少女の幻想
──二人の少女が帰った後。部屋には一組の男女と一匹の黒猫。
「全く、ご主人の猫使いは荒くて困りますよぉ」
ソファーに座る少女の横で黒猫はぼやく。
「どうしたんです?真夜さん」
「聞いてよ〜、ネロく〜ん」
ソファーの後ろの本棚にいた青年に対し、主人が隣にいるにも関わらず、真夜は再びぼやく。
「お客様を連れてきたと思ったら、ご主人、すぐに街でニンジンとジャガイモ買ってこいって言うんですよぉ?」
「真夜さんの姿を見ないと思ったら、そういうことでしたか」
そしてあの袋の中は、ニンジンとジャガイモだったのかとネロは作業しながら思った。
「ホントは他の子に頼んでもよかったんだけどさぁ」
真夜の愚痴も気にしない様子で《窓口》は呑気に紅茶を飲んでいる。
「それでも真夜は、ちゃんと言い付け通りに買ってきてくれたではありませんか?」
「そりゃそうですよ?あたしはご主人に忠実な、仕え魔なんですから」
「それでは真夜さん以外がそうじゃないみたいじゃないですか」
そんな会話を余所に、《窓口》は思い出したように口を開く。
「あぁ、あと真夜、ネロくん」
「なんですか?」
「明日、多分出先で『あの人』に会うかもしれないですよ、気を付けてね」
「気を付けなくてはならないのは、僕らよりも主、貴女の方かと思うのですが・・・」
「それは、そうかもしれないですね」
✡
──深夜。誰もいないはずの学校。とある町の高台に建つ校舎の屋上で、一人の少女が町を見下ろしている。セミロングの黒髪に四つ葉の髪飾りを着けた少女。自らを《窓口》と名乗る少女だ。その《窓口》は誰に言うでもなく、ただ言葉を紡ぐ。
「さて、どうしましょうね?」
「あぁ・・・そういえば・・・」
「貴女の思っていた通り『彼女』が来ましたよ」
「貴女も引き返すなら今のうちなんですけどね?」
「引き返すにしても、もう遅い?」
「・・・気は変わらないようですね」
「今、わたしが話せることはそれだけです」
「たとえ、その道が茨の道だったとしても貴女はそれを望むのですね・・・?」
その後しばらく《窓口》は口を閉ざす。そして再び独り言を口にする。
「・・・明日は『彼』も、こちらに来るみたいですが?できれば会いたくないものですね」
「さてと・・・この狂夢は一体どういう物語を綴るのかしらね?」
✡
──なんで?どうしてこんなことに?
そんなつもりはなかった
あたしはただ『あの子』が気に入らなかっただけだった
だからこういうことになったの?
──どこで間違った?
ごめん、謝るよ、だからもう止めてよ・・・許してよ
「ワタシハ、アナタヲ絶対ニ許サナイ」
そんな事を彼女に言われてるような気がした。
──その悪夢は誰かが望んだ幻想か、それとも・・・