第三話 戦闘三日前
戦闘三日前A
次の日になった
今日は金曜日、来週冬侍との闘いがある。
だが、今の俺には何も出来ないと感じていた。
なぜなら本気で闘って俺はあの様だったのだ。と言う事はまだ力を極める必要があると思う。
まぁスーパーオキシドールXを飲んだから何とかなるであろう。
朝は勿論フレンチトースト!ではなく今日はハムエッグであった。帰りにバターを探してこようと考えながら俺は登校をする。
紅葉は未だに修行というなのサボりをしているらしく、今日も俺一人で登校であった。 なんというか一人で登校というのはなんか嫌な事である。
なぜなら、一人で登校するときにはろくな事がない。例としては冬侍である。
初めて声を掛けられて殺されそうになるという貴重な体験をさせてもらった。
というよりも入学式前日より俺の身の回りには普通の人……いや凡人には体験できるような事では無いな。
俺は昨日の生徒指導を思い出しながら歩く。
何故俺が二時間も生徒指導を受けねばならなかったのか。
決まっている。恋夏が俺に精神干渉してきたせいだ。
「おい、一ノ瀬!」
その声に俺は後ろを振り向いた。この声は何処かで聞いた事が……主に昨日の朝に……
そこには髪をオールバックにして黒いサングラスを掛けた男が、「仕事だ。今日はえぇっと……何にしようかなぁ」
「決まってないならむやみに俺たちの事を巻き込まないで下さい」
俺のセリフを無視してグラサン男もとい時雨先生は、「そうだなぁ、じゃあちょっと俺と闘ってくれ」
「は?何言ってんですか?」
「俺はまじめに言ってるんだぜ?というより昨日俺ん家のポストに手紙が入っていたんだ。」
手紙?俺の家にも一通の封筒がポストに入っていた。
もしやその手紙って……
「それ俺で……と闘う事に意味なんてあるんですか?」
俺は最近闘いが多いと感じ小さいため息をつき、そのことを聞いた。
「来週二海道と闘うんだろ?」
「という事はやっぱりその手紙は夕日兄さんからですね?」
俺のその質問にふっと笑い、「そうだ。このままでいくとお前は二海道に負けるって書いてあってなぁ。それで俺に頼んできたんだ」
俺は少し考えて、「分かりました。では闘いましょう。」と言う。
「今日から3日間お前は俺が預かる。他の教師共には忌引きにより長い休みをいただくって言ってといたから平気だ」
どこが?どこら辺に平気な要素があったの?
「学校は行くなって事ですか?」
「そうだ。お前は今日から三日間俺んちでひたすら修行残りの2日間で自宅に帰りゆっくり休む。そういう生活を今日から送ってもらう。」少し間をおき、「覚悟しろよ?」とヤクザや堅気の方がする最高の笑い顔を見せる。
やっぱりこの人は教師よりそっち系の職業に就いた方がいいんじゃないのか?
○塚のような教師をする時雨の考えを否定したかったがそれは出来なかった。
「さあ早速行こうぜ?」時雨は俺の事をロープで縛り50m程歩いたところにあった黒いスポーツカーに強制的に……強制的に!俺の事を乗せ走り出す。
誰かこの光景を見ている人がいたら警察に連絡して下さい。
犯罪者がここにいます!俺の事を助けて下さい!
俺の声は無情にも届かない。俺って高校入ってからもしかして運が異様に……いや不幸体質になってしまったのであろうか?
