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第十六話 疑う理由

 葉月の部屋に、シュナを連れたカムヤが戻ってきた。



「すまなかった、ハヅキ……」

「う……ううん」

 ヤズノとゴウノに変なことを言われたせいか。

 カムヤを必要以上に意識してしまう。

「どうかしたのか?」

「だ、大丈夫だって……」

「なら良いが……」

 葉月を心配して顔を覗き込むカムヤに、葉月はその顔を直視出来ずに、視線をそらしてしまう。

 そんな葉月の様子をカムヤは余計に心配そうに見つめていた。



『カムヤよ。そなたに訊きたいことがあるのだが……』

 まるで定位置のように、葉月の右肩に戻ったシュナが、カムヤにそんなことを言った。

「なんだ?」

『チョウセイ殿のあの疑りよう。もしかして、あのことを気にしておるのではないか?』

「うたぐり?」

 葉月が訝しんだ表情でシュナを睨んだ。

 


 カムヤはチョウセイがシュナだけを連れ出したこと、そして話した内容を葉月に話して聞かせた。

「それで私が一緒にいたらまずかったわけか……」

「ハヅキたちを疑った……というよりは、ナシメを警戒してのことだったんだがな」

 カムヤはそう言って肩を竦めた。

『のう、カムヤ。そなたの父上、タケハヤ王はどのように殺されておったのだ?』

「……シュナっ!!」

 シュナが突然カムヤに尋ね、葉月が思わず止めに入った。

「よい……ハヅキ。

 シュナ。もしかして、チョウセイ様たちは父がこの国の者に殺された……と考えていると思っているのか?」

『たぶんそうじゃろうのう。

 外から侵入したのでは、あまりに手際が良すぎるのでな』

「それが……ナシメたちだと?」

『チョウセイ殿たちでなければそうなるの』

 問いかけるカムヤに、シュナは戸惑うことなくそう告げた。

「いい加減にしなさいよ、シュナっ!!」

 葉月がカムヤの代わりに、肩にいるシュナを睨みつける。

「……心の蔵をひとつきだった……」

『それは、前か?背後からか?』

「……前だ」

 たどたどしくその状況を語るカムヤ。

 シュナはそこまで聞くと、しばし沈黙した。

「ごめんなさい……カムヤ」

「いいや。これは当然出ておかしくない疑問だ。今まで伏せられていたことがおかしい」

『伏せておったのはナシメの方じゃろう。

 その状況ならば、チョウセイ殿たちは間違いなく、近しい者を疑っておるはずじゃ。

 そなた……カムヤも含めてのう』

「どうしてそうなのよっ!?」

 驚いてシュナを見るカムヤと葉月に、シュナは小さく嘆息した。

『考えてもみよ。

 心臓をひとつき。しかも前から……他に傷もなくそれが致命傷となっておるのならば、その直前まで、親しい者とおったと考えた方が自然じゃ。

 争った様子も、他に傷もなかったのじゃろう?』

「……ああ」

『ならばますますそうじゃ。

 カムヤ。辛いとは思うが、チョウセイ殿はそれを見越して我らを疑ったと考えてよさそうじゃ。

 もしくは……ナシメを疑っておるから、我らに近づかぬよう促したやもしれぬ。

 どうも敵はすぐ傍……この国の中におるようじゃ……』

 葉月だけではない。

 むしろカムヤの方が――その表情が険しく、厳しいものへと変化した。

「……カムヤ……」

 葉月が心配そうに、カムヤを見た。

「……考えてはいたんだ。

 俺たちの傍にいる誰かが……父を殺めたのではないか、と。

 でも……考えたくなくて、外の敵に目を向けたんだ……俺は」

「違うよっ!!」

 葉月がカムヤの言葉を否定する。

「……ハヅキ……」

「誰だって、大好きな誰かが殺されたりしたら、気がおかしくなるよ。

 だから……カムヤもそうだったんだから。そんなに自分を責めないで、ね。

 私も傍にいて、カムヤを助けるから……」

「ハヅキ……」

 思わずカムヤに……そのまま葉月は抱きしめられてしまった。

「か……カムヤっ?」

「しばらく……このままで。

 すぐに落ち着くから……」

「……うん」

 あの時と同じように、カムヤの心音が心地よく聞こえてくる。

 


 いつの間にか、シュナの姿は部屋のどこにもいなくなっていた。

 葉月はそのままカムヤに身を任せていた。



『……このままでは、カムヤは葉月を手放せなくなる。葉月もそのままではすむまい。

 それでは、この時代に来た意味が違ってきてしまう……どうしたものかのう』

 御簾の前で。シュナはそっとそんなことを呟いていた。



◆◆◆



 チョウセイの姿は、[氷室ひむろ]と呼ばれる天然の洞窟の中にあった。

 そこは温度が低く、常に一定に保たれている場所なので、食料の貯蔵には適した場所でもあった。



 そこに。タケハヤの遺体は安置されている。

 早く墓に収めてやりたいが、殺めた者の手がかりも掴めていないまま、もう何日も経過してしまっていた。

「のう……タケハヤ。

 お前は誰に殺されたのだ……。

 誰とあの部屋にいたというのだ……。まさかヒミコではあるまい?」

 いくら一定の低温に保たれた洞窟内とはいえ。

 タケハヤの遺体は腐食を始めている。

 チョウセイはタケハヤの体を覆っている布をとることなく、そのすぐ近くに腰掛けていた。

「……罰が下ったのかの。ヒミコを死に追いやったのが……我らだったこと。

 それがお前に下ったのかのう……」

 肩を大きく落とし。

 チョウセイは一人言を続ける。

「おそらく……相手はナシメだったのではないか?

 どうしてこうなってしまったのかな……。よい男だと思ったのだが。

 このような野心を抱いておるとは、私でも見抜けなんだ……。

 本当にすまない……タケハヤ」

 そうしてチョウセイは立ち上がった。

「お前の無念は必ず晴らす。

 それまでしばし待っていてくれ。

 私もお前の傍に逝くことになるかもしれんが……」



 


 チョウセイはタケハヤの体に視線を向け――そう微笑むと、やがて氷室を後にした。


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