始まりの悪夢
日常とは簡単に、それも突然に壊れてしまうものである⋯⋯それが故意であろうと、なかろうと。
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いつもの朝。何一つ変わらない慌ただしい日常の風景。
──だけど、その日は違った。
五月の後半のある日のこと。その日はたまたま、完全に遅刻とまではいかないけれど、ほんの少しだけいつもよりも寝過ごしてしまった。目覚まし時計を見てかなり焦ったが、なんとか朝御飯を抜いて走って行けば、学校には間に合う時間でよかったと、凛は少しホッとする。とりあえず着替えと、茶色のショートの髪を整え、家を出る準備を手早く済まし、部屋を出る。凛の部屋は二階にあるため、階段をかけ降りてリビングの前を通り、急いで玄関へ⋯⋯だが。
「凛、朝御飯は?」
リビングから父の言葉。いない母の代わりに、いつも父が朝御飯は作ってくれている。遅刻ギリギリでなければ、普通に食べていくのだが。さすがに今日は無理そうだ。
「あ、今日はいいや⋯⋯さすがに朝御飯食べたら、学校、間に合わなそう⋯⋯!」
「そうか」
少しだけ、悲しげに父の返事が聞こえたが、心の中で「ごめん」と謝りながら家を後にした。
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いつもの通学路。凛の通う学校は高台にあるため、凛は上り坂を走る。が、凛は校門に異様な光景が見えたことに気付く。何故か人だかりができているのだ。何かあったんだろうなとは思うが、尋常でない人の数だ。そのまま近づいてみると、なにやら、ざわめきが聞こえるが、あまりの人数で誰が何を話しているのか、よく分からない。なんとかこの状況を理解しようと、人混みの近くにいた一人の女子生徒に近づく。すると、こちらに気付いたのだろう、彼女は凛の方を振り向いた。
「あ、凛おはよう」
「おはよう、華憐⋯⋯何かあったの?」
「うん⋯⋯それが⋯⋯さ」
華憐と凛に呼ばれた、その黒髪ロングの女子生徒は、少し躊躇いながらも口を開いた。周りを気にして、少しキョロキョロと何かを確認する。それだけで、この状況は大きな声では言えない事なのだと察する。
「他の生徒から聞いた話だと、うちのクラスの子が校庭の桜の木で首を吊って自殺したらしいの」
「え?それ、ホントに?」
華憐は頷くと、このままだと遅刻するからと人混みの端をかき分け、校舎へと移動する。凛もそれに続く。そして早足で歩きながら、先程から思っていたことを、聞こえるか聞こえないかどうかのギリギリの小声で口にする。
「ねぇ、その子って、もしかしてさ⋯⋯?」
「うん⋯⋯」
なんとなくではあるが、華憐の話の内容から誰が首を吊ったのかを察してはいたが、どうやら当たっていたようだ。そうなると、どうしてそうなったのかの原因もわかる。
「その、首を吊った原因って、やっぱり⋯⋯?」
「うん⋯⋯クラスメイトからの、イジメ」
──その日から、二人の日常は歪に、少しずつ狂っていく。