怖。

あのときは……あのときも恐怖していた。自分の見た事のない力に……そして紅葉は負けた。それは今のこの状況でも同じではないのか?

(いや、違う。あのときの四季はワシを助けようとしていた。じゃが今の目の前にいるこやつは

「…………早くしろ。」冬侍は冷めた口調で言い、黙視とも白眼視とも違う完全なる殺気をも超えた眼をして、「動けないなら殺す」

ビクッと紅葉の体が震える。その光景はまさにヘビに睨まれたカエル。

(どうせ殺されるなら……このまま安らかに……じゃが、四季はそれを許すか?)

紅葉の考えの中に出てきた四季の顔。

(絶対許さんじゃろう。……じゃったらワシがやるのただ一つ。)

 紅葉の目が恐怖を押し殺し、希望というただ目の前の闇を打ち砕く目に変わっていた。

「そうこなくっちゃ」満面の笑みを浮かべる目の前の闇にも紅葉は動じない。

「ワシには、生涯忘れられんほどの最高の仲間……いや親友がおる!」

 中学の時治分を助けてくれた親友を思い、今はSEASONというよく分からない部活のことを思い、そして目の前にいる闇から冬侍を解放するために!

「それがどうした?」

「ワシはそいつを裏切るわけにはいかんのじゃよ。…………VER4」

ドン!という激しい爆風が起こりそれは姿を現し始める。

爆煙の中頭からは直立した角が2本。その右手にはその男とと同じくらい大きな雷を帯びた刀が握られ、そいつは鋭い眼光で闇をにらみつける。

 次の瞬間そいつは右手に持った大きな刀を横に振るう。

刹那に爆煙が消え去る。

「…………これがワシの正体。家は代々鬼の血を引き、普段はその姿を公には曝さん。じゃが、一度逆鱗に触れようものならそいつを殺すまで絶対に引かん究極の鬼になる。」それがと続け、「秋風……紅葉じゃ!」

「ほう、ようやく正体が分かった。……鬼、いや、雷鬼ってやつか?」

「そうじゃ、ワシは雷を使う事の出来る世にも珍しい鬼……」

「鬼ってのは誰でも雷を使えるんじゃないのか?」

「この時代ではワシだけじゃ。それはそうと早くやらんか?」

 紅葉が闇の冬侍を静かに笑いながら見る。

それを白眼視して闇の冬侍も紅葉の事を見る。



 闘わなくても目の前にいる鬼の強さが分かる。

恋夏とハルは自分たちの付いていけない闘いの中、正体を現した雷鬼に希望を持っていた。

「紅葉君あれなら勝てるよねぇ?」

「うん!絶対勝てる。ただの女たらしがヒーローになった瞬間だよ」

「それ助けてもらう人が言うセリフじゃないからね?それにさっきあたし達を助けてくれた時点で紅葉君はもうヒーローになってるんだからね?」

 ハルの毒舌のひどさに苦笑いしながらも恋夏がつっこむ。

 だが、先ほどの恐怖が完全に消えたわけでなく二人は未だに震えていた。


 紅葉の前にいる闇が自分の持ってた百連刀を手放した。

紅葉の力におそれて降参するかと考えたがそれは違った。

「じゃあ俺様もここからは本気だ。」

「何?じゃが……お主の本気なんてどうせディメンション・アイを使いせこい手で勝つというものじゃろう?」

 そういって茶化す紅葉とは裏腹に闇の冬侍は笑った。「ディメンション・アイを使ったせこい手?面白い。だが、もし俺様がディメンション・アイの力を使わず勝ったらてめぇはどうすんだ?」

「なんじゃと?」

「でやがれ俺様の最強の刀……剣“雪刀 白雪”」

 闇の冬侍の右手が白くなっていく。決して光に包まれているわけではない。むしろその白がだんだん黒くなっていく。そして右手に一本の白い刀が握られる。冷気と思われるものは白から黒に染め上げられ、唯一無事なところが白い刀であった。

「いい刀だろ?冷気を持ってる刀なんだ。てめぇの雷と同じさ」

「……その程度でワシに勝てるとでも?」

 紅葉は地を蹴る。そして大きな刀を横から本気で振り、「強度は弱そうじゃな!」

 雷鳴と共に闇に刀が向かっていくだが闇は落ち着いていた。

 闇の冬侍は自分の刀を紅葉の獲物に触れさせた。

それだけだった。ただそれだけの事で紅葉の攻撃を防いだ。

 雷鬼化をしている紅葉は普段よりも力が3倍近くになる。そんな力をただ触れただけで止めた。

(なんじゃと?ワシは加減なんかしておらんぞ!)

「…………」

 闇の冬侍の眼は黒かった。

白目のところが黒目で黒目のところが赤くなっていた。

そこで紅葉は理解した。

(こいつはもうさっきまでの闇の冬侍では無い。……本当の闇じゃ。)

