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人外についての考察  作者: 左右反転
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カップル成立と前置き

「和花さん、私とお付き合いしていただけませんか?」


夏休み初日、さっさと課題を終わらせてしまおうと机に向かった瞬間に背後から声を掛けられた


「リリアちゃん、いい加減窓から入ってくるのやめなよ、危ないから」


「そんな事はどうでもいいんです。問題は何時まで私を待たせるのかという事です。

いいですか和花さん。私は貴方と出会った翌日に告白した筈です。私と付き合ってくださいと、私は確かにこう言いました。覚えていますよね?」


「まぁ、うん。覚えてるよ?」


彼女の名前は『機織(ハタオリ)リリア』ちゃん

幼馴染みの義理の妹で僕とは七年来の一つ年下の幼馴染みだった


「なのに貴方ときたら曖昧に笑うか無理矢理話を反らす、私はそろそろ我慢の限界ですよ?」


「まぁまぁリリアちゃん、落ち着きなよ。なにか飲む?」


「・・・・・分かりました。和花さんが何時までもそういう態度でいるならば私にも考えがあります」


「どうしたのさ、恐いなぁ」


「和花さん、私は貴方の事を愛しています、好いています、慕っています。一人の男性として、私は貴方を愛しているのです。

和花さん、貴方は私の事をどう思っているのですか?

煩わしい女ですか? それともただの近所に住む他人ですか?」


「・・・・・、それは」


「それは、何ですか? はっきり答えてください。私の事をどう思っているのかを」


この場合、どう答えるのが最善なのだろうか? 

