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第四話 出会いと再会

「ヤズノさん……と、言いましたね」

 突然葉月が女性――ヤズノに話しかけた。

「はい……貴女は……? 」

 ヤズノが葉月の不可思議な――白い長袖のTシャツにGパンの姿に目を見張っていた。

 


 それより目をより凝らしていたのは――葉月のTシャツに血糊がついていたからだ。



「私は葉月はづき。この肩にいるのは「朱那しゅな」。

 この国を守護する「神」の使いよ。

ちょっと……この国は今……少し混乱しているの。

 このままあなたを連れていけば、私たちまで怪しまれてしまう。

 私たちはこの「ヤマトの国」を護るために、「先の世」から来た「異神いのかみ」なんだもの。

 こんなところで、この国を危険に晒したくないの。

 だから……ここで私に約束して」

 ヤズノは――「神」と名乗ったこの不思議な格好の少女の言葉に――声を出せぬほど驚いていた。

 まさかこのような形で「神」に出会うことになろうとは。

 しかも――この時。この場で――。

 時期も――非常に――まずい。



「そうでしたか。

 では私は「ハヅキ」様とどのような約束を交わせば良いのでしょうか? 」

 ヤズノは――平静を装い、笑みをたたえて葉月に問いかけた。

「この国に「害を成さない」と。

 この国のために役立つと。この国の平安のために「いとの国」から来た貴女なら……この意味はわかってくれると思うけど? 」

 ヤズノは瞬間的に、葉月の言葉の深い意味を理解した。

(この「女神」。私の「正体」を知っているのやもしれん。

 それを知って、私へ警告を与えようとしておるのか……この国に危害は加えるな……と)



「……ヤズノ様」

 背後に控えていたゴウノという大柄の男がヤズノに小声で話しかけてきた。

「大丈夫です、ゴウノ。

 ハヅキ様のお気持ちはよくわかりました。誓いましょう。

 この「ヤマトノ国」の平安のため……この身を捧げる覚悟をいたしましょう」

 深々と葉月に頭をさげるヤズノに――葉月は満足げに微笑んだ。

「ありがとう。それを聞いて安心した」

「……よかった……私の気持ちがハヅキ様にわかっていただけて……」

「そういうことなら……」

 葉月とヤズノのやり取りを聞いていたカムヤの表情が――和らいだ。

「ヤマトノ国へ入ることを許可しよう。

 俺はカムヤ。この国の第一王子だ」

「そう……でしたか。

 なるほど。それでこの国の守護神であられるハヅキ様とご一緒に……」

 ヤズノはそう言って――微笑んだ。

「……ああ。

 ハヅキが認めたのなら、俺も認める。

 少々立て込んでおってな。大した施しも出来ないと思うが……」

「構いませぬ。無理を言っているのはこちらなのですから……」

「では案内しよう。付いてくるといい……」

「はい。本当にありがとうございます」

 ヤズノは再び頭を下げ――ゴウノもそれに続いた。



「ごめんね……カムヤ」

「何故謝るのだ?

 ハヅキは、あの巫女に真意を問うてくれたのだ。

 そのおかげであの者たちの気持ちがわかった……ハヅキにはどれほど礼を言えばよいのか……」

 カムヤは申し訳なさそうに葉月に笑い――葉月は「そんなことないよ」と苦笑いを返した。

 本当はすべてシュナの「入れ知恵」なのだとは――言えなかった。




◆◆◆





 カムヤの案内で、「ヤマトノ国」を仕切る柵の中へと入っていく。

 木製の門のようなものがあり――門の番をしていた兵士たちが、カムヤの姿を見つけて一斉に大騒ぎを始めた。



 この国の王子がようやく帰還したのだ。

 カムヤを迎える人の多さに、葉月は丘の上から見た簡素な村のイメージが少し――変わった気がした。

 あの柵の中に、これほどの人が暮らしているとは到底思えなかったのだ。



 しばらく歩いたところで、あの木製の小屋のような建物の群れから――ひときわ大きな建物が姿を現した。

 


 「高床式」住居ではあろうが――小屋のような粗末な作りではない。

 立ち並ぶ小屋よりは三倍の規模を誇る大きさと、豪華さがある。

 それはより身分の高い者たちが暮らす――城のようなものなのだと、葉月からもひと目でわかるほどだった。



 カムヤは躊躇なくその建物に近づいていく。

 この国の「王子」を名乗るのだ。

 当然と言えば当然――なのだろうが――。



「カムヤっ!! 」

 建物の中から――数人の女性が飛び出してきた。

 歳で言うなら、二十代後半か――三十代程度の女性と、自分より少し年上だろう女性。

 そしてまだ四、五歳程度の幼いの女の子。

「母上、オオネ姉様、イヨ!! 」

 カムヤが笑顔で――三人へと駆け出した。

 どうやらカムヤの家族らしい。

「よかった……本当に無事でよかった」

 カムヤに真っ先に駆け寄った女性――カムヤの母親だろう女性は、すでに涙が溢れ出ている。

 他の二人――カムヤのお姉さんと妹となるのだろう。

 その二人も泣いていた。



 葉月はふぅと――安堵のため息をつく。



 人を殺めてしまったが――こうして護れた命があったことも、葉月の気持ちに――少しの温かみを齎していた。





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