篠ノ木の殺人鬼達
何故か此方さんの店に連れてこれ、出されたコーヒーを片手に目の前に座る『篠ノ木夭伽』と名乗った殺人鬼は楽しそうに笑っている
状況が分からない
が、なんとなく落ち着いてきたからか改めて少年の顔を見て思い出した
こんな笑顔を見たことはないが、まさしくこの顔は冠星学園の隣のクラスに通う少年の顔と同じだった
そして思い出す
リリアちゃんから初めて聞いた人外の内、片方の殺人鬼の話を
殺人鬼の篠ノ木
『篠ノ木夭伽』、素行の悪さで槙桐さん程では無いものの有名な男子生徒である
「機織がなんか男と付き合い始めたって聞いた時は驚いたぜ、どんな奴が好き好んで人外なんかと付き合うのかってよ。
だがまぁ、アンタみたいな奴だとはなぁ。案外意外というか、アイツの好みはアンタみたいなのか」
何故か納得したように頷く篠ノ木に、僕は首を傾げる
「僕みたいなのってどういう意味?」
「あぁ、いや、別にアンタを否定したわけじゃねぇぜ? ただまぁ、納まる場所に納まったような感じだなってな。ま、お似合いだよ、アンタとアイツは」
「ごめんよ、空いているかな?」
誉められたか分からない言葉と同時に、三人の女性が店へと入ってきた
片や上下ともグレーのスーツに身を包み、これぞキャリアウーマンと言った雰囲気漂う美麗な女性だ
肩まで伸ばされた黒髪のセミロング、パンツタイプのスーツがやけに似合う女性
片や淡い水色のロングのワンピースに薄手のシャツを羽織った少女
先程の女性と同じく黒髪だが、こちらは背中中程まで伸ばされたロングヘア
僕の方をふと見たかと思えば、俯いてしまった
何かしてしまっただろうか?
最後の人はリリアちゃんでした
「見ての通り空いてるよ。というか、アンタらの身内が来てるんだけどね?」
店内に居るのは僕と篠ノ木だけである
僕がリリアちゃんの身内として、残る二人は篠ノ木の身内という事だろうか?
「なんだ、姉貴と魅鳴じゃねぇか。それに噂の機織も、豪勢だな」
「アンタも来てたのかい? そこのはリリアの彼氏ではなかったか? 友達だったのか?」
「そんなはずはないでしょう、知り合いなら私に言っているはずですし。たまたま此処で出会ったか、あるいは無理矢理連れてこられたと言った具合ではないでしょうか?」
さすがリリアちゃん、察しがいい
とここで、俯いていた少女が顔を上げる
その表情は疑念に満ちた顔だった
「まさかお兄様、その方を殺す事つもりではありませんよね?」
「なんだ、魅鳴。まだお前そんな事言ってんのか? そんなんだから皆お前に失望してるんだぜ? どうせならお前が殺れよ、その方がお前の株も上がるってもんだ」
「っ・・・・私は、人を殺したくはありません。それにそちらの方はリリアさんの彼氏さんです。そんな方を手に掛けるのであれば私が」
「お前が、なんだよ。まさか俺を殺すとでも? 人も殺せねぇお前ごときがこの俺をか? なかなか良いジョークじゃねぇか、笑えねぇがな」
一瞬にして空気が変わる
篠ノ木とその妹らしき魅鳴と呼ばれた少女はまるで剣を突き立て合うようにして睨み合う
兄と妹という関係とは思えないような会話である
「殺し合うなら別に止めはしないが、やるなら外でやっておくれよ。店の中ではそういうのはなしだ、そういうルールだろう?」
「此方の言う通りだな、私も止めはしないが此方に迷惑を掛けるわけにはいかない。殺りたいなら外で殺れ、馬鹿共」
「いや、止めようよ。兄妹でなんだか物騒な事話してるんだよ? 寧ろそちらの人は二人のお姉さんなんでしょ? なら止めようよ」
「和花さん、こちらのご家族はこんな感じなので今更というか、そんな事を言っても無駄だと思いますよ。
それにどちらにしても二人は殺し合えません。二人は殺人鬼、あくまでも人を殺すだけの存在なのですから」
「おいおい、機織。力を使って殺せねぇだけで別に殺そうと思えばいくらでも殺せるんだぜ?」
「ですがやろうとも思わないでしょう? 何故ならアナタの存在意義に反するからです。殺人鬼とは人を殺すモノ、人外を殺すモノではありません。
そんな殺人鬼のアナタが、同じ人外であり同じ殺人鬼である魅鳴さんを殺せますか?」
まるで、挑発するような言い方だった
もしくは、絶対的な自信があるかのどちらかだ
「悪いな、リリア。ウチの弟達が世話を掛けている。君もだな、リリアの彼氏くん。今日の所は私の顔に免じて許して欲しい、出来が悪くともこんなのでも私の弟なのでな」
「いえ、別にそんな」
「遠慮することはない、ここは私が持つから好きなだけ注文しなさい。私は年下との食事では必ず奢ることに決めているんでな」
そう言って笑みを浮かべる篠ノ木のお姉さんとは打って替わって、不服そうな篠ノ木であった