それこそ可愛らしいと近所でも学校でもそこそこ有名な彼女が複雑な表情で僕に問い掛ける

一つ解答を間違えれば泣いてしまいそうな大人びた少女


今でも僕は、全てを知った僕でさえこの状況での最善の解答を得られないでいた


「僕も、リリアちゃんの事は好きだよ。それこそ初めて会った時から」


それでも、こうして笑って彼女への好意を素直に口にした事には後悔はない

無論、今の僕がこの時と同じ状況に戻ったりしたところで同じ答えを出すだろう


詰まる所、『犬童和花(インドウ ノドカ)』という男は誤魔化せても嘘は吐けないのである

それも、七年間好きだった少女への言葉となれば尚更だ


「そうですか、それを聞いて安心しました。それでは今日から私と和花さんは晴れてカップル、恋人という関係にクラスチェンジしたわけですね」


「まぁ、そうなるのかな?」


「えぇ、そうなるのです。しかしながら何故七年間も私の告白をスルーしてきたのかという疑問が残りますがまぁいいでしょう。

私は懐の広い女ですからね、愛する貴方が私への好意を素直に口にした事に免じて気にしない方針を取りましょう」


そう言ってリリアちゃんは己の胸を拳で軽く叩く

その言葉通り、胸には二つの日和山があるのみだ

いやはや、その懐の広さは並みの女性の比ではないだろう


「・・・・・和花さん、何やらイラナイ事を考えていませんか?」


「いや、そんな事ないよ。リリアちゃんの懐の広さと日和山について考えてただけだから」


「何故そこで宮城県仙台市にある日本一低い山について考えていたかは聞かないでおきましょう。私の中の何かが考える事を拒否していますから」


リリアちゃんは咳払いを一つ挟み僕を見つめる

日本人では染めてもここまで綺麗な黄金色にはならないだろうと思えるほどの長い金髪

色素の薄いその白い肌は、窓から差し込む太陽の光を受けて何処か幻想的で

僕を真っ直ぐ見つめる蒼い瞳は、人を魅了し惑わす宝石それのようだった


成る程、彼女の中に流れるモノの半分がイギリスのモノと言う何よりの証拠であろう


「これで、話の本編へ行けるようで何よりです。和花さん、今から私がお話する事は私の妄想でも設定でもありません。

私の話す事がこの世界の真実であり、和花さんのような普通の人では本来知り得ない事実です。

ですからどうか、聞き流したりせずに私の話を聞いてください」




リリアちゃんの話によれば、少し長くならかも知れないという事で台所からジュース茶菓子を適当に持ってきた


ちなみに茶菓子は最中や煎餅である

見た目によらずリリアちゃんは以外と和菓子が好きだったりする

洋菓子も好きらしいが、和菓子の温かみある感じが好みだそうだ


「さて、まずはから話しましょうか。和花さんは、『人外(ジンガイ)』という言葉を聞いてどんな感想が浮かびますか?」


「『人外』? そうだなぁ、なんか変身して人を襲いそうかな。普段は人に紛れて暮らしてるけど、夜な夜な街を徘徊して見つけた人を片っ端から食べる、みたいな?」


「まぁ、三分の一位は正解でしょうか。人に紛れて暮らしてる点では正解ですね。

『人外』は化物のように変身したりしません。人を食す部類もいますが、まぁ殆どあってないような特性ですし。

『人外』とは役割を与えられた存在です。役割を与えられ、それを全う出来るように能力を授けられています。

『人外』とは、文字通り人を外れた存在。ただそれだけのモノです」


「・・・・・まぁ、言いたい事は色々あるけど今は置いておくよ。

その、与えられたって事は役割?を与えた存在がいるって事だよね?」


「さすが和花さん、察しがいいですね。そうです、人外は役割を与えられた存在。ならば役割を与えた存在がいるのも同義です。

人外に役割を与えたのは『神』ですよ、この世でただ一人の」


「神様? 神様がこの世いるの?」


「アレに様は付けなくても結構ですよ。今はただそこに居るだけ存在ですから」


神とは、また話が仰々しい事になってきたものだ


正直、こんな話をされてまず疑うのは話している相手だと普通なら考える

何処か頭のオカシなヤツだとか、妄想癖又は中二病というヤツか

仮に見知らぬ他人がこんな話を始めれば迷わず逃げる

知り合いが話をすればこれから関わらないだろう


だが、話している相手があのリリアちゃんだ

好きな相手だという事もあるが、彼女がこんな冗談とも取れる話を本気以外で話すとは到底思えない

何処かの宗教によって洗脳されているというとんでもない話でもない限り、恐らくは本気でこの話をしているのだろう


今はまだ、黙って聞いていよう

仮に宗教関連に洗脳されて話しているならば何処かで矛盾等が出てくるはずだ、たぶん

テレビの知識だけれども


「まぁ、今はまだアレについての話をするのは止めておきましょう。アレはまだまだ和花さんには早過ぎます。

簡潔にすると、人外とは神のよって役割を与えられた人から外れたモノ、という事です。

また、その役割によって種類が分けられます。犬と一括りしてもチワワからシェパードまで多種多様な種類がいるように。

代表的なのはやはり『魔法使い』と『殺人鬼』でしょうか。

与えられた役割は各々【街を護る事】と【人の数の調整】です」


「【街を護る】と【人の数の調整】? 名前の割には漠然とした役割だね?」


「魔法使いにとっての護るべき街とは自身な暮らす街です。その街を外の人外達から護る存在、という感じですかね。とはいっても、侵略に来る人外というのも居ないのですが」


それはそれで拍子抜けである

護るというのだから、何かとてつもない物から街を護る正義の味方、みたいなモノを想像してしまったからだ


「まぁそれでも、役割を全うする能力はしっかり与えられていますよ。

その名もそのまま《魔法》です。この街で最も有名な『魔法使い』言えば『獄門院(ゴクモンイン)』を除いて他はないでしょう」


『獄門院』、名前だけならこの街では有名な大地主の家系だったか

しかも、同じ学校の隣のクラスにその『獄門院』のご令嬢が在籍していたはずだ


「殺人鬼の【人の数の調整】、これは殺人という行為で以てこの世界の人口を調整する役割を持っています。

多すぎれば貧困や飢餓が世界を蝕み、少なすぎれば世界は停滞する。その微妙な調整を行うのが殺人鬼の役割です。

有名所は生きる為に人を殺す鬼『(シノ)()』ですか」


これもまた同じ学校の隣のクラス、つまりは獄門院と同じクラスに在籍している素行が悪い一人の男子が思い浮かぶ

というか、僕の通う学校は大丈夫なのだろうか?