 闇は無言で紅葉に近づく。そしてためらいもなく紅葉の腹を斬る。

 その瞬間を紅葉は見ている事しかできなかった。

 なぜなら、闇が消えて紅葉を斬りつけたからであった。

速い、速すぎた。紅葉の目が闇の速さに付いていけなかったのだ。

「速い!くっ、お主これが本当の力か?」

「…………」

 無言、それから闇は一言も話さない。ただ紅葉を無言でそして黙視し斬りつける。

 だが、紅葉だってやられてばかりいるわけではない。斬られている間も何回かは斬撃を止めた。

 ただそれだけであった。そう、紅葉にはその程度の事しかできなかった。

 恋夏達はその状況を見る事しかできない。血が出血し生傷が瞬間的に増える紅葉の体を見守る事しか。

 次の瞬間、闇の動きが止まった。

 たった一度の隙。たった一度だけ闇に隙見えたのだ。

その瞬間紅葉は闇から離れて、「賭けるしかないようじゃのう。最終奥義に!」逃げるためでなく最後の攻撃をするために。

 着物には大量の血が滲み、息も荒く、出血量も並のものではない。

そんな状況の中紅葉は最後の手を使おうとした。

「…………」闇は相変わらず無言のままだった。

 だが、次の瞬間一言だけ……内緒話をするように呟いた。「……吹雪」 その瞬間 ディメンション・アイによって作られた空間に突如すさまじい雪が降る。

「くっ」

目も開けられないような激しい吹雪に紅葉はひるんだ。しかし、すぐに体制を整えて、「秋風流剣術 最終奥義……落ち葉!」

「終閃……吹雪」

 激しい吹雪の中互いの刀は交わった。そしてすれ違いどちらかが斬りつけられる。

 紅葉の肩からは少量だが出血が出た。だが倒れない。

闇の方からも出血。だが、それはただの擦り傷程度だった。

 ブシュという音と同時に紅葉の両肩から大量の出血が出る。

 紅葉は倒れる事はなかったものの致命傷を受けた。

「「紅葉(君)(さん)」」

 そんな紅葉の元にすぐさま恋夏とハルが駆け寄ってくる。

 雪はやみ、まるで全てが終わったかのようなものを表していた。

「お主等すぐに逃げるんじゃ。……ワシで勝てんような奴はお主らには倒す事はできん」

 その通りだった。だがもしここで逃げたら、紅葉が闇に殺されてしまうのは火を見るより明らかだった。

 いや、それ以前にここから逃げ出す事が出来ないのであった。

「……さて、終わったな」

 闇は気を緩め、始めに見た闇の冬侍へと戻っていく。

見た限り人間。闇に100%吸収される前の闇の冬侍。

「ここで殺すのは決定だけど」少し考え事をして、「どうやって死にたい?」

「あんたどうして簡単に人を殺そうとするの!?」恋夏からの心の叫びだった。

 だが、虫けらを見るような目をして冬侍は告げる。

「黙れ」

 その言葉にもう3人とも話せなくなってしまった。

冷徹なんてものじゃない。そんな 生やさしいものならば誰かが何かを発していた。

 それが出来ないほどのひどい殺気……冬侍は今見ただけで人を黙殺できてしまうほどの目をしていた。

 それが怖くて恋夏とハルは震え出す。紅葉はそんな事すら出来ないほどに弱っている。

この状況を逆転する方法は一つしかない。人頼みと言われようと仕方のない事だが……

“一ノ瀬 四季”

彼がまだここに来ていない。ただそれだけが3人の希望だった。

「もし……四季を期待してんだったらあり得ないぜ?」

三人が完全に止まる。震える事すら忘れその言葉を頭の中で否定に換えていく。

(四季君は絶対来る)(四季さんは絶対に来る!)(四季は絶対にこいつを倒しに来る!)

「こねぇよ。それにここが何処かわかってんのか?俺様が作ったディメンション・アイの空間の中だぜ?」

 そういって冬侍は説明を始める。「表の世界の住人はこっちの世界の住人を触る事はおろか認識する事もできねぇ」つまりと笑いながら、「あいつは現実世界で何かあったと知っても、この世界を認識すら出来てねぇんだ!てめぇらだって俺が四季の奴をぶっ倒したとき何が起きているか分からなかったろうが!」

 確かにそうであった。四季が入学2日目に冬侍と闘ったとき、紅葉達はそこに急に四季が現れ出血まみれで倒れていた。

 この事を考えると冬侍が言っている事は本当である。……と言う事は……“助けは来ない”

 そういうマイナス思考の考えが必然的に生まれてくる。

 動けなくなった3人を見て冬侍はまた何かを語った。「さて、俺様はどうしてこんなに優しいのだろう?」

 言っている事の意味が全く分からない。今この場で人殺しをしようとしている奴が優しい?どこが?どこからそんな言葉が出てくる。

「てめぇ等は俺様の事をそんな風には思わないだろうが、実際問題として俺様は今てめぇらを生かしてやっているんだ。これは優しさ以外の何でもねぇ!」

 狂っていた。冬侍の体を使い、闇が直接自分たちに話しかけてきている感じがした。

太陽のような輝きもなく風も音もなんにもない空間。

その中でこの4人は向かい合う。

 だが、闘うどころか戦意喪失をした被食者に対して捕食者は笑いながら食べ時を待つ状態だ。

「………………あきた。終わりにしよう」

 さっきまで狂っていたのが嘘のように冷徹さを取り戻す。

そして右手に持った刀で紅葉の腹を突き刺す。

 ぐぁ、と言う紅葉を気にもとめずに右手、左手、右足、左足と順番に突き刺していく。

出血と同時にその刀により傷口が凍っていく。

 その光景は何とも滑稽であった。

 紅葉はそのおかげで出血こそはあまり無かったものの凍傷の恐れがおおいにあった。

「やめて!何で動けない人をそんな風にするのよ!」

恋夏がそんな状況を見て止めにかかる。

「なっちゃん……そうです!やめて下さい!」

声も出なかったはずのハルも恋夏を見て一緒になって止めようとした。

「…………じゃあ、てめぇらからにしよう。」

冷め切った言葉を吐き捨てるように言い、刀を上に振り上げる。


ガラッ……ピシッ、バキッ!

 その音と共に一筋の光が出た。

決してこの空間には現れないはずの光。

 この空間とは相容れないはずの光が……

そいつはその光を背に現れた。

 黒いコートを靡かせ、真ん中で黒と紅に分かれた刀を持ち……

「どうやって入ってきた?」

 その男を見て冬侍は聞く。だが、「さぁな…………ただ言える事が一つある」

 そいつはヒーローであった。決して仲間を見捨てる事はなく、大切な仲間のために駆けつけるヒーロー。

「俺は、お前を許さねぇ!」

怒りと共に俺は怒声を浴びせる。

闇に……闇の冬侍に!

「「「四季(君)(さん)!」」」

三人が同時に声を出す。ずっと待ち続けていた助け。来る事がないと言われていた四季の事を!

「いやぁぁぁワリィワリィ」

 ヘラヘラしながらもう一人現れる。そいつはオールバックで黒いサングラスを掛けた一見するとヤクザやそっち系の人かと思うような奴である。

「「「誰?」」」

 三人は同時に声を上げる。それがショックだったのかその男は、「……俺は一ノ瀬の事を3日間修行してやってた光臨高校の教師。時雨 龍哉だ!」

「「「ふぅぅぅん」」」

 三人は全く興味がなさそうに納得した。

「師匠、紅葉を……」

「分かってる。お前は黒龍紅おいていけよ」

「はい、ではお願いします」

 俺はそういって時雨に黒龍紅を預けた。

「……まさかとは思うがてめぇ素手で俺様とやり合う気……ぐはっ」

折角現れた一筋の光が消え始めた瞬間。俺は冬侍の腹に肘鉄を入れていた。

「……お前は絶対に許さない」

 冷たく放つ一言には大きな意味合いがある。

闇に対する怒りと仲間に対する思い。

そして自分が遅くなったばかりに親友が死にかけているという自分への怒りに!

