サイズを詐称するパンツ
私は久しぶりに、母と一緒にお風呂に入った。
キャピキャピと楽しく時間を過ごし、同じタイミングでお風呂から出た。
髪を拭き下着を履いたとき、母がふと娘の私が履こうとしていたパンツ(緑色のズボン)をじっと見る。気になって、どうしたと母に聞くと、
「そのズボン、緩くない?」
と一言。
実はこのズボン、五年前に購入したものである。あれから身長も特に変わっていないので変わらず履けるのだが、最近少し痩せたこともあって前より緩くなっている。緩いので一回折って辻褄を合わせている。
追加で言うと、買った当時からだいぶウエストゆるゆるなのだが、その事実をおそらく母は知らない。
なので、
「うん、ゆるゆるだよ」
とゆるゆるのズボンを履きながら返しておく。
その途中、私はふと母の腰回り……ウエストを見たあと、履いたズボンの残ったサイズ余りをじっと見る。
企みを思いついた。
「ねぇ、ママ。ちょっと履いてみてよ」
履いたズボンを脱ぎながら、母にそう言った。
人によっては一度人が履いたズボンを履くのは嫌かもしれないが、うちの場合はそんなことかけらも思わずノリノリでノってくれるはずだ。
「えぇー、流石に入らないってー」
私の手にあるズボンを見ながら母は、やらない、履かない、といった嫌そうな感じに言った。が、母の目は早くそのズボンよこせと言っているように見えた。
ちなみに更年期で太り始めた母は安定のLサイズ。私の手にあるズボンはMサイズである。
ズボンを渡すと母は「入んないと思うけどなぁ」とか「ギチギチだよ〜」とか「ちょっとあったかい……」とか言いながらノリノリでズボンを履いていく。
少しの間ではあるが一度私が履いたのであったかいのは確かだろう。
母がズボンを履き終わるまで暇なので、私は先にパジャマがわりにしているTシャツを着る。
私が着終わると同時に母も履き終わったようなので、私は母の方に視線を向けた。
母はこちらを一瞥もせずに一言。
「……入った」
私から見ると、ズボンはとてもフィットしているように見える。
「すっごいピッタリ」
プラスで言った母の一言に、私は崩れ落ちた。はっ……あっ……と掠れた笑い声を漏らしながら。
母も笑った。すぐ隣にある洗濯機に寄りかかりながら。
やがて笑いが落ち着いたとき、母が思いついた。
「ちょっとさぁ