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第五話 大陸の使者

 ほっとしたのもつかの間――。


 葉月は父、睦月の顔を思い出した。

 今頃どうしているだろう?

 心配しているのは間違いない――早く帰りたい。



 そんな思いに囚われる――早く帰って、これがすべて「嘘」だったのだと思いたい。

 睦月の朝食を食べながら、他愛のない話で盛り上がって。笑って――。



 カムヤはそんな葉月に気がつき、母親や姉たちにそっと耳打ちをした。



 俯いていた葉月の元へ――カムヤの母親がやってくる。

「あなたが……ハヅキ?

 遠い世から……カムヤを助けに来てくださったと……息子の命を助けていただき本当にありがとう」

「あ……いいえ。私は……」

「私はカムヤの母でイクタマと申します。

 あら……服が汚れてしまっているわね。

 肩の傷も痛いでしょう? すぐに体を清めて、傷の手当をしましょう。

 さ、こちらへ……シュナ殿も」

 イクタマの優しい笑顔に救われながらも、葉月は少々困惑し視線をシュナへと向けた。

『それは申し訳ない。助かりますな』

「ええ、どうぞ。オオネ、案内をお願いするわ」

「はい、お母様。私はカムヤの姉でオオネ。さぁ、こっちよ、ハヅキ。

 自分のお姉さんと思って気楽にしてよいのよ」

 とても気軽に接してくれるオオネやイクタマに、葉月は驚きながらも――オオネの案内で建物の奥へと誘われた。



 そんな時。

「カムヤっ!! 」

 大柄の男性が一人。大股でこちらに急ぎ向かってくる。

「チョウセイ様」

 


 ここで葉月は「え? 」となる。

 カムヤはこの「ヤマトの国」の王子だったはず――。

 それがどうしてその王子より偉い人がいるのか? と不思議になったのだ。



『ほう……これはこれは』

 シュナが感心したような――何かを知っていることが間違いないだろう様子で声を上げた。

 だが――また「孔雀」に戻ってしまったので、何を考えているかはまったくわからないが――。

「ちょっと……説明しなさいよ」

『後でな。今は御身おみのことが先じゃ』

「……ほんとムカつく……」

 先ほどのヤズノとの会話もそうだ。

 さっきから――知っている癖に葉月にはまったく真相を話そうとしないのだ。



「……心配をかけおって!!

 あれ程浅はかな行動は慎めと申しておいただろう」

「……申し訳ありません……」

 なんだか――何かの師匠と弟子のような――そんな関係なのかな? 

 と、チョウセイと呼ばれた屈強な体躯の男性と、カムヤを見比べる。



 カムヤの身長は百六十程度か。

 だがチョウセイは百七十以上の身長と、筋肉質の恵まれた体をしている。

 やや細身のカムヤはまるで子供だ。

 実際に子供なのだろうが――。

 それに顔の作りが――チョウセイの場合――少し違う印象を受ける。



「チョウセイさんと言う人さ……」

『ああ。あの人物は大陸の特徴を持っておるな。

 実際に大陸より、この「ヤマトノ国」に参っておるのだ。

 そこは後でよくよく説明をするゆえ、とにかく御身の怪我の手当が先じゃ』

「う……うん」

 色々と複雑な事情があるのだろう――葉月はこれ以上は関わることを止め、オオネへと視線を向けた。



「そなたが……「異神」とやらか。

 生き神をこの目で見るのは初めてだな……と、これは失礼。

 私は「魏」の国よりこの「ヤマタイ」の国に参っておる「刺史しし」にて「張政ちょうせい」と申す。

 この度はカムヤの命をお救いいただき、心より礼を申し上げる」

 オオネに話しかけようとしていた葉月の元へ、大柄のチョウセイがやってきて、その進路を塞いだ上で頭を垂れた。

 そんなチョウセイの行動に葉月は困りながらも――。

「いいえ。こちらこそ……」

 と、かなり混乱した様子で答えるほかなかった。

『そうか……「魏」より参られた「官史かんし」の方か。

 我はこの「異神」の従者にて「朱那しゅな」と申す。

 葉月殿はこの「ヤマタイ」の国を守護するために「遠き先の世」より参られた「女神」ゆえ、丁重に扱われよ……』

「シュナ殿か。承知した……元よりカムヤの命の恩人でもある方だ。

 無碍になど出来よう筈もない。

 あの「イト」の国より参った者たちも、「異神」殿たちの従者として扱うようカムヤから言われておる。あの者たちもその事については了承済みだ。

 少々混乱をしておるが……ゆるりと休まれると良い」

 葉月はシュナとチョウセイの会話の内容が半分もわからなかった葉月だ――が。

「はい。そうさせてもらいます。

よろしくお願いいたします」

 と手短に答え――チョウセイの間をすり抜けるようにオオネの元へと走った。





「なかなか。面白い「異神」殿だな」

 チョウセイが口元を緩めながら葉月の背中を見つめると

「カムヤの嫁には丁度良いか? 」

「な……なにをっ!? 」

 突然チョウセイにそんなことを言われ、一気のカムヤは耳まで真っ赤に染め上げた。

「照れるな、照れるな」

 豪快に笑うチョウセイを睨みつけながら――オオネに案内されて建物の奥へと向かう葉月を見て、カムヤは微笑んでいた――。


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