「確か、和花さんの通う学校にお二人とも通ってらっしゃるようですが、面識はありますか?」


「いや、まぁ、顔は見たことはあるよ。隣のクラスだから直接的な知り合いってわけじゃないけど」


「そうですか、篠ノ木はともかく獄門院さんの方は面白い方ですからお話してみては?」


「いや、リリアちゃん。その言い方だと人外の二人と知り合いみたいだから」


「あら、私はそういう意味で言ったんですよ。お二人に限らず、この街に暮らす人外とは殆ど顔見知りですし」


「え、なにそれ初耳。どうやったら人外みたいな危なそうなのと知り合いになれるのさ?」


「まぁそれは私自身が人外だからとしか説明出来ませんね。まぁ人外でなくとも他の人外の方と友人と軽く言ってのける方を知ってはいますが」


軽く

そう、軽く当たり前の事のように言ってのける彼女に僕は思わず空いた口が塞がらない


「おっと、これはもっと仰々しく言う予定だったのですが思わず言ってしまいました。

和花さんと居ると調子が狂わせられますね」


なんて、口元と軽く押さえて言う彼女になったばかりの彼女に何とか頭を押さえる事なく言葉を噛み砕いていく


人外とは役割を持った割と危険っぽい存在(今まで出てきた名前だけで言うなら色んな意味でヤバイ)であり、リリアちゃんもそんな人外の一人だと言う


「まぁ、言ってしまった以上は仕方ありません。私は人外です。

その中でも稀な存在である『魔女』と呼ばれる人外です」


「魔女? 壺に草の根っことか放り込んでイーヒッヒッヒ、みたいな?」


「なんと言うか和花さん、和花さんの人外についてのイメージって典型的な漫画とか絵本のイメージで見ていませんか?


今まで私が三角帽子に杖をついているのを見たことがあるんですか?」


まぁ、そう言われればないけども


「魔女とは人外の中でも異質な存在です。そもそも人外とは役割を血として受け継ぐモノですからね。

人外の子はまた人外、これが基本です。

しかしながら『魔女』という人外に限っては人から生まれてきます。どのような条件で生まれてくるのかはハッキリとは分かりませんが、私の母は紛れもなく人です。

そして魔女の役割は【人を導く事】。これは助言という形で人へ干渉する能力ですが、その本質は未来予知、未来変動という人外の中でも桁違いの能力なんですよ?」


「それは、スゴいんじゃないかな? 未来が分かるって事は、もしその人が事故に遭うって教えてあげたら避けられるって事だよね?」


僕の言葉に、リリアちゃんは露骨な溜め息を漏らす

それはもう、盛大に


「いいですか和花さん。魔女の助言は確定的未来を指しているんです、例え見知らぬ誰かに〔明日交通事故に遭うから気を付けなさい〕と助言してその誰かが一日中家に引き込もっていても確実に事故に遭います。ダンプカーが突っ込んでくる、ヘリコプターが墜落してくる。

私達魔女の助言は、それをした時点で未来が確定するのです。回避のしようはありません。

そもそも、未来なんてものは誰にでも操れますからね。明日はパンを食べようとか、明日は散歩に出掛けようとか。

言ってしまえば未来というのは無限の可能性の塊のようなモノなんです。

魔女はその中の一つの確定した可能性しか提示出来ません。

わざわざ無限から確定した一つを選ぶというのは、酷く滑稽ですよ。ですから私以外の魔女の方も好んで助言しないんです」


「それは何て言うか、悲しいね」


「えぇ、そうですね。とまぁ、私が話したかったのは私は人外ですよ、という事です。

和花さんにだけは、知っていてもらいたかったんです。

人外である私を知って、和花さんはどう思いますか?」


「どうって、スゴいなって思うよ。本当に。あとは嬉しいかな、僕にそういう事を教えてくれて」


「・・・・・気味悪く思わないのですか?」


「いや、別にそんな事思わないよ? ただまぁ、ちょっと納得しちゃったかな。リリアちゃんの他の人とは違う雰囲気とかの謎が」


そう言って僕は笑う

リリアちゃんもそれを見て「なんですか、それ」と言って笑った


今回の話は詰まる所、僕に全てを話してしまいたかったリリアちゃんとそれを聞くだけの僕に他ならない

ただそれだけの話だ

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