魔女と魔女と魔女によるお茶会:後
女三人よれば姦しいとよく耳にするが、この空間を例えるなら静寂だった
因みに、『姦しい』とは騒がしい、耳障りという意味である
此方さんはコーヒーカップをタオルで拭い
槙桐さんはようやく淹れられたコーヒーを飲みながらチーズケーキを食し
リリアちゃんに至っては追加で注文した抹茶パフェをスプーンでつついている
静かである
この静けさに、僕は内心気が気でない
嵐の前の静けさとは、よく言ったものだ
「リリア、お前の彼氏の顔色が悪いぞ。何か変な物でも食わされたか?」
「さぁ、恐らくただ単に緊張されているのではないでしょうか? 和花さんはあまり女性が得意ではありませんから」
「なんだ、なら今回は悪い事をしたね。可愛い後輩に彼氏が出来たと聞いて親心というかそんな感じの気持ちでどんな男が見たいと言ったのが仇となったか」
「いえ、和花さんを紹介したかったのは私ですから此方さんは何も悪くはありませんよ。寧ろ未だに女性に対して苦手意識のある和花さんが悪いです」
何故か話し出したかと思えば僕の事だった
仕方ないじゃないか、姉さん達に散々弄り倒され遊ばれて来たんだから
今ではまだマシだけど、中学時代には夜這いすら掛けられてたんだよ? 血の繋がった実の姉からだよ?
寧ろ、女性恐怖症になってないだけマシだよ
本人は僕の慌てた反応見て爆笑してたし
「まぁ確かに女の人は少し苦手だけど、今は落ち着いてきてるよ。それで、今日は僕を二人に紹介したかっただけなのかな?」
「はい、そうですよ。私とお付き合いするという事は、少なからず人外に属する事になりますからね。
言ってしまえばただの人から、人外という枠組みに片足を突っ込んだという事ですから。顔合わせは必要でしょう?」
「まぁ、魔女っていうのは知ってると思うが人外の中では異質異常異端みたいなもんだからね。ましてや人外にとっての人というのは食料だったり殺害対象だったり割と危険なんだよ。
聞こえは悪いが、こうしてリリアの所有物として知らせておかないと和花君もある日突然食われたり殺されたりする可能性もある」
「今回の顔合わせはそういう意味でお前の安全を守る事にも繋がっているというわけだ。最も、それを知った上で襲ってくる奴も居るかも知れんがな。
完璧な保証等、この世にはない。この世に善も悪も無いように、安全というのは完全ではないからな」
人外から見た人を、今一度知った気分になる
「まぁだがしかし、お前は面白そうだ。人外絡みで何か困ったら私に連絡してこい。直ぐに誰か寄越してやる」
「良かったですね、和花さん。樺林さんが味方についてもらえましたよ」
喜ぶべきか悲しむべきか迷う提案ではあるものの、今は有り難くその好意を受け取る事にした
「あまりコイツを信用しない方が良いよ、和花君。コイツは面白いと思った事しかしないからね。君に何かあった時、もし君に被害が及ぶ事が面白いと思えばそちらを選ぶような奴だ」
「おいおい彼方、酷いことを言うな。私とて可愛い後輩の愛する男が死ぬなんて事になればいの一番に駆けつけるに決まっているだろう?」
「お前はそれを知りながらそうなる直前まで楽しんで見ているような奴だと言ってるんだよ。よくお前のような女に煉燒君は付き合っていられる」
「アイツは義理堅い男だからな、私の頼みとなれば暴走族の一つや二つは軽く潰してくれる」
「あの子も災難だねぇ」
そんなこんなでリリアちゃんを含めた三人の魔女との顔合わせは終わった
帰り道にリリアちゃんが「何かあれば私に言ってください」と言われた時には思わず笑ってしまったが、特に何事もなく終わったのは良かったと思う
僕が様々な人外と関わっていくのは、まだまだこれからだ