1/225
箱庭の記憶
──遠い昔のこと、時間と空間を越えて夢と現を行き来する《旅人》と呼ばれる者がいた。その旅人は、あらゆる願いを叶える能力を持っていた。
だが、その旅人の存在は人々に多くは語られることはなかった。何故ならば、その旅人はいつの間にか現れては、人々の願いを叶えて何も言わずに去っていくからだ。そして、その旅人の存在は去ったと同時に誰の記憶からも記録からも抜け落ちる。
──ある時、旅人は誰かの声を聞いた。それは現から(科学によって)否定され、忘れられた幻想でしか生きられなくなった存在達の悲痛な願い。救いを求める叫び声。
旅人はその存在達の現実に同情したのか、はたまたただの気紛れか、自らの能力を使って夢と現の間に、忘れられた存在達の居場所として一つの『箱庭』を作った。
──いつしか旅人が作ったその『箱庭』は一つの島となり、この旅人は《夢神様》と呼ばれ、信仰され、存在は語り継がれるようになった。