魔女と魔女と魔女によるお茶会:前
「和花さん、早く準備をしてください。人を待たせているのですよ?」
結局昨日はリリアちゃんからの人外についてとリリアちゃん自身についての話を聞かされ、驚きの連続の末に課題は出来ず仕舞いだった
今日こそはと課題をテーブルに広げ、いざ取り掛かろうとしたところでまたしても背後から見知った声
「リリアちゃん、僕は今日こそ課題を仕上げたいんだよ。後々残してても面白い物でもないし。
そもそも、今日はなんの予定も入れていないはずなんだけどな」
「そうですか、予定がないなら好都合ですね。では早く支度を済ませてしまってください、私に恥を掻かせるつもりですか?」
「いやだから」、そう言葉を続けようと振り替えれば目と鼻の先にリリアちゃんの顔があった
率直に言えば、スゴく近かった
「何ですか? キスしたいのであればご自由にどうぞ。折角恋人になったのですから、そういうイベントなら大歓迎ですよ」
あくまでもいつも通りの顔をした彼女の顔がそこにあった
こういう場合、僕が折れるのが常である
何時でも男は惚れた女の子のは弱いのだ
「分かったよ、準備するから部屋から出て待っててくれない?」
「何故ですか? どうせ将来的には二人とも裸を見せ合うのですから、私はこの場で和花さんの裸を見てもなんともありませんよ?」
「せめてそこは羞恥心を持って頂きたい」
「・・・・・、なるほど、和花さんはそういう雰囲気になりお互いの距離が近付き密接に絡み合う時までは肌を晒したくないとかいう、夢見る処女的な心の持ち主な訳ですか。
なるほど、理解しました。では私は女の尻を追い掛け回す事しか興味がない童貞野郎的なポジションにつく事でバランスを取りましょう。
いいから四の五の言わずにさっさと脱げこの野」
取り敢えず、何かとんでもない事になってきた彼女を部屋の外(勿論屋内である)に放り投げて鍵を掛ける
扉が無駄に悲鳴を上げている気がするがこの際無視してきがえる事にした
「ですからあの場面は私が童貞特有の行為を行う事で和花さんの処女的行動のバランスをですね」
「うん、もうそれは良いからしっかり案内してよ。人を待たせてるんでしょ?」
手早く着替えを済ませリリアちゃんと共に自宅を後にして五分が過ぎた頃
何故か弁解するリリアちゃんを見ながら、僕は促した
「そう言えばさ、誰と待ち合わせしてるの?」
「あぁ、言っていませんでしたね。私の先輩ですよ。昨日和花さんとお付きあいを始めた事を報告したところ是非会いたいと仰られまして、なら今日連れていきますと返事をした次第です」
「・・・・・確かリリアちゃんってさ、女子高に通ってだよね?」
「えぇ、そうですよ。それが何か?」
正直に言って、僕はあまり女性が得意ではない
特に年上の女性は苦手な部類だ
その理由は昔から姉二人に弄ばれて来たからという、シンプルな理由である
「あぁ、安心してください。お二人ともクセはありますが良い方々ですよ。私が尊敬する数少ないお二人です」
「へぇ、リリアちゃんの尊敬する人ねぇ。それはまぁなんというか、色々不安だね」
「何か仰りましたか?」
「いや、なにも」
不思議そうな顔をする彼女を見ながら、街中を歩く
夏休み、昼前という条件もあってか人通りは少なくない
リリアちゃんの話では、この中に人外がいてもおかしくないという話だ
普通の人と見た目もさほど変わらないという人外を見付けるのは、中々難しそうだ
「着きました、こちらです」
そう言って立ち止まった彼女だが、不意に違和感が頭をよぎる
目の前にあるのは普通の喫茶店である
『喫茶 向屋』と看板が貼られた普通の喫茶店である
なにが違和感かと言えば、開いているのに入れないような感覚と言うか
入ろうという意識が沸いてこない
決して入りたくないわけではないのに、入りたくないような、不思議な感覚
「リリアちゃん、なんだか変な感じなするんだけど」
「あぁ、普通の人には入れないようになっているんですよ。まぁ扉も開きますし普通に入れるのですが、和花さんのような普通の方には入れないと言いますか、この距離まで近付かなくてはこのお店を認識することすら出来ません。
まだ手続きもしていませんから、当然かと。とりあえず私と一緒なら入れるとお考えください」
リリアちゃんは当たり前のようにそう言うと、喫茶店の扉を開いて先に入るよう促す
僕は未だに不思議な感覚に困惑しながらも、促されるままに店の中へと足を踏み入れた