「そうかい、だったらこれを交わすんだな!」

 冬侍は俺から離れて飛ぶ斬撃を連発してきた。だが、今の俺にはそんなの意味はない。

その斬撃を正確に交わす。かつ冬侍に近づいていく。

「なんだよ!お前この攻撃交わせないんじゃないのかよ!」

 無数の斬撃が飛んでくる。だが、俺には届かない。

 目の前まで無傷で淡々と迫ってくる俺に闇の冬侍は恐怖していた。いままで交わされた事の無いであろう飛ぶ斬撃。

 前にやり合ったとき、俺は飛ぶ斬撃で斬られた。

そんなのを今、俺は紙一重どころかそれが当たり前のように交わしている。

「おそいんだよ。体術奥義、百烈拳!」

 冬侍の真っ正面まで近づいた俺は両手両足を使って腹に百発の打撃を加える。

バタッと闇の冬侍は俺の前に倒れた。はそんな闇の冬侍をゴミを見つめるような眼で見下す。

「立てよ。お前はその程度で倒れる奴じゃないだろ?」

俺の質問には答えない。代わりに完全に黙った。

「…………………」

 変わったのだ、闇の冬侍から闇へと。

俺が来る前に紅葉がやり合っていた闇へと。

 このとき俺は知らなかった。どうして紅葉がやられたのか、鬼の最強形態をほぼ無傷で倒すなどあり得ない事である。

それを気づけなかった時点で俺は一つのミスを犯した事になる。

 黒いオーラを体から放ち奇妙な雰囲気を醸し出している。

俺はその状況をただ見ている事しかできなかった。何が起こるか分からない状況の中ヘタに出て行ってやられてしまっては元もこもないからである。

「………………」

 無言、黙視、無表情、無という言葉はたいてい今の冬侍には当てはまる。

 そいつはつっこんできた。右手には白く冷気を持った刀を鞘にしまい、獲物を持っていない俺に容赦なく襲いかかってくる。

 眼に生気が無い。それどころかこいつの目は黒くなっている?

 白目の部分が黒く黒目のところが血のように赤く染まっている。

「お前……もしかして闇に飲まれたのか!?」

「…………」

 無言のまま新しく出てきた鞘に刀をしまい、問答無用で抜刀術を行い俺の事を斬りつけてくる。俺はそれを紙一重で交わす。

 前髪が斬られる。気づくのがあと少し遅れていたら自分のダメージがひどかったであろう。

 斬られた髪の付近は白くなって冷気を保つ。

(この刀は冷気?それに今の抜刀は速すぎる。)

 心の中で思ったものの次の戦術を組み立てる。

そんなのはお構いなしとばかりにそいつは右手の刀と左手の鞘で俺の事を攻撃してきた。


 遠くからその闘いを見ていた奴らは少し疑問に思った事があった。

「なんで四季君タイム・アイ使わないの?」

たった一つの疑問。

だが、これは簡単であって実に難易度の高い問題であった。

「……お前等は何で一ノ瀬が黒龍紅をここにおいていったか分かるか?」

 その質問に答えたのは時雨だった。彼は実に難しい顔をしていた。

 例えるならば数学の学者である。

彼らはいつも悩んでいる。どんなときでも探求精神を忘れず、その問題を解こうとする。

そのとき分からない問題が出てきたらどうなる?

決まっている。解けない問題に対しては誰でも難しい顔をする。

 今の時雨はまさにそれであった。

「ていうかこの黒い物体はなんですか?」

 時雨の質問云々の前にまず恋夏以外は黒龍紅の事を知らなかった。

「初めましてになるね。なっちゃんとは四季が入学式の日にあったから二回目だね」

「お主はそもそも生物じゃったのか?」

紅葉は力を振り絞り話す。弱々しい声と共に……

「君とは四季が闘ったとき以来だね紅葉君?」

「…………」

答えは返ってこない。だが気にせず黒龍紅は話す。

「オイラのことを四季が君に話さなかった理由は簡単だよ。」黒龍紅は小さい鳥の形になりながら、「君がオイラを見るともしかしたら紅葉君の中に潜む鬼の力が暴走してしまうかもしれなかった可能性があったからだよ。」

「ワシのせいじゃったのか?」

「違うよ。四季は紅葉君のあの力が怖かったんだ。それは紅葉君のせいでなく四季の弱さが問題だったんだ。」

今闘っている四季に対してものすごく手厳しいものである。

「……………………………………」

 紅葉は黙ってしまった。あのときの四季の強さは鬼のそれと同等のものだったからである。その強さを持ってしても黒龍紅は四季を弱いと言った。

 恋夏とハルもその言葉には驚いた。ただし時雨は驚かない。

四季の強さを、四季の弱さを……この3日間で理解していたからだ。

そして言う、「さっきは言ってなかったな。」あいつがタイム・アイを使わない理由をと言いたばこを取り出し、「ここに来るときにタイム・アイは消滅したんだ」

「「「えっ?」」」

三人は耳を疑った。それは苦しそうにしている紅葉でも同じ事だった。

「ここに入るためにはタイム・アイを失う必要があったんだ。」

 笑いながらたばこに火をつけ……目は全く笑っていなかったのだが時雨はその事実を教える。

「夕日からの手紙が俺との修行中に届いたんだ。そこにはこの空間にはいるための条件がいくつか書いてあった。」

「それってもしかして……」

「タイム・アイを失うのが最低条件。次に服装だった。聖服というのかなぁ黒いコートを着て中は赤いワイシャツ。さらに言うなれば黒いネクタイとはじめの事以外は全く関係ないものだった。」

