第11話
横に並ばないでと言われて3メートルほど離れて梓ちゃんの後を歩いている僕。
他の人が見たらこいつストーカーじゃないかと言われそうな気がする。
うう、早く目的地に着かないかな。
10分ほど歩いて気がついたけどこのあたりは昔住んでいた家の近所だと。
昔と言っても父がまだ生きていた頃のことです。
久しぶりに住んでいた家が今どうなったか見たいような見たくないような。
「あら、梓ちゃんに徹じゃない」
車道の方から聞きなれた声が聞こえてきた。
リムジンの後部席の窓から母さんがにっこり笑いながら僕たちに手を振っていた。
「あ、咲さん。ご無沙汰しています」
梓ちゃんは僕の横に歩み寄り深々と頭を下げて笑顔で母さんに挨拶をする。
え!?僕との対応が違いすぎるんですが。
「いいいっ」
僕は呆然としているとわき腹に激痛が走り変な声を出してしまった。
痛みの原因は母さんから見えないように梓ちゃんが僕のわき腹を抓っているからだ。
梓ちゃんを見ると笑顔でどうしたの?と言った表情をしている。
これは話を合わせろと言うことだろう。
「どうしたの徹?」
「ううん、なんでもない。 それより母さんどこかにでかけるの?」
「あなたたちが住むマンションに行くとこなの。 で、ちょうどあなたたち2人を見かけたから声をかけたのよ。 でもどうして2人は離れて歩いているのかしら?」
「え、ああそれは梓ちゃんが……いいっ」
またわき腹に激痛が走る。
「一緒に帰っているともし私の正体がばれてトオル君に迷惑をかけるわけにはいかないので」
今の梓ちゃんの変装だと絶対ばれないと思うけど僕のことを気遣って離れて歩いていてくれたんだ。
「梓ちゃんはいい子なのね。 徹の心配をしてくれてありがとう。 でもね兄妹なんだから気を使わなくてもいいのよ」
「それはそうですが……」
「奥様、ここで話していては通行の邪魔になりますので……」
「あら、そうね。 じゃあ先に行くわね。部屋には沙綾さんはいるのかしら?」
「はい」
「じゃああとで」
母さんを乗せたリムジンは200メートル離れた豪華な高層マンションのガレージに入っていった。
どうやらあのマンションが目的地のようだ。
僕は横にいる梓ちゃんを見ると先ほどの笑顔から一変不機嫌な表情をしている。
そしてそのまま僕たちは一言も話すことも無くマンションに歩いていった。
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