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第一話 カムヤ

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 カムヤは急な坂道を一気に駆け上がると、そのまま脇にある獣道へと入り込んだ。

 


 生い茂る笹の葉が鋭利な刃物のように、カムヤのむき出しになった肌を容赦なく切りつけていく。

 が。今のカムヤにそのようなことを気にしている余裕はない。

 右手で庇っている左腕の矢尻傷からは、幾筋もの紅の蛇のような血筋が右手の指の間からも流れ出している。

 絶え絶えに――水気を失った乾いた苦し紛れの浅い呼吸を繰り返し、立ちくらみがカムヤを襲う。

 しかしここで意識を失うわけにはいかない。

 


 まだ父――タケハヤの仇を討ってはいないのだ。



 昨日の夜に何者かに殺された父、タケハヤ。

 カムヤはそれが「ネ(奴)ノくに」の者の仕業だと目星をつけ、そのままヤマトノくにを飛び出した。

 朝になり、国堺でそれらしき輩に遭遇。そして怒り任せに剣を振るった。

 だがカムヤがその輩たちを見つけたときは五人程度。武勇に長けたカムヤならなんとかなった数だったが――その背後にまだ二十人程度が潜んでいた。



 それが仇となり――カムヤはすぐに追い詰められる結果となってしまった。



 浅はかだったと反省しても遅い。

 敵はすぐ後ろに迫っているだろう――。

 左腕の傷だけではない。

 あちらこちらに受けた傷からの出血は、カムヤの逃走経路を明確にしているはずだ。

 いくら逃げたところで、逃げきれるはずもない――それに――そろそろそれも限界だろう。



 カムヤは――そうして覚悟を決めた。

 大木を見つけると、その幹に背を預け――今まで背を向けていた山道を見据える形になる。そして自分を追ってくるであろう敵を待ち受けるために。

 せめてこの命が尽きるとも――少しでも敵を黄泉の国へと道連れにするために。

 カムヤは戦う覚悟を決めていた。




◆◆◆




 シュナはまさに「風」だった。



 葉月を乗せ、森の中へと身を躍らせると――後は音も立てずに、木々の間を吹き抜ける「風」のごとく、鮮やかに駆け抜けていく。



「……すごい……」

 シュナの背からすごい勢いで過ぎ去っていく森の木々を眺めながら――葉月は呟いた。

『だから言ったであろう……我は「風」だと』

 シュナの声が聞こえた。

「うん……本当に「風」だね」

 それは素直に認めてよさそうだ。

『さて。そろそろ近そうだぞ』

「え? 」

『前じゃ』

 


 シュナが言った言葉の意味が一瞬理解出来ず――葉月は目を瞬かせ――前方に目を凝らした。



「……あれっ!? 」

 小さい――否。すぐにそれは人だとわかった。

 シュナの速度で、急速にそれがひとりの人を数十人の者たちが取り囲んでいる現場だということが見てわかった。

「あの人っ!? 」

『そうじゃ。あの取り囲まれている者が、御身おみに助けてもらいたい者だ。

すぐ前に出るぞ。用意せよ』

「は……えっ? 」



 

◆◆◆




 今にもカムヤに切りかかんとしていた輩の前に、真紅の風が通りすぎる。

 驚愕の声が上がる中。

 その者たちの前に――カムヤを護らんと、一頭の真紅の虎と――その背に跨る不可思議な衣装に身を包んだ「女神」が姿を――現した。



 真紅の虎から低い唸り声が漏れる。



「何者だ……」

 輩を率いる長の男が――呆然と呟いた。




◆◆◆




 それはカムヤも同じだった。



 いきなり現れた少女らしき異国の者と、真紅の虎。

 まるで自分を護るかのように――輩と自分の間に立ちふさがっている。



「あなたが「かむや」? 」

 少女が言った。

「あ……ああ」

「私は「はづき」。あなたを助けに来たの。あいつらを倒せばいいの? 」

「え……そ、そうだ」

「わかった。ここは任せて」

 少女は驚くカムヤに背中を向けて、輩に向き直った。




「……ハヅキ……? 」

  


 カムヤはただ、その少女の背を呆然と眺めた。

 




 真紅の虎よりも――何故かその少女から目を離すことが出来なかった――。

 



人の名前、国の名前など、カタカナやかなの表記であらわしていきます。

まんま漢字を使用すると、わけがわからんものが多いということで(汗)申しわけありません。

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