黒いスポーツカーは10分ほど走ったら止まった。
ここは家というにはあまりにも広く、そして暗い。
「俺ん家だ。まぁ、普通の人から見たらここは通常廃工場と言うところだ」
「ここで何やりゃあいいんですか?」
俺はそういったが、今の現状を思い出し、「時雨先生、俺のロープを解いて下さい。」
きつきつに締め上げられたロープからの解放を俺は求めたが、時雨はそれを許してはくれなかった。
「そのロープを自分の力のみで切れ。黒龍紅はなしな」
厳しい口調でそう言ってロープから解放する変わりに俺を……
「何であんたが黒龍紅を知って……グホッ」
腹を蹴り上げられたため俺は口から吐血をした。
そしてその食い込んだ足をさらに食い込ませようとする。
「何すんだ?それがあんたのやり方か?」
「俺のやり方?違うな。」時雨は少し黙ってから、「その程度のロープを破る事も出来ずに二海道に勝てるはず無いだろ?」
「………………」
その通りだった。俺はあのとき負けた。
事実手がだせず、なんもやる事が出来なかった。
「分かったらとっととそれから抜け出しやがれ」
「スッゥゥゥゥゥゥゥ」大きく息を吸い上げ、「だぁぁぁぁぁ!!」
俺の吼え越えと共にブチッという音と共にロープがちぎれる。
「やれば出来るじゃないか。さて、やり合うぞ」
サングラスを外す姿を見てこの人は本当にヤクザ関係の人だと思いつつもその目を見るがその目は俺の予想を上回る程冷たい目であった。
「黒龍紅!紅黒刀!」
一般人相手にこれを使うのは気が引けたがそんな事は決してないとすら思えた。
目の前にいる時雨は敵、殺気立つ敵。
「獲物で闘うのが好きなんだな。いいだろう俺も獲物を使おう」
獲物?そんなものはどこにも見あたらない。
だが、時雨は背中に手を回し、右手には確かに何か握られている。
握られていると分かるのにそれが何か分からなかった。
「明鏡刀。これは目に見えない刀だ。」
「あんた何かの能力者か?」
「違うぜ?俺はあくまで一般人だ。この刀は夕日からもらったものだ。ついでにいい子と教えてやる」時雨先生は軽く笑って、「俺の力は夕日と五分五分だ」
「えっ?」
「えっ?じゃねぇよ。さて、時間ねぇしさっさとレベルアップしちゃおうぜ?」
目に見えない刀を俺に対して振ってくる。俺と時雨先生との距離は10mと言ったところだろう。俺は完全に油断していた。だからこの考えが出てこなかった。
“明鏡刀の長さは?”
「四季!その刀長い!」
「えっ?しまった!」
空気を切り裂く音が確かにする。
その音はどんどん近くなる。
「どっちだ?」
右?左?俺は冷静な判断が出来なかった。
だからこそ時雨先生の手の動きを見ていなかった。
恐らく見ていたらこんなにも苦労する必要など無かったであろう。
ザシュッという血しぶきと共に俺の右腕から勢いよく血が出る。
「油断してんじゃねぇ。これは殺しあいだぜ?」
「分かってる」
右肩にひんやりと触れる冷たい金属に血が垂れていく。
そこでようやく斬られたと自覚した。
「なら本気でかかってこい」
「言われなくてもやってやるよ!」
俺は声を上げた。本気でかかってこい?そんなの言われなくても分かっていいる。
だがそんな反則刀に対して俺が出来る事なんて何がある?
とりあえずは刀身だ。それさえ見えれば…………
「……本気なんて出せないんじゃないのか?本気でやって負けるのがいやなのか?だから二海堂にやられたんじゃないのか?」
時雨が俺の事を揺さぶってくる。本気?いつだって本気だ。
生きていく上で本気を出さねばならない事なんて沢山ある。にして俺は声を上げる。
「そんなことはねぇ!」
俺は一瞬でVER悪魔になって時雨の元に飛んでいく。
漆黒の翼が風を切り空気を斬る。そして速攻で刀を振るう。
「夕日からもらったこの刀はすごくてねぇ……長さも変えられちゃうんだよ」
キンッという音と共に俺の刀から火花が散る。
「可哀想に、お前は特効しかやる事がないのか?」
「どうかな?」
俺は時雨先生から離れて刀を上に持ち上げる。
そして、「紅黒斬破!」冬侍のまねごと……スーパーオキシドールXを飲んでから出来るようになった飛ぶ斬撃。これは交わせないだろう!
