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第七話 「時間」という思い

本宮ほんみや」から出てきた葉月を、カムヤが心配そうに迎えた。

「怪我の具合はどうだ? 」

 


 自分とてけして浅くない怪我をいくつも負っているはずなのに。

 オオネに付き添われながらも、葉月はカムヤに微笑んで見せた。

「ありがとう……大丈夫だよ。カムヤは……優しいね」

「……あ、いや……俺はヤマトの「男」だ。

 ヤマトの男は……優しくなければならん……特におとめや子供には……」

 いちいちどうして「ヤマトの~」なんて付ける必要があるのか。

 照れ隠しなのか――葉月にはそれがよくわからない。

「カムヤは大丈夫なの? 」

「俺は平気だ。こんなもの、怪我のうちに入らない」

 矢で射抜かれた傷に、白い布を巻きつけた左腕をずいと葉月に見せた。

『ほう。さすがは「ヤマトのおのこ」じゃの』

 葉月の右肩にとまっていたシュナが、ちょいと嘴を怪我に触れさせる(・・・・・)

「……ぅおっ!! 」

 痛みに顔をしかめる――カムヤ。

『なんじゃ。まだ痛いのではないか』

「あんたっ……何してんのよっ!! 」

 葉月はシュナの頭をひっぱたきたいが――自分も左肩を怪我しているので、腕を上げるのが辛い。

 そのため声だけでシュナを諌める。

「し……心配はないっ……」

 カムヤが歯を食いしばって痛みに耐えながら――引きつった笑いを葉月に見せた。

 どうしてここまで強がるのか――葉月はますますカムヤがわからない。

「無理……しないでね」

「お……おう」

 葉月に心配され――カムヤは強がりながらも――嬉しそうに微笑んだ。



 そんなふたりをオオネは穏やかな笑みで見守っている。



「それより姉様……ハヅキには話したのか? 」

「ええ。話したわ。大丈夫よ……」

「そうか……。

 ハヅキ。オオネ姉様はとてもしっかりとしている。

 心配事や、悩んでいることは姉様に相談するといい。俺も当然相談にのるぞ」

 


 得意げに葉月に語るカムヤ。

 本当に優しいな――そんなことを葉月は思っていた。



「カムヤって……何歳なの?」

 自分より年上だろう――。葉月はそう考えて質問をしてみる。

「ああ。三十になる」

「はぁっ!? 嘘でしょ? 」

 あまりの葉月の驚きぶりに――カムヤが驚いてしまう。

「いや、本当だ。三十だが……ハヅキはいくつなのだ? 」

「十六だけど……」

「あぁ? そんなに幼いのかっ!? 」

 葉月は睨むような形相でオオネへと振り返る。

「オオネさんはいくつなんですかっ!? 」

「……三十六だけど……」

「はぃっ!? 」

 葉月としては、カムヤは十七歳ぐらい、オオネは二十歳前程度と考えていたのだ。

 肌艶からみても、三十いくつにはとてもとても見えない。

 古代の人間はそんなに若作りなのだろうかっ!?

『あっははははははっ!! 』

 突然シュナが声をあげて笑い出した。

 耳元で大声で笑われ――葉月はびくりと体を震わせた。

「……っつ……」

 体が震えたことで、葉月の左肩の怪我が痛み――そのせいで葉月の表情が歪む。

「大丈夫か、ハヅキっ!? シュナ。そなたの主になんてことするんだっ!! 」

 カムヤがシュナを責める。

『いやいや……すまぬ、すまぬ。

 あまりに楽しくてな……。

 葉月よ。カムヤたちは一年にふたつ歳をとるのじゃ』

「……何、それ? 」

「……どういう意味だ? 」

 葉月とカムヤが――同時にシュナを見た。




『春の暖かな時期にひとつ。秋の涼しくなった時期にひとつ。

 目安は田植えの時期と、刈り取りの時期じゃな。

 この時代は「時計」というものがない。

 あのチョウセイ殿の「魏」国ならばあるのじゃが、まだ「ヤマト」には伝わってはおらぬようじゃ。

 それゆえに、我らからすれば一年という時間が、ここでは「半年」単位で考えられておるようじゃ』

「そ……そうなんだ」

『日の出と共に起き、日の出と共に寝る。そんな生活じゃ』

「えええぇっ!! 耐えられないっ!! 」

 現代の生活になれた葉月には――とても考えられない古代の生活。

 半年で一年なんて――ありえない。そんなことも考える。

「……「先の国」は……違うのか? 」

 カムヤが不思議そうに――葉月を見ていた。

「全然違うよ。

 一年は三六五日。うるう年は三六六日。それで一年。

 一日は二十四時間だし……ここもそうなんだけど。そっか。時計がないもんね……。

 面倒だなぁ……」

 葉月の口から出る言葉に――カムヤとオオネはまるで異国の言葉でも聞いているように、呆然としていた。

『葉月よ。カムヤたちにそんな話をしても仕方あるまいよ。

 暦とて、数千年の時間を経て多くの者たちの努力があって、御身おみたちの生活に溶け込んだのじゃ。

 そのように一気に話しても……混乱するだけじゃぞ』

「そ……そうだね」

 つい――それが「当たり前」として話してしまう。

 だがカムヤたちにしてみれば――そんなことは、まだ「わからない」ことなのだ。

「ごめんなさい……」

 葉月がカムヤたちに軽く頭を下げた。

「いいや……やはりハヅキたちの国は違うな。

 ハヅキたちの国の「時」では、俺はいくつになるのだ? 」

 カムヤが笑顔でそんなことを葉月に訊いてきた。

「あ……うん。三十でしょ……十五歳になるね。オオネさんは三十六で十八」

「半分なのね」

「はい……」

 葉月はオオネに頷いて見せる。

「そうか。ではハヅキはここでは「三十二」なのだな」

「……なんか……すごく嫌」

 カムヤがこの「時代」の歳に直してくれたが――あまり聞きたくない年齢となる。

 それに――カムヤが自分より年下とは。これも結構ショックだった。



 父さんはこんな時代の研究をしていたのか――。

 今更ながらに、葉月は父を思う。

 もしここに睦月が来ていたら――喜んだのだろうか? 

 きっと喜んだに違いない――きっと。

 それがどうして自分だけだったのだろう? 一緒なら――もっと良かったのに。

 



「ハヅキ? 」

 睦月のことを考えていたせいか、黙って顔を俯けてしまったせいだろう。

 カムヤが心配そうに葉月を見ている。

「大丈夫。面白いなって思ってんだ」

「……そうか……俺もハヅキの国のことをもっと知りたい……教えてくれないか? 」

「いいよ」

 葉月の笑顔に、カムヤは安堵の笑みをたたえる。

「ああ。頼む……」

 そしてそれは――嬉しそうな微笑みへと変わった。


倭国――そのことについては諸説あり、この話の年齢についてもその中のひとつを使わせていただいています。

正確な時間がわからなかったこの時代の人たちは春と秋に一歳ずつ、半年で一歳と考えていたのでは?という考え。


「魏志倭人伝」にも「倭人は八十歳、九十歳と長生きだ」という記述がありますが、その時代の生活、栄養状態から考えてもその半分の寿命が妥当だったようです。

半年で一歳。と考えると、上記の記述にも納得がいく。

という考えから、使わせていただいております。

あくまで諸説の中のひとつである。とお考えいただけると幸いです。

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