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第十七話 見えてくる「何か」

「おはようございます。異神殿」

 


 葉月はここへ来てから最近では、松明の灯りだけで夜を過ごしているせいか、何もすることもないことも手伝って、飽きてしまい――早く寝るようになってしまった。

 しかし。日の出前には目が覚めてしまうので始末が悪い。

 早寝早起きは……なんとかということわざがあった気がしたが。

 健康的な生活なのだろう、が。おばあちゃんじゃないんだから。と、葉月は言いたくなってしまう。



 日課となってしまった――近くの泉に顔を洗いに行く。

 お湯は薪で温めないと、ない。

 火起こしの器具で火を起こして。なんてやっている方が面倒なので、そのまま冷たいことを我慢して顔を洗う。



 そんな時に、葉月は、ナシメに声をかけられた。

「おはようございます……ナシメさん」

 シュナはいない。

 まだ部屋で寝ていたのを置いてきた。

 そんな葉月の行動を見透かして、ナシメはここにいるように、葉月には思えた。



「ヤズノさんにはお話をしていたのですが……ここでハヅキ殿にお会い出来ましたので、声をかけさせていただいたのですが……ご迷惑でしたかな?」

 ナシメはやけに笑顔が似合う温和な人物の印象を受ける。

「いいえ。ナシメさんは早起きなんですね。

 もう普通の格好なんだ……」

「ふつう……ですか?

 よくわかりませんが……まぁ、私は昔から早起きで。

 早く起きたほうが、気持ちがいいと思っているのですよ」

 本当に人の良さそうなおじさん。それが葉月のナシメに対する感想だ。

 だがこの人物が、ミヤズの家族を生きながら殺したのだ。



「いかがですかな?こちらの生活には慣れましたか?

 [天さきの国]は、夜も昼間のように明るく、とても便利なところだと聞いたのですが……火も指先からぼっと出せるそうで」

 そう話しながら、興奮気味に自分の右手を葉月の前に差し出し、人差し指の指先を立ててみせた。

「あ、ああ。そうかも……でも今は出来ませんけどね」

 これはたぶんヤズノから聞いた話だろうと、葉月は推測した。

 


 以前[ライター]の話をしたことがあった。

 小さい機械で、指でポタンと押すと火が灯すことが出来る。と。

 それが[指先から火が出る]に変化したらしい。

 これじゃ伝言ゲームにならないな。と考えるが、それがこの時代の人が出来る、精一杯の発想なのだとも、葉月は感じることが出来るようになってきていた。

「本当に神の国とはすごいところですな」

「うん、まぁ……そうかもしれません」

 ミヤズのこと。そしてチョウセイやカムヤの話の後だ。

 葉月はたとえどんなに人が良さそうに感じても、ナシメを警戒し、話の内容に対して十分に気をつけていた。



「……ハヅキ殿は……チョウセイ殿から、私のことをどんな風に聞いておられるのか?」

 あまりに警戒しすぎたのか、ナシメが少し寂しそうな笑みを浮かべてそんなことを葉月に言った。

「え……私は何も……」

 まさか、カムヤの父であり、この[ヤマト]の王であるタケハヤという人物を殺したことを疑っているとは、口が裂けても自分からは言えない。

 葉月は注意深く言葉を選びながら、ナシメの様子を伺っていた。

「……良い方なのですよ、チョウセイ殿は。

 大陸から来られたというのに、この国のために全力を尽くしてくださっている」

「ええ……それは私も思います」

「そうでしょう?いつからか……このように対立するようになってしまったのですがね」

「……いつからなんですか?」

 つい。ナシメの話に乗ってみる。

 このナシメという男が何を考えているのか。葉月には少しの興味が湧いてきていた。

「私がヒミコ様の大夫としてこの国を立ち、[魏]の国に着くまでに二年。

 途中でチョウセイ殿が案内として私たちと共に旅をして下さり一年、そして半年洛陽らくようで過ごした後、この国に戻るまで二年。

 この国にチョウセイ殿が来られてから、ヒミコ様が突然亡くなるまでに二年。

 五年余の時間はこの国の行く末のこと、大陸の文化と技術などを色々と話し合いながらやってまいりました。

 本当に良き方だと思っておりましたが……あの方が来られてから、ヒミコ様の様子がおかしくなられたのですが……。

 それを抜けば、本当によくやっていただいていると思います」

「……チョウセイさんが来てから、ヒミコさんがおかしくなったっていうんですか?」

「……ええ。確かにすでに百二十歳はこえておられた老齢の身でしたがね。

 いくら神の身であるヒミコ様とて、老いには勝てなかったが……。

 それでもまだまだ[日ノ巫女]として、十分にお役目を全うしておられたのですから」

 ちょっと待て。葉月は言葉を失ってしまう。

 百二十歳。この時代じゃ化物の「括り」だろう……いや。それは六十歳ぐらいだったということだ。

 それでも、八十、九十歳という人でも長生きと言われているのだ。

 それは四十、五十歳程度ということになる。

 それから比べたら、ヒミコという女性は長生きだったということになるのだろう。

 ナシメもそんなことを言っていたし……。葉月は思い直し、冷静に考えるようつとめた。

「そんなすごい方がどうして急に?」

 無難な質問を見つけ、葉月はナシメにそう口にしてみた。

「ご病気ではなかったのです。

 [御力おちから]もけして弱ってはいられなかった。

 最後は……ご自害なされた。と私を思っているのですよ」

「……自害……」

 自殺した――ということなのか?

 葉月が唖然とナシメを見つめる。

「急に姿をお隠しになられ、われらがようやく見つけ出した時には、この先の池で変わり果てたお姿で見つかった……のです」

 葉月はそれ以上、ナシメには聞かなかった。

 ヒミコが入水自殺をした。ナシメは葉月にそう伝えたかった。のだろうか?

「朝からこのような話に付き合わせて申し訳ない。

 これはあくまで私個人の考えなので、あまりお気になさらないでいただきたい」

「……はぁ」

 気にするなって。バリバリに気にしろって言ってるだろうが。

 人の良さそうな笑顔で、とんでもないことを言ってくるおじさんである。

「あまり部屋を留守にされると、供の方々が心配されてしまう。

 私のこのような悩みを聞いていただき嬉しゅうございました、ハヅキ殿。

 機会があれば……また聞いてくださるか?」

「……はい」

「ありがとうございます」

 ナシメは葉月に軽く頭を下げると、そのまま何事もなく去っていった。



 葉月がナシメが見ていた自分の後ろを振り向くと、そこにはシュナを抱いたヤズノとミヤズが立っていた。

「おはようございます、ハヅキ様。探しましたよ……」

「すみません……話しかけられたので、つい」

 葉月がヤズノに苦笑いで応えてみせる。

『ずいぶんと親しそうだったのう?』

 シュナの嫌味に対し、葉月の表情はどこか暗い。

「どうされました、ハヅキ様?」

「何かされたの、ハズキ?」

 ヤズノとミヤズが葉月を心配して見ている。

「うん……なにかされたわけじゃないけど……ちょっと気になることが、ね。

 シュナにもヤズノさんたちにも聞いてもらっていいかな?」

「はい……私たちでよろしければ」

 ヤズノが心なしか小さい声で葉月に答えた。

「部屋に戻ろう……」

 葉月はヤズノたちをそう言って促した。

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