「懲りないなぁ。もっといい方法で闘いやがれ」
そういって時雨先生は軽やかに体をくるっと回し俺の斬撃を交わす。
そして手を前に突き出した。
「はい、これで終わり」
俺の胸から少量の血が流れてくる。
確かに終わっていた。力の差がありすぎる目の前にいるこの男に勝つ術が俺の頭には浮かんでこなかった。
今俺が選ぶ事のコマンド。1たたかう、2逃げる、3防御、4降参
「やっぱ1番でしょ!」
後ろに下がり俺はもう一度紅黒斬破をやろうとした。
そんな俺を見て、「違うな。今の段階ではとりあえず相手の力の分析。そのためには、むやみにつっこんでいくより防御をして相手の出方や力などを見極めるのが正しい判断だ。ましてや俺の明鏡刀という見えない刀に対してはこれが一番いい、覚えておけ。」
「そんなのやってみなくちゃ分からないだろ!」
「わかるよ」オールバックの髪をぐしゃぐしゃといじりながら、「俺がここで明鏡刀をのばしたらどうなると思う?」小さいため息をつき、「お前は周りが見えてないんだよ」と当然の事を言う。
「…………」
「四季?やらないの?」
「…………もう出来ない。明鏡刀の刀身がさっきと同じように刺さちまってるからな」
胸に刺さる刀に少量の血液が流れ、ボタボタと垂れている。
「どうした?降参か?」
「……これしかないな。」
俺の最後の考え、これが駄目なら諦めるしかない。
後ろに下がり、「紅黒……斬破!!」
「俺の忠告をちょっとは聞きやがれ。伸ばしたらどうすんだよって?」
「それを交わしてから紅黒斬破をやれば問題ない!」
「無駄な考えだ。」と先ほどグシャグシャにした髪を左手の手ぐしでオールバックにしながら、「俺の刀は突き刺すだけの刀じゃないんだぜ?そこんとこ分かってる?」
放たれた紅黒斬破を交わし手を大きく横に振る。
「分かってるよ。だから今俺はVER悪魔なんだ。」
俺はそのときすでに時雨先生の後ろにいた。そしてすぐさま刀を振る。
そんな不意打ちにもかかわらず、時雨先生はいとも簡単に俺の太刀を止めた。
「ちょっと休憩しよう。今のお前と殺し合ってもお前のレベルは上がらない」
「なっ」
サングラスを掛けなおし、「そこのドラム缶にでも腰掛けやがれ。少し話がある」
俺は言われたとおりドラム缶に座る。
「話ってなんですか?」
「お前は守るものがあるのかって話だ。」懐からたばこを取り火をつける。
そしてたばこと同じように時雨先生にも火がついたように、「守りたいものがあんのかって聞いてんだよ!」
「……」俺は答える事が出来ない。自分には守りたいものなど無かったからだ。
「じゃあ俺には勝てないな。……じゃあ俺が決めてやる。」たばこの煙を吐きながら、「SEASONの部員を必ず守れ。命に代えてもな」
「……それで何かあるんですか?ここは現実世界です。漫画とかとは違います。……俺は強くはなれない」
「そうか、じゃあいい事教えてやる。二海堂との闘いは4日後だ。だが、あいつは3日後に春桜と涼川を襲って殺すつもりだ。」
「えっ?」
予想していなかったと言えば嘘になる。
夕日兄さんからの手紙にみんなで協力して冬侍を倒せと書いてあった。
それは少なからず俺たち、SEASONと言う部活に直接関係してくるものである。
「だったら俺がもう一度あいつに挑んでやる」
「俺にも勝てない奴が挑むのか?」ふっと笑い、「まぁ俺の方が強いから俺が闘うのが一番早いんだけどな」
「生徒を助けないで教師をやる気ですか?」
「これは俺の問題じゃない。これから部活をしようとするお前達の問題だ。つまり、俺が口を出す資格なんてなんもないんだ」
「だったら俺が行くしかないじゃないかよ!」
「2日だ。」たばこを携帯灰皿に入れながら、「お前を絶対2日で仕上げてやる。」
強気に満ち溢れた声で時雨先生は言った。
「休憩終わり。ここからは剣術でなく武術だ」
「……」俺は黙って拳を握りしめる。
俺の手のひらには恐らく爪痕がくっきり残ってしまうだろう。
冬侍との闘いまであと3日。
俺と時雨の激しい修行が始まろうとしていた。
戦闘三日前B
ところ変わってその日の朝。
恋夏とハルはいつも通り登校していた。
荷物を持たずに歩くハルと対照的に恋夏は大荷物を持って登校していた。
その理由は単純明確である。ハルは超が二つつくほどの天才。恋夏は簡単に言うとまぁふつうの学力なのである。
そんな二人は今日の朝SEASONのメンバーの心配をしていた。
「今日は紅葉君来るかなぁ?」
恋夏の質問に対して少し黙ってから「……来ないと思うよ」と元気のない声でハルは言う。
「どうして?」
「紅葉君のやろうとしている事はきっと私たちじゃ想像も出来ないくらいすごい事だと思うから……」