時雨は怒っていた。当たり前と言えば当たり前である。

なにしろ折角きたと思った情報がはじめの以外全く関係ないものであったからだ。

「という事は黒ちゃんがここにいる理由ってあたし達を守るためのもの?」

恋夏が恐る恐る聞いてみた。

「そうだよ、オイラはなっちゃん達を守る最高の盾って奴だよ」

「盾……ですかぁ」

そんな言葉を軽く無視して、「ハルちゃん、雷の銃弾は作ってくれた?」

 さっきの話とはうって変わって、銃弾という物騒な話になる。

その質問に対してハルはふぇっと言う声を上げて鞄をあさり始める。

そしてその中から筆箱ぐらいの小さな小物入れを取り出す。

「これですぜボス!」

何を勘違いしているのかマフィアのボスに秘密の取引をするように黒龍紅に見せつけた。

「それですかいハルちゃん?」

「そうですよ」

「お主も悪よのう」黒龍紅がはしゃぎながら言うものの今はそれどころではなかった。


「くっ、おい!黒龍紅!まだか!」

冬侍と闘っている四季がそろそろピンチだよ~~というSOSサインを出していた。

目が黒と紅に変わり果てた冬侍は紅葉と闘ったときと同様に闇に変わっていた。

「…………」

「百烈け……ぐはっ、ぶぉ……マジでやべぇ、おい冬侍!お前目を覚ましやがれ!」

必殺を決めようとした俺だがそれは冬侍の白雪によって潰える。

切り口が冷気により凍りつき出血と止血のようなものが同時に行われる。

そこから凍傷になる可能性を今は考えている余裕など無い。

「…………」

無言、無表情、無心と今目の前にいるそれにはそれが当てはま……それしか当てはまる気がしない。

何よりも俺の言葉に全く振り向こうとしない。

「冬侍!」

「……死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

「やっと話した言葉がそれかよ!」

闇の攻撃を大量のかすり傷を作りながら交わし、俺は何発か攻撃を決める。

その俺の攻撃でバキッという嫌な音がしたのだが、闇は気にせず刀を振るう。


 ある男は冷めていた。

 すこし前に落ちてきた髪を完全にオールバックにして黒いサングラスを掛けた男は欠伸をしながら話す。

「……めんどくさいなぁ。」その言葉をいい、「黒、お前とっとと一ノ瀬んとこ行ってこい」

「行っていいの?」まるでそれはあり得ない事のように言った。

「言ったろ?めんどくさいなぁって。」たばこの灰を落としながら、「ここからは俺がこいつ等の盾になるって言ってんだよ!」

「ありがとう時雨さん!ハルちゃんオイラにその銃弾全部食べさせて!」

そういってグチュグチュと音を立て体長2m程の龍になる。

「黒ちゃんそれって!」

「なっちゃん今はそれを言っていられないから!」

「黒龍紅さ~~~ん!」

そういって筆箱のようなものを黒龍紅の口めがけて投げる。

モグモグと……バキバキと……ビリビリと?

「いい刺激だ。これなら助けられそうだ」

そういって黒龍紅は飛んでいく。


「………………」

 相変わらず何も話さない闇に俺は疲れていた。

いや、疲れていると言っても決して油断していたわけではない。

ただ闘いというものの集中力にきつさを感じている。

「四季~~~~~~~~~~~」

やっと来た!

俺は待ち望んでいた。黒龍紅が俺の元に飛んでくるのを、そして雷の銃弾を喰って雷龍になったと言っても過言でない黒龍紅を。

「はぁぁぁぁぁぁぁ」

 俺は大きなため息を吐き黒龍紅の尻尾を掴む。

するとグチュグチュと音を立て形を変えていった。

「「紅黒刀!」」

瞬間的に闇の腹を切り裂く。だがあまり効いていなかった。

「…………」

(さて、どうしてくれよう。今のこいつは冬侍であって冬侍でない。簡単に言うとただの闇だな。)

俺は考える。こいつを救い出す方法を。それがあるとしても、無かったとしても、諦めるわけにはいかなかった。

「黒龍紅、銃弾は喰ってるよなぁ?」

知っていたのだが念のため……

「さっき食べた。」

「なら出来る事が一つあるな。」

俺はVER悪魔になっていた。なぜなら飛べない限りはそれは出来ない。

正確には、今この瞬間たった一回しかできない事を俺は狙っている。

「…………消えろ」その言葉は冷めていた。だが冷めていない。

それは完全なる闇の言葉でなく、その一歩手前の闇つまり闇の冬侍であったからだ。

そしてその言葉が最後のように刀の色が変化した。

冷気は黒かったがその黒を超える闇色となり、唯一白で満たされていた刀というものですら闇になっていった。

「……暗黒刀……闇夜」

その刀はどこまでも黒い。例えるならば闇色。漆黒をも超える完全なる闇色。

そして目の色が変わる。白目が黒く黒目が血のように赤く。

「帰ってくるつもりはないのか?」俺は聞いた。闇に出なくその奥にいる冬侍に。

「…………」答えは当たり前のように返ってこない。

それに俺は本気で切れた。

「帰ってくる気はねぇのかって聞いてんだよ!」

目の前の闇に聞く。答えは無言……だと思っていた。

「…………助けて、一ノ瀬君」

(?今の声は)

 優しい声であった。それに悲しい声。歌うように話されたそのか弱き声に俺は少しばかり嬉しくなった。

あいつが……冬侍が!俺に助けを求めた!

「それでいい!後は俺に任せろ!」

そう言った後俺は恋夏達の事を一瞬見てもう一言付け加えた。

「俺たちSEASONなめんなよ?」

 キンという激しい音と共に俺たちの刀は混じり合う。その闇の刀がどれほどのものかと考えたが、闇のそれは前の刀の時と同じくらいの力であった。

 それに俺は安心して言う。「黒龍紅、右に黒刀……左手に電撃弾を入れた新しい拳銃!」

俺は楽しみで仕方なかった。

 ハルから受け取った電撃弾の力を俺は試せる。いや、これを当てた奴がどうなるのか見たかった。

「食らえ、黒斬破!」

 黒い斬撃が飛んでいく。初めて冬侍と闘ったときに似たものを俺は出す。

俺が発光作用を出してくれたスーパーオキシドールX後からで出来るようになった新しい力。時雨には効かなかったがこいつには効くだろう。

だがそれは闇によって防がれた。

(だったらこれでいこうかな?)心の中で俺は呟く。

 右手からはビリビリと輝く雷。その銃の当初の名前は紅銃。

そして今はそれから雷が出ている。それを構える。

よく狙って……当たるように……外さないように……

「雷撃砲!」

ピカッという輝きに遅れて、轟!という激しい雷鳴と共にそれは向かっていく。

「…………………どこ狙ってるんだ?」闇の冬侍はそう言った。

そう、俺が放ったレールガンは闇の冬侍を狙ってなどいない。

狙った奴は……

「「紅葉(君)(さん)!!!」」「秋風!」

 三人は同時に叫ぶ。

 闇に当たったのならばこんな風にはなっていない。

むしろ闇が消えたかの確認をしていただろう。だが、紅葉となれば話は別になる。

出血に対して電撃を与える。水に電気を流し込み殺すようなものである。

 このままいくと紅葉が死ぬ。それが恋夏達には一瞬で分かった。

雷の見えた短い時間。一瞬の時間。光の速さ、真空中を一秒間に約三万㎞の速さで伝わる電撃。おそらくは見るので精一杯であろう。

シュウゥゥという音と共にそれは立ち上がる。

「……四季、ワシは何をすればいいのじゃ?」

「紅葉君?」「紅葉さん?」「秋風?」

雷撃砲は確かに当たった。それは闇の冬侍でなく紅葉に……

だがそこにいる紅葉は最後のとどめはおろか傷が治っている。

それに一番驚いているのは闇の冬侍であった。

「何でお前が生きてる?いや、生きていたが何故回復したんだ?」

顔が引きずっていた。まるで初めて見る毒蛇……自分の天敵の恐怖を知ったような顔で……

紅葉は笑う。歯茎をむき出しにし、声に出して笑う。

「何でワシが回復したじゃと?」笑いすぎにより出てきた涙を手でぬぐいながら、「ワシは携帯の充電器と同じじゃからじゃ。」

 俺以外の奴らが全員分からないという顔をする。

 そんなみんなに俺は説明をしてやった。「つまり紅葉に電撃を与えれば体力が回復するって事だ。」俺はあきれ顔になりさらに言う。「こいつ俺と闘った後電源フラグで体力全回復しやがったんだぜ?」そのときの俺は多分怒っていたのだろう。

