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夢現の箱庭  作者: 星咲 美夜
窓口の少女と噂
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噂の窓口

華憐が噂を試した、数日後の朝のこと。いつものように凛は、学校へ行く支度を済ませて、リビングにいた。テーブルの上には、自分の分のご飯と一枚のメモ。どうやら、父からの伝言らしい。そこには、今日は残業で帰りが遅くなるので、弟たちと冷蔵庫にあるもので、何か夕飯を作って食べてほしいとのことが書いてあった。


凛には弟が二人いる。それも食べ盛りの中学生である。さらには運動部というオマケ付き。とりあえず、冷蔵庫の中にはお肉と玉ねぎ・・・その他諸々が入っていた。うん、ニンジンとジャガイモを買ってくれば、カレーが作れそうだ。これなら自分でも作れるし、これで決まりかな。うんうんと一人頷くと凛は食器を片付け、家を出た。



  ✡



ちょうど家の鍵をかけた時、隣の家からもドアを開ける音がした。見ると華憐が出てきていた。


「おはよう、華憐」

「凛、おはよう」

「噂の手紙、返事きた?」

「それなんだけど、歩きながら話聞いてくれる?」


学校までは歩いて15分くらいある。いつもは登校する時間はバラバラなのだが、あの一件以降は、朝の部活などは暫く自粛させられているし、そうでなくても、凛は家が近いからと登校時間はいつも遅めだ。


「昼休みに話してもよかったんだけどね?」


そう言うと、華憐はバッグから一通の手紙を取り出す。薄いミントグリーンの無地の封筒に、四つ葉のシールで留められている、とてもシンプルなもの。宛名に手書きのとても綺麗な字で『(たつみ) 華憐 様』と華憐の名前。


「それって、もしかして・・・返事の手紙?ホントに来たんだ」

「うん、《箱庭相談所窓口》ってところから」

「中身はまだ見てないの?」

「今朝、起きたら部屋の机の上にあったから・・・」

「じゃあ、昼休みに中身、見てみようよ」

「うんっ!」



  ✡



昼休み。今日は屋上ではなく、学校の中庭で二人は昼食を食べていた。中庭には一本の大きな木が植えられていて、結構、静かな場所だ。


「ところで、手紙の中身は?」

「あ、そうだったね」


そういって華憐は、ポケットから手紙を取り出し封を開ける。そこには宛名と同じ、綺麗な字で詳細が書かれていた。


「えっと・・・何々・・・?

『巽 華憐 様

 この度は当相談所をご利用いただき、誠にありがとうございます。

 ご相談内容についても、詳しくお話を聞かせていただきたいので、誠に急なお願いではございますが、本日《窓口》の方までお越しくださいませ。

 なお、この《窓口》までは案内の者を向かわせますので、ご心配ありません。

《箱庭相談所窓口》より』

・・・だって」

「今日って、また急な・・・」

「まぁ、向こうの都合もあるんでしょうけどね」

「そうかもしんないけど・・・学校終わって、急に行ける?」


華憐は少し考えて。


「今日も部活はないし、明日はちょうど休み・・・大丈夫かな?多分」

「多分って・・・まぁいいや、あたしも付いていくわ」


華憐を、さすがに一人で行かせるのは若干不安だ。ただでさえ、どこにあるかも定かではない怪しい場所なのだ。華憐に何かあってからでは遅い。凛の心配を余所に「ホント?良かった〜」と、華憐は少しホッとした様子で、ニコニコしていた。



  ✡



授業が終わり、凛と華憐の二人は校門を出る。校門の正面のガードレールの上に、見慣れない一匹の黒い猫が、薄いミントグリーンの手紙を咥えて、ちょこんと座っていた。


「もしかして・・・案内って、この猫がするの?」

「でも、今朝わたしに届いたのと同じ手紙を咥えてるし・・・」


蒼い眼が月光のように輝く、全身が宵闇のように真っ黒い猫。首には、眼と同じ色の三日月のチャームがついた、青いリボンのチョーカーを着けている。近づいて、猫から手紙を受け取る。封筒には、昼間に読んだ手紙同様、やはり綺麗な字で『巽 華憐様』と書かれていた。


「えっと・・・

『巽 華憐様

 本日、《窓口》まで案内させていただきますのは、貴女の目の前におります、黒猫です。

 人でないことに不安を感じられるかとは思いますが、この猫に付いてきていただければと思います。

《箱庭相談所窓口》より』

・・・やっぱり、この猫みたいだね」


黒猫はトンッと地面に降りると、スタスタと坂を下って行く。慌てて、二人はそのあとを追う。一応、黒猫は後ろを見て、二人が付いてくるのを確認しながら歩いてくれている。案内する猫だからか、はぐれないようにしてくれているようだ。それにしても、この猫はとても賢いものだ。暫く歩いていくと、黒猫は、二人がいつもは通らないような裏通りに入っていく。ちょっと人が通るには狭い路地だが、それでも進んでいく。そのまま進んでいて、ふと疑問に思って、華憐を呼ぶ。


「ねぇ、華憐」

「どうしたの?」

「この辺の路地裏ってさ、こんなに長かったっけ?」

「そう言われれば・・・」


おかしい。いくらあまり通る道ではないにしても、こんなに路地が続いていた記憶はない。一応、自分たちの地元なのだから、多少はわかる。


「あ、でも、もう少しで広いところに出るみたいだよ」


視野が一気に広くなる。そこで二人はその光景に驚いた。今まで自分たちのいた街ではなく、二人の気付かぬうちに、全く別の場所にいたのだ。二人の目の前には一軒の洋館。黒猫は洋館に向かって歩いていく。ふと後ろを振り返ると、今まで通ってきた道がない。森になっている。どうも、帰るにしても帰れないようだ。何故か、黒猫は玄関と思われるドアとは、違うところに向かっている。もう戻れないので、二人は付いていくしかないが。どうやら、この洋館はどこか知らない町外れの丘の上にあるようだ。チラリと左側をみると、自分たちのいたところとは、全く違う街の景色が見下ろせた。進んでいくと、もう一つドアがあり、その前で黒猫は歩みを止めた。


「にゃぁ〜ん・・・」


猫が一回鳴くと、それが合図だったのか、ドアの向こうから、カチャリと鍵の開く音がした。

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