そういったハルの顔は何処か寂しそうな顔をしていた。
「そっかぁ、でも来週になればあたし達は本当の部活をやる事が出来る。」恋夏はハルを慰めるわけではなくむしろ自分に言い聞かせるように、「それってすごく楽しい事だと思わない?」
「そうだね。私も楽しみになってきたよ。」
そんな二人の前を黒いスポーツカーが走っていく。
運転席には黒いサングラスを掛け髪型はオールバックの一見するとヤクザのような人が運転していた。
「あれって時雨先生よねぇ?」
「今日は学校休みになっちゃうだろうね」
あきれ顔になる恋夏と対照的にハルは楽しそうな顔をしていた。
「さて、今日は何か楽しい教科あったかしら?」
ハルは笑いながら、「身体測定」
そんなハルの言葉にうっと言う声を上げ。「は、今日あたしが中止にするから大丈夫」
恋夏の自己中心的な考えに、「一年間の記録は取らなくちゃ駄目だよ」とハルは言う
「バストとかハルは気にしないからいいよねぇ」
恋夏はそういって自分の胸を見る。
「私の胸の方があるもんね~~」
「あんたあたしにそれ言う?」ボカボカとハルをたたきながら「あたしだって日々成長の兆しを見せているのよ!」
「…………知ってるよ。その分体重も増えてると思うけど……」
ハルは恋夏の方を全く見ずに言う。
「今の間は何?そしてどうしてあたしの方を直接見てくれないの?さらに言うならハルは本当に女の子?体重の事を普通に言うって普通の女の子じゃあり得ないと思うんだけど!」
恋夏が怒って言うもののハルは、「さて、早く行かないと遅刻になっちゃうよ~~~」と言って走っていく
「あっ、あんたあたしの質問答えなさいよ~~~」
走っていくハルの後ろを追いかける形で恋夏は駆けていく。
梅宮先生は本玲から10分遅れで教室に入ってきた。
「ごめんごめん、ちょっと寝てたら遅れちゃったぁ」
クラスの全員が恐らくこの人本当に教師か?と思ったであろう。
「今日休んでいる人は……秋風君、一ノ瀬君に羽島さん、あっ、嵐神君も休みだね。風邪がはやってるみたいなんで皆さん気をつけてねぇ。今日で高校生活最初の週は終わりだけど無茶せず頑張ってねぇ」
そういって教室から出て行く。
「四季君と紅葉君今日は休みだって」
「四季さんは気になるね。紅葉さんはどうせ修行というなのサボりだと思うけど」
そんな会話をしている恋夏達に白銀の髪をなびかせた男が近寄ってきた。
「一ノ瀬君と秋風君は今日休みみたいですね。何かあったんでしょうか?」
「あぁ、冬侍君。何か知ってる?」
「僕は何も知りませんよ。ただ、疼くんですよ闇の僕が……」眼鏡を外し、「もう聞いてるんだよなぁ俺様の事は?」
突如現れた冬侍のもう一つの人格。闇というのが正しいのだが、何故今出てくるのだろうか。
「あなたがもう一人の冬侍君ね?」
「あぁ、それにしてもつまんなそうな顔してる二人だなぁ。そんなんじゃ人生つまんなくねぇか?」口元を大きく歪ませ皮肉を込めて言う冬侍に対して大きなお世話よと恋夏は言う。
「いつでも出てこれるんですか?」
「朝と昼はあんまり出てこれないんだがな、まぁてめぇらと軽く話でもしたかったからちょっと光の冬侍に話し持ちかけてみたんだ。」
予想外にフレンドリーに接してくる闇の冬侍に恋夏とハルは戸惑いを隠せない。
「俺様が何でフレンドリーに話を持ちかけるか不思議そうな目だなぁ。」まっ、きまってるそういって、「光の冬侍が今の俺様に少し混じっている状態だからだ。そうでなければ今すぐにディメンション・アイで殺してると思うからな」
最後の部分を小さな声で言い
冬侍は恋夏達に背を向け自分の席に帰っていく。
「そういえばあと二人休んでたよねぇ?」
周りの席を見渡しながらハルは言った。
「ハル、今の話の展開的にその言葉は違うと思うわよ」
闇の冬侍の事より、クラスメイトの事を心配するというのはどうかと思ったが、まぁその二人も気にならないと言えば嘘になる。
「あの二人ってなんか面白い特性持ってるらしいよ」
「あたし達みたいな?」
「正確には、羽島未来さんが今が言えないけどすごい秘密があるの。嵐神 和馬君はただの一般人なんだけどね」
「どうしてそんな事知っているの?」
「気分で昨日クラスの人の特技とか能力を調べてみたの」
暇つぶしでそんな事をするのはまずあんただけだよと感じつつも恋夏は小さくため息をつき、「未来って何?」という。
「今の私たちには関係ないわ。むしろあの二人は私たちに助けを求めてくる側だと思うの。」
「……なんかすごく気になるけどとりあえず無視しろって事でいいのかしら?」
「うん。人の事よりまず私たちの部活を完全に完成させないといけないからね。」