本気で闘った奴の傷の治り方が電源フラグという最悪な奴だ。

 だから俺は見せなかった。治りが早いと言うのもそうだが、そう何度も傷の治った瞬間に闘うという自滅行為に等しい事はやりたくなかった。

そう……黒龍紅を見て紅葉が暴走する恐れがあるうちは……

「さて、紅葉お前はどうする?」

 俺は嬉しかった。

 紅葉がVER4を操る事が出来た事を……そして闇と闘うための最強の仲間が出来るその可能性を……

 紅葉の体から激しく青白い光が輝きだした。「勿論、ワシも主に協力する!」

そう言って右手に日本刀と同じくらいの刀を、頭からは2本の鋭い角。

 いわゆるVER3と言ったところだ。

 そんな紅葉を見て、「じゃあ行こうぜ?」今まで見せた事もないような笑顔で、「闇をぶち殺す方法を見つけに……砕きに!」

「うむ!」

力強い返事と共に彼は俺の横に来た。

そして睨み付ける。紅葉と俺は正義という名の下に冬侍を睨む。

「……では、俺様が闘うのはやめておこう」

予想外な答えが返ってきた。

闘うのをやめる?2対1という状況にやめると言ったのか?

……あり得ないな。少なくとも俺の知っている闇の冬侍は……闇?

(まさかこいつ!)

「………………………………」

目が黒く染まる。白目のところが黒く、黒目のところが赤くなっていく。

やはりそうか。

「四季、こいつ」

「あぁ、飲まれたな。」

そこにいるものは冬侍であって冬侍でない。闇の冬侍であって闇の冬侍でない。

つまりは100%の闇。

「…………」

予想外だった。まさか俺と紅葉が今の一瞬すぎる会話をしたとたんには俺たちの真上にいたのだ。

「秋風流剣術、秘技!紅葉!」

頭上に向かって激しい竜巻を起こす。その竜巻はただの竜巻ではなく、斬撃を交えた最強の竜巻。

闇の体はあちこちから出血していく。だが、気にすらとめずにに右手に持った暗黒刀で俺たちに向けて斬撃を飛ばす。

「…………暗黒斬破」

「雷撃砲!」

紅葉を助けた雷撃砲。今はこいつの斬撃を防ぐために使う。

激しい雷鳴と共に斬撃とぶつかり合う。

そして俺のそれが闇のそれに勝つ。

「…………」

闇はどんなにひどい痛みであっても声すら上げない。

雷が直撃するほどの衝撃にも顔色一つ変えずにつっこんでくる。

だったらやるべき事は一つだ。

「黒龍紅!」

「「紅黒刀!」」

両手を体の前で合わせぐっと握る。祈りを捧げるように。

右手の紅銃が左手の黒刀に入り込んでいく。

そして一本の刀になる。真ん中が黒と紅で二分された刀、紅黒刀へ。

「速攻!紅黒斬破!!!」

タイミングもよく確実に当たったはずだった。

(どうやって交わした?)

「………………」

無表情という仮面をかぶり闇は俺の事を切り込んでくる。

紅葉はそれを止めた。

「四季には指一本触れさせはせんぞい」

「…………刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀刀」

 無数の刀が俺たちの周りに突如現れる。

交わす方法は今のところ一つしか見つからない。

「紅葉、俺の肩を今回はしっかり掴んでろ」

「うむ」

 俺は今入学式の事を思い出していた。あのとき紅葉は俺の肩を掴まずにタイム・アイの中に入ってこれなかった。

 だからこそ今回は絶対に掴んでもらわないと困る。

「…………刺され」

「タイム・アイ!……は無理だから紅黒玉!」

 俺たちは黒と紅の変な玉の中に入る。その外からは金属がすれる音とぶつかり合う音が聞こえる。

 しばらくして紅葉がある事に気づく。四季の左目についてだった。

「お主この空間にはいると左目が光る性質でもあるのか?」

「は?お前だって3年前に見ただろうが。」お前にもかけたと言うセリフと共に、「幻術を見たはずだ。」

「幻術?なんの事じゃ?ワシはあのときお主の左目は見ておらんぞい。」

紅葉から帰ってきた言葉の意味が俺は理解できなかった。

「なんで?見ていないってどういう事だ?あのとき左目を見てお前は動きを止めたじゃないか!」

「ワシはあのとき自分の意識があったんじゃ。ただワシの力があいつを押さえられんだけでありワシはあのときの記憶は全部有ったのじゃ。」

ってことは俺の今までの黒龍紅を隠してきたのは全くの無駄って事?

いやそれは今となればどうでもいい。

「じゃあ俺の左目ってなんなんだよ!」

俺は声を上げる。今まで……3年前に出来た幻術眼だと思っていた俺の力が違っていた?

ならこれはなんなんだ?

俺の力、俺の力、俺の力、俺の力、俺の力、俺の力、俺の力、俺の力、俺の力、俺の力、俺の力、俺の力。

心が壊れ始める。今の状態ではこれだけが頼りだったからだ。

 例え異能の力が通用しなくても今の俺だったら絶対に幻術をかけられると思っていた。

という事はあいつを倒す方法ってのはもしかしてない?

「四季、ヒントを与えてやろう。」

「黒……龍紅?」

 いつもの話し方とは違い、あえていうなれば仙人と言ったところである。

「俺と会ったときの事を思い出せ。そして俺がどういう存在だったのか、今闘っている奴が闇であると言う事を。」360度全体から黒龍紅の声が響いてくる。

最後のヒント、「お前の左目は今どうなってるんだ?」

…………………………………………………………………………

「わかった、そういうことか。むしろ幻術眼じゃあいつには勝てなかったんだ」

 全てがつながった。黒龍紅と初めてあったとき、3年前の爆弾テロ。

冬侍の闇が付いたときも3年前。

 二つに共通する事がなんだったか。

そして紅葉は言った。俺の目が光っていると。

という事は幻術眼でなくこの眼は……

「黒龍紅!すぐに元に戻してくれ。」

「闇の冬侍君と闘うって事?」

「そうだ。今すぐ俺があいつの闇を取り除く!」

この左眼……闇殺しの左目!


 俺たちは黒龍玉から出る。光が見える。明るくなる。

目の前には闇が……いない?

