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第十話 時の経過とその気持ち

 それから昼夜を七回繰り返し。葉月の世界の基準で「一週間」が過ぎた――。

 この頃には葉月の怪我もだいぶ癒えてきていた。


 

 しかし――慣れとは恐ろしいものだ。

 


 初日の夜は、カムヤの傍で何とか眠りにつけたが。

 その後は夜を迎える度にあの「恐怖」にも似た感覚が――と考えていたのに。



 二日、三日と経つうちに、徐々にあの簡素な「ふとん」にも慣れ、食事も喉を通るようになってきた。

 思いのほか、食事は品数が多くそれには葉月も驚いた。



 一番驚いたのは「クッキー」のような食べ物があること。

 これはどんぐりの殻を取り、実の苦味の部分――アクを取った物をすり潰し、粉にしたものを固めて「焼いた」食べ物だった。

 それに胡桃などの「甘味あまみ」を加える。

 味は素朴で、ぼそぼそ感は仕方ないとしても、結構気に入った。

 葉月はこれが「お菓子」という印象を持つが、カムヤたちはこれが「主食」となるという。

 カムやたち王族は「米」をいつも口に出来るが、この時代、ヤマトノ国の民全てに行き渡るほど米の収穫は望めない。そこまでの文化の発達はまだ見られない。

 こういう木ノ実なども貴重な食料となる。

 これはシュナが葉月に教えたことだったが。



 そして麻地の服にもそれなりに慣れてきた。

 元の「時代」から来てきた服は――オオネが間違って捨ててしまったと葉月に謝った。

 本当は、血のついた服をいつもでも手元に残すことは葉月のためにならないと、オオネが捨てたことは、葉月も薄々気がついている。

 そう考えられるほど――気持ちに少し余裕も生まれていた。

 それだけカムヤたちが、優しく接してくれていることも、葉月が落ち着きと早く取り戻せる要因のひとつでもあった。



「ハヅキ姉」


 

 そう言って葉月に近寄ってきた幼い少女。

 カムヤの妹であり、葉月が未来からこの国へ来ることを「予言」した「能力」を持つ

「イヨ」という娘だ。

 歳は四歳――この世界では「八歳」。

 この感覚はなかなか慣れないが、それでもイヨが葉月に懐くのが早かった。



「イヨ――っ!! 」

 葉月も無邪気なイヨのおかげで随分と救われている。

 この時も、駆けてきたイヨを抱きしめると、イヨがとても喜んでいた。

「はぐーっ」

 葉月がつい「ハグ、ハグ」と言って抱きしめたため、イヨはその言葉を覚えてしまった。

 これにはシュナが渋い顔? をしたが『それぐらいは許そう』と偉そうに許可し、イヨが葉月に向かって手を伸ばす。

「ハグぅ」

 そう言って葉月もイヨを抱きしめる。

 本当に可愛い盛りの少女だ。



「本当の姉妹きょうだいのようだな」

 カムヤが二人を微笑ましそうに見つめていた。

「イヨ可愛いぃぃっ」

 葉月はイヨがすっかりお気に入りとなっている。

「カムヤ。今日はハヅキを外へ連れて行くの? 」

 オオネがカムヤに尋ねた。

「いいや。しばらくは国の外には出ないつもりだ。

 ハヅキも危ないし……」

「いいや。カムヤが危ないし。カムヤはこの国の王子なんだからさ……」

 葉月がイヨを抱きしめたまま、カムヤの言葉を訂正する。

「二人共危ないから、国の外には出ないでね」

 オオネがそう――言い直した。

「そうだな……」

 カムヤは面目ないような表情で、頷いていた。



◆◆◆



「ハヅキ様」



 ヤズノがゴウノを連れ、葉月たちの元へとやってきた。

「ヤズノぉ」

「はい、イヨ様」

 イヨはヤズノにも懐いている。

「良きお子ですね」

 ヤズノはイヨを抱き上げて微笑んだ。

「ヤズノさんって、力持ちだよね」

 葉月が何気なく、そう言った。

「な……何をで……ございましょう? 」

 何故か、ヤズノが酷く慌てた素振りを見せる。

「イヨを抱き上げるのに苦労していないみたいで。

 意外と力があるんだなぁって思っただけだよ」

「そ、そうですか? 旅をしておりますと、何かと力を使うことも多いものですから」

「それもそうか……」

 ヤズノの答えに、葉月はそれなりに納得する。

「ハヅキ。乙女おとめにそれはないだろう」

 カムヤに呆れられ、葉月はヤズノに「ごめんなさい」と素直に謝った。

「いいえ。ハヅキ様に褒められて嬉しゅうございますから」

 ヤズノは優しく微笑んだ。



『して、カムヤよ。今日は我に相談があると言うていたな』

 葉月の右肩にいるシュナがカムヤに問う。

「ああ。水路のことで訊きたい。

 ハヅキの世界にも「米」はあるというし、どうすれば皆が「米」を口に出来る程実らせることが出来るのか……」

『話したのか、御身おみは』

「いいじゃない。水路はこの時代にもあるんだし……。

 カムヤはこの国の皆のことを考えてシュナに訊いているんだから」

 責めるようなシュナに、葉月が不機嫌そうに言い返す。

『仕方ないのう。

 大事なのは確かに水路じゃ。安定した水の確保が大事じゃ。

 それには大陸の技術が役に立つじゃろう。

 それともう一つは、「よく実のなる稲穂」を見極めることじゃ』

「よく実のなる稲穂? 」

『そうじゃな。

 この年に多くの実をつけた稲穂を食に回さず、次の年の種として取っておく。

 そうすれば、翌年も実の多い稲穂が出来る……ものが多くなる。 

 しっかりとした水の管理とそうして多く実のなる稲穂を繰り返し植えていくことで、自然と収穫は増えるじゃろうが』

「……なるほど……」

 カムヤだけではない。

 葉月やヤズノもシュナを感心した様子で見つめていた。

『これぐらい知らんでどうする。

 我は「異神いのかみ」の従者じゃぞ? 』

「そうね……」

 そう言って。葉月は小さいため息をついた。

 


 そんな葉月たちの姿を――ヤズノは微笑ましそうに見つめていた。



◆◆◆



「しかしあれが「異神」とは……まだ子供ではないか。

 あれでカムヤより歳が上というのが信じられん」

 「異神」の様子を伺っているサホビは、「本宮」の廊下から遠くに見える葉月たちを呆れた様子で眺めていた。

「油断は出来んよ、サホビ姫。

 「異神」が連れている「朱雀」の様子も気になる。

 連中のことはしばし時を置いて見ておいた方が良いだろうからな」

「そうしておる。だがいつまでそうしていれば良い」

 あいも変わらず。サホビの気の短さにはナシメもほとほと困ってしまう。

「いつまでとはわからぬが。

 タケハヤ王がいない今。次の王を早急に決めねばならんこともある。

 今はことを荒立てるは良くない……という意味だ」

「……わかった。

 だが、しっかりと私とトヨを守ってくれよ」

「承知している」

 こんな自分勝手なところもサホビらしい。

 ナシメはついため息をついてしまう。

「何が気に入らん? 」

「違う……。この先のことを考えているだけだ」

「……もうよい」

 サホビは自分の部屋へとさっさと入ってしまった。

「やれやれ……」

 今度は大きく、ナシメはため息を堂々とついた。


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