後ろで縛ったふわふわな桃色の髪を自慢げに見せつけながらハルは言った。
「じゃあ完成したらあの人達相談役第一号にしない?」
「いいね、その考え!」
部長の四季がいない中でも彼らは勝手に決めてしまう。
本当の問題は、未来の問題について自分たちが解決できると思っていることである。
「さて、紅葉君だけでなく今日は四季君もいないのか。」
「あの二人っていればうるさいところもあるけどいないと寂しいんだよねぇ」
まだ会って1週間も経っていないのに彼女たちはこんな気持ちになっていた。
いればいつも話していたあの二人、いなければやはり寂しいものがある。
その寂しさを紛らすように、「1限目ってなんだっけ?」と恋夏が言う。
「数学よ」
「その後をちょっと全部言ってくれない?」
ハルはうんと言い、「1数学2体育3、4家庭科5、6身体測定だよ」
「てことは、あたしは5時間目に測定器具を片付けに行かなくちゃならないということね。」
まるでそれが当たり前のように言う恋夏だが実際は自己中心で動いているにすぎなかった。
「ミッションは予想外に大変よハル……」
あきれ顔になってハルは、「私やらないよ」としっかり言った。
しっかり言ったのだが、「ん?一緒にやりたくてしょうがない?困ったわねぇ。」まぁといい、「あたしに後れを取らないようにしてね」
恋夏の耳は身体測定を破壊する仲間を集める時は自分の都合のいい事に変換できるという力があった。
「私、四季さんに頼まれてたの作るから……」
「四季君も手伝ってくれるかも?それは無理よだって四季君今ここにいないじゃない。」
ハルは首を横に大きく振りながら、「そんな事一言も言ってないよねぇ?」
そこでチャイムが鳴り数学教師五十嵐先生が入ってくる。
「えぇ、早速ですが今日の身体測定は都合により……」
恋夏の目が大きく開き、期待の色に染まっていく。この話の流れはもしかして!
「3,4時限目に変更になりました」
「オーマイゴーーード」と恋夏は声を出し、机にひれ伏した。
ハルは後ろを向いて、「なっちゃんドンマイ!」いい事あるよといういまいち慰めになっていない事をいい、「まぁ成長してない可能性もあると思うんだけどね」
恋夏の顔が笑い顔になっていく。外面は笑い顔、内面は恐らくひどい怒りに満ちているだろう。
「では、今日は涼川、お前がこの問題を解きなさい。」
「へ?えぇっと『四季君!HELP!あぁぁぁぁぁいないんだった!』ヒントを下さい!」「中三で習っただろうに(x-2)(3x+1)の解き方ぐらい……そうだなぁ俺ににヒントを聞いてくる奴がいるとは思わなかったぞ。」
「そこを何とか!」
はぁと大きなため息をつき、「分配法則!」
分配法則?あれかあの何か分配できる奇跡の公式?あれ公式じゃなかったけ?こんな時は、「分かりません!」潔く言うのみ!
そう、恋夏はピンチの時は確実にこうして生きてきていた。
たとえそれが常識論を求める回答だったとしても……分からないものは分からないのである!
「…………春桜、代わりに答えなさい。」
「はい、3x 2ー5xー1です」
「正解だ。では次は高島……」
五十嵐先生は素早く正解という言葉を言い次の人に回答権という悪魔を回していく。
『分かってたんだったら教えてよ』
精神干渉で恋夏はハルに追求する。
『分配法則は数学をやる中で確実に必要になるものだから分かると思ったの』
『あたしの数学力をなめないで!解けても比例反比例までよ!』
『……一時関数を比例と呼ぶのね。なっちゃんは高校生をやめた方がいいと思う。それで妹の海璃ちゃんが高校生にあがった方が絶対にいいと思う。』
さりげなくひどい事を言っているハルだが実際のところ高校生で比例というのは……いや、この進学校である光臨高校の生徒がそれではまずいのは確かである。
『じゃああたしはもう寝るから』
心の中でそう言って、恋夏は机に寝る姿勢を取った。
『わかったわ』でも……とハルは心の中でいい、『いい事無いわよ』と背中を見た限りではどんな表情をしているか分からなかったが言った。
『なんで?』
恋夏は机に寝た状態で聞いた。そして次の瞬間何故それを言ったかすぐに分かる事となってしまった。
「えぇ~~~~と次の問題は……あっ、また涼川か」
「ふぇ?先生!さっき当たりました!」
「残念もう一週回ってる」
「……パスでお願いします。」
五十嵐先生は数学の教科書を片手に笑い、「今からみっちりしごいてやるから覚悟しろよ?」
恋夏はその日、数学の特別補修のせいで身体測定をしっかりと行うことになった。
結果はまぁ平均通りの普通の結果だった、……胸の大きさを除いて……ちなみにハルは、バストサイズが平均より上回り恋夏の事を笑っていた。