 目の前にいると思っていた闇がそこにはいなかった。

じゃあどこに?

「………………」

「一ノ瀬!てめぇ自分だけ逃げてんじゃねぇよ」

その声は間違いなく時雨からのものだった。

と言う事はまさか!

「…………」

襲っていた。時雨を、ハルを、恋夏を!

「てめぇ!」

 時雨が闘っている闇に対して俺は吼えた。

 時雨は二人の女子をかばいながら闘っているにもかかわらず全くの無傷であった。

「…………」

「全く、無言の奴とやり合ってもつまんねぇなぁ」

オールバックで黒いサングラスを掛けたその男は本当につまらなそうに言った。

「……イヒッィィィィィィィギャギリキリガヤアガイヤカキャァァァァァァァァァァァァァギャァァァァァァキョア」

大きなため息をつきその男は、「声を出せばいいってもんじゃないでしょお前は。」

「キャァァッァイアアァイィァガポアオ」

「おい一ノ瀬!お前俺の弟子なら師匠に敵持ってくるんじゃねぇ!」

 その言葉に軽くイラッときたものの言われてみれば俺はSEASONを守ると決めていたのだ。それは当たり前の事であった。

「師匠……ねぇ。」VER悪魔となり瞬間的に恋夏達の元へ来た俺は左眼だけを開けながら、「ではここからは俺がやりますよ。」

「そうかそうか、俺も闘いたかったんだがなぁ。そこまでお前が言うんだったらここは譲ってやるよ」実に嬉しそうにオールバックで黒いサングラスを掛けた男にとりあえず髪を ぐしゃぐしゃにしてグラサンをかち割ってやろうという悪意をコメながら、「やりたいんでしたらやって下さい」と言ってみた。

「一抜け。」その男は即答した。

 そんな風に話している俺たちを闇は待ってくれるはずはなかった。

「ヒヒャヒャヒャヒャハヤヒャヒャハヒャヒャヒャヒハハハハはははは」

「黒龍紅、闇を少し押さえろ!」

「うん」

そう言うと黒龍紅は闇に対して紅黒玉を使った。

俺は紅黒玉の前で左眼を押さえる。

「黒龍紅、今すぐそいつを出せ」

「うん。」

そういって紅黒玉をすぐにやめた。

俺はそのときを待ってましたとばかりに左眼を解放する。

「闇殺しの左眼!」

その瞬間左眼が黄金の輝きを放つ。神々しい光が辺り一面を包み込む。

 この空間は大雨の降っている時と同じ空模様である。

それがこの輝きと共に快晴と同じほどの明るさを放つ。

「…………なんだ?グッ…………てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!四季!~~~~~~~~~~~~~~~」

 闇は声を上げる。そして眼の色が人間に戻っていく。

口からは黒い煙が出ている。この煙は恐らく闇であろう。

 その煙が完全に出きったころ冬侍から声が聞こえた。

「一ノ瀬君……闇はどうしました?」

 闇が抜け冬侍の意識が完全に戻ったらしい。

 本当の事を言うとまだ2回ほどしか話していなかったのだがその声は間違いなくさきの闘いで聞こえた優しい声であった。

「お前の言ってる闇って奴はあそこの奴だと思う。」

俺は指を上に向かって指す。

「あの黒いのが闇ですか?」

それがまるで雲のようになっているため俺は少し気になった。

 だが、次の瞬間冬侍の顔が強ばってしまった。

黒い雲のようなものが人の形になっていく。

「あいつだ……あいつが僕の中に入ってきた闇の本当の正体です!」

 冬侍が必死に叫んだその言葉はあまりにも遅すぎるものだった。

そいつは一瞬で俺の前に現れ1撃を腹にかます。

それは時雨と冬侍以外のSEASONの奴らに全員襲いかかった、

「一ノ瀬!それにみんなも……これは俺もやらなくちゃ駄目かな?グハッ」

 刹那、それは伸びた。今現在紅葉のところにいたはずの黒い物体が伸びたのだ。

そしてついでとばかりにサングラスを割った。

「お前……俺のサングラス割りやがったな?」時雨がマジ切れしていた。

「……………………」

相変わらず黙っている闇に今誰よりも時雨は化け物になりかけようとしていた

「闇!お前の相手は僕だ!」

そんな危険な状況に冬侍は誰よりも早く自分に向かうように言った。

「冬侍……俺もやる!」

「ワシを忘れんじゃないぞい!」

「あたしだって!」

「私もです!」

SEASON全員で闇を倒す事になった。

全てを終わらせるために……必ず部活を完成させるために!

「黒龍紅!」

「うん」

「「紅黒刀&VER悪魔!」」

俺はいきなりの最強形態

「ウォォォォォォォォォォォォォォ!!!VER4!」

轟!轟く雷鳴と共に紅葉も本気の状態になる。

「あたしは見てるだけよ」

「何言ってんのなっちゃん!私もでしょ!?」

こういうときは女子は活躍できないよなぁという何とも言えない空気を醸し出す。

「サングラス……サングラス……俺のグラッパーをよくも……明鏡刀!」

私利私欲のために時雨は動いていた。

「グラッパー……グラッパー!!!!」

「師匠邪魔!」

俺のその言葉が何故か堪えて時雨はその場でリタイヤした。

「…………銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃銃」

 

 無数の銃が俺たちの元に出てきた。

 その銃から放たれる無数の銃弾を体に数発浴びながら俺は闇の前にたどり着く。

せっかくの身長のコートが……や俺の紅いワイシャツは血が目立たないなどと言ってみようかと思ったがそれ以前にやらなければいけない事があった。

「闇殺しの左眼!」

 効くかは分からなかったがやらないよりはマシだと思い闇殺しの左眼を発動させる。

するとどうだろう闇が苦しがっている。

 人の体といいうだけあって、何故かは分からなかったが頭を押さえて苦しんでいる。

それを紅葉は容赦なく斬りつけた。

 始めに闇の両腕を切り次に両足最後に縦に一刀両断した。

「…………」

「終わったのか?」

「一ノ瀬君左耳貸していただけますか?」

突如言われた事に俺は驚いたが秘密の話でもあるのかと俺は言われたとおりにした。

(何で左耳なんだ?)

「実は…………」

冬侍の右手が俺の左眼に伸びてくる。

そして俺の左眼をえぐり出そうとした。

「ぐっああああぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁっぁっぁぁぁああああ」

 言葉にならない激痛。俺は叫び声しかあげる事が出来ない。

 まさかこいつの中にまだ闇がいたのか?

そして俺の眼という唯一の弱点を片づけに来た?

 俺の思考が停止しそうだった。これを考えるのにも恐らく体力を半端なく消費したであろう。

 そこで一つ思い出した事があった。夕日からの手紙だ。


“1週間後お前はタイム・アイを失い左目の力も失う事になるだろう。”


 これってもしかしてこのことか?

 だが左眼を失うとは書かれていないだろう!

いったい何でこんな事に?

「一ノ瀬君、これが君の左眼……闇殺しの左眼の真の姿です。」

 冬侍はそれを持っていた。

光り輝く一本の刀。

 鉄などで出来ていない本当に光の刀という表現が一番ベストであろう。

 黄金に輝くその刀はまるで闇を打ち砕くために出来た刀と言ったところか。

「無限光刀……infinite shine これが一ノ瀬君の左眼の真実です」

 冬侍の言った事に対して俺は言葉を失った。

 俺はそのとき左眼の痛みを忘れていた。眼を奪われ、今まで幻術眼だと思っていたのが実は闇殺しの左眼でそれを眼球ごと奪われて結果刀でした。

 冗談じゃない。俺の力はこうして失われていくのか?

いつか黒龍紅までも……

 俺はそのことを考え左眼があったところを押さえる。

そこである事に気づく。

(眼がある……痛くない……それどころか普通に目が見える!)

 俺は自分に何があったか分からなくなってしまった。

無いと思っていた左眼があり、失明をしていなく、痛みが消え、何事もなかったような普通の眼であった。

「すみません、闇を倒すにはこれしかなく、さらに言うなれば僕がやった事た一ノ瀬君の中にある力を取っただけ。」冬侍は闇が斬られた方向を見て、「一ノ瀬君の左眼はこの刀を封じるための鞘だったんです。」

「鞘?どういう事だ?」

当たり前ながら身に覚えはなかったので俺は疑問系しか浮かべられなかった。

「闇を破る方法はただ一つ、光の力を持って破るしかないんです。」

「と言う事は俺の左眼があいつの弱点っていうのは合っていたのか。」

「えぇ、ですが見ただけでは倒すには不十分」いえ……と間をおき、「不可能だったんです。」

 そこでまずい状況が起こった。闇が復活を遂げた。

紅葉はそれを自分の雷で焼こうとしていたがそんなのは無に等しかった。

それが無理であると悟り紅葉は俺たちの元に駆け寄ってきた。

 そのときハルと恋夏もかけてきた。

「四季、どう考えてもあれはワシじゃ倒せんぞい」

「分かってる。俺でも不可能だ。」

「じゃあどうするんですか?」

「あたしのサイキも効かないし、紅葉君の鬼の力だって通じない、四季君はもう黒ちゃんしか力無いし……」

気を遣っていると思うのだが心なしか恋夏はなんか笑っていた。

もしかして俺が弱くなっていくのがそんなにも嬉しいのか?

「大丈夫です。ここからは僕一人でやるので」俺たちにそう言い闇の方を向いて、「あいつを倒すのは僕だけですので」と笑顔を見せた。

 闇は体をグチュグチュと変な音を立てながら人の姿になっていく。

 黒い人間。肌の色は黒。眼の色は黒目のところが赤という事しか分からない。

そいつは両手を体の前で合わせ、ゆっくりと離していく。

すると真っ黒な刀が現れる。

 一言で言うと真っ黒な刀なのだが、その刀は青紫色のオーラを保っている。

「………………………暗黒魔剣、ラグナロク」

 笑っていた。さっきまで眼以外は分からなかったのだが顔の下には紙に書いたような口があり、笑っていた。

「では、いってきます」

 冬侍はそう言って闇の元に歩いていく。

黄金の刀と暗黒の刀が向き合う。

力の大小は恐らく同じであろう。ただ……

「闇、君は僕の大切な一太刀を傷つけすぎた。まだ知り合って1週間だけど……」

そこは言わないでくれよという俺たちの気持ちを、知ってか知らずか冬侍はクスッと笑い、「今までありがとう。僕はもう君に惑わされる事はないから……」

「…………それは俺様も同じだよ」

二人の刀がぶつかり合う。その瞬間、空間が光と闇に真二つ分かれた。

「「「「冬侍さん(君)!!!!」」」」

 俺たちはそれを見ている事しかできなかった。

力のぶつかり合い。分裂する二つの力。勢力、裏表、光闇、強弱、速遅、大将になる何もかもがこの瞬間ぶつかり合っていた。

 冬侍が3年前に抱えてしまった闇という爆弾。それが今爆発し、3年間の集大成を身につけ冬侍に襲いかかる。

俺たちは気づく。

“冬侍が押されている”

 光の方が押され始めている。このままだと冬侍がやられる。

「おいお前等!何やってやがる!?」

その声に振り向くともはやオールバックと言うにはあまりにも滑稽な髪型をしてもう一つのトレードマークであるサングラスのグラッパーを失った時雨がいた。

「どういう事だ師匠?」

「手伝ってこい。お前達の力を俺に見せろ。SEASONの絆って奴を!」

時雨の言葉が俺たちに響く。今闘っている自分たちの仲間を、見ているだけしか出来ない俺たち闘ってこいと言っていた。

「恋夏……テレポートで俺たちを冬侍のとこに連れてってくれ。」

俺は時雨の言葉にようやく自分の……自分たちのすべき事に気づいた。

「分かったわ」

 そう言った恋夏にみんなつかまった。

そして恋夏は大きな声で、「テレポート!」

 だが、何も起きない。そんな状況に恋夏は、「……みんな体重何㎏?」

俺たちはその質問に素直に答えた。

「俺は62㎏」「ワシは65㎏」「私は54㎏」「俺はえぇっといくつだっけなぁ……たしか78㎏だったと思うぜ?」

「……時雨先生は抜きにしてあたし等だけで行くわよ。」

ちゃっかり自分の体重を言わずにそう言った。

「どうしたんだ?」

「300㎏超えるとテレポート出来ないの」

「恋夏……お主体重すごい事になっとたんじゃのう」

恋夏が笑いながらサイキを紅葉に使う。紅葉は苦しみながら床をのたうち回る。

「ワシが何を言ったんじゃ!ワシは何も悪くない!」

「あんた以外あたしの体重について触れた人は……そっかぁ四季君と時雨先生もあたしの体重がちゃっかりすごい事になってるって考えてたんでしょ?」

「「へ?」」俺と時雨は同時に言った。

今ここに無益な殺生が行われようとしていた。

「サイキ!!」

「いでぇぇぇぇっぇぇ!」「おいおい、痛いなぁこれは何って言うか足坪マッサージを全身に受けているようなァァァァァァァァァァッァア!!!」

黒龍紅が何故か俺の痛みを直接くるようにしているため俺にフルでダメージが降りかかってきた。

時雨は強がっているもののやはり無理だったらしい。

冬侍の方はもう大変なくらい追い込まれている。

「恋夏!時間がねぇ!後でいくらでも喰らってやっから師匠以外の奴らを冬侍の元へ!」

「……仕方ないわねぇ。後でちゃんと殺させんのよ?」

恋夏さ~ん。喰らってやるとは言ったけど、殺していいとは言ってないよ~~

シュッ


 気づくと俺たちは冬侍の真横にいた。

「一ノ瀬君?離れて下さい。このままだとやられてしまう。」

「…………ふざけんなよ」小さな声で俺は呟く。

闇の刀がもう冬侍の事をいつ斬るか分からないこの状況で俺は言う。

「ふざけんなよって言ってんだよ!!」

俺はその瞬間冬侍の持つ俺の力であった光の刀を掴む。

そして冬侍と共に刀を押し始める。

「紅葉!ハル!恋夏!お前等も冬侍の事手伝え!」

その声に3人はすぐにぞれを実行した。

「みなさん……」冬侍は泣きそうになりながら、「ありがとうございます」

「後でいくらでも聞いてやるから今はこいつをボコすんだ!」

「「「おう!!」」」

光が闇の力を押し始める。さすがに1対5では闇の力も負けるらしい。

「……四季、てめぇはどうしてこいつを助けようと考えたんだ?」

闇が刀を必死に防ぎながら聞いてきた。

「俺は自分のやりたい事をやったにすぎねぇんだ」

「やりたかった事?何言ってやがる。俺様は冬侍であり冬侍でない。助ける存在であり倒す存在だった。」闇は寂しそうな眼で俺の事を見つめている。

その紅く血に染まったような眼で……

「俺は目の前で困っている奴がいたら手を伸ばす、声をかける、そして」少し間をおいて、「必ず助ける!」

フッと小さく笑い、「そうか、満足だよ。俺様はてめぇと巡り会えた事を感謝する。」

闇の力が一気にふくれあがる。

「四季君!」「四季!」「四季さん!」「一ノ瀬君!」

「こいつ、まだこれほどの力が……」違うなと俺はつぶやき、「俺たちとは本気でけりをつけたいって事だな!」

 俺は笑う。さっきまでの自分の弱さを隠すための笑いでなく本当に楽しそうな笑顔を、そのことにSEASONのメンバーも気づき皆笑った。

 あとすこし……あと少しでこいつを倒す事が出来る!

冬侍を闇から救い出せる!俺たちの部活を作る事が出来る!

「「「「「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」」」」」

俺たちは皆最後の力を振り絞り押し戻されそうになった刀を押し返す。

「……………………………冬侍…………さよなら」

ザシュ

 俺たちの刀が闇を切り裂く。真二つに……闇の持つラグナロクごと。

その瞬間ピシッという音と共にディメンション・アイによって作られた空間が消える。

場所は校門前、そして大雨が降っていた。

ザァァァァァと響き渡る大きな雨粒を浴びながら俺たちは不思議な気持ちになった。

しばらくしてすぐに雨は弱まっていく。小降りになったところで 、「皆さん、ありがとうございました。」泣き声、涙目、号泣。

 冬侍は今その状況にあった。

「……自己紹介と行こうぜ?冬侍」改めて自己紹介を……よく考えるとSEASONの自己紹介はやった事がなかったしな。「1年5組出席番号2番中学は天上中学。能力はもう、黒龍紅ただ一つ……一ノ瀬 四季」

フッと笑い次の人が自己紹介を始める。「1年5組出席番号1番中学は天上中学。鬼人間の秋風 紅葉じゃ」

「1年5組出席番号13番中学は荒凪中学。超能力者!涼川 恋夏よ」

「1年5組出席番号24番中学は荒凪中学。能力はありません。春桜 桃」

「「「発明は!?」」」

一番言わなくちゃいけない事なのに何で言わないんだろうという事に俺たちは勢いよくつっこんだ。

「あっそうでしたね。趣味は発明。多分出来ない事は何もないと思います。」

 今こいつ出来ない事は何もないって言った世なぁ?

ミスしかしないような奴が何言ってやがるんだか……

「…………」

「冬侍、お前も名乗れよ」

 黙っている冬侍に俺は優しく声をかけた。

紅葉、恋夏、ハルも優しい眼で冬侍を見つめる。

「僕は……」少し間をあけてから、「1年5組出席番号19番能力は……何でしたっけ?」

「それは忘れちゃ駄目だろ?」

「あっ、読心とディメンション・アイです。闇の力はもう無いんでよろしくお願いします。」

全員の自己紹介が終わった。そしてそれを見てもう一人いらない自己紹介をした奴がいた。「光臨高校1年の世界史教師にして一ノ瀬の師匠……時雨 龍哉だ。さっそくだがお前等に仕事を言い渡す」

 雨がやんでオレンジ色の光が差し込んでくる。

 時間が分からなかったがもう夕方であった。

夕日を背にして時雨は、「俺のグラッパーとっとと買ってこい」

彼は諦めていなかった。闇の冬侍に壊されたサングラスを……

「「「「「自分で買ってきて下さい」」」」」

俺たちの言葉が初めて同時に放たれた。

「ちっ、しゃあねぇ。じゃあ明日からも学校有るから忘れずにこいよ~~」

時雨はそう言ってとっとと帰っていった。

「終わったな」

「うむ、ようやくのう」

「そう言えば四季さんにお聞きしたい事があるんですが……」

ハルが何故か気まずそうに聞いてきた。

「どうした?」

「…………四季さんは本気で闘かったことありますか?」

「ん?俺はさっきだって……本……気で」

バタッ

「四季君?」「四季!」「四季さん?」「一ノ瀬君!?」

俺の体力が限界に達してその場で倒れた。

 俺はその後1週間気を失っていた。

そのときハルは(四季さんはどうして髪の色が紅くならなかったんだろう?)と口に出来なかく、その言葉を心の中で呟いた。


「四季、やっぱり両眼の力を失ったか……まぁお前はここからSEASONでやってくんだからそれでいいんだ。……まぁ5大瞳術のうちの一つタイム・アイは俺がいただくがな。」

 その男は光臨高校の屋上から四季達を見ていた。

 視力は7.0を誇り一ノ瀬家の長男である一ノ瀬 夕日は笑いながらその光景を見ていた。

「俺の力で時間も夕刻にしてやった……感謝しろよ?」どうして夕刻にしたのかは分からなかったが、周りには人がいなかったのは確かであった。

「さて、時雨の奴にグラサンでも買ってやるとするか……百均で」

笑って夕日は屋上から飛び降りる。手を大きく広げ風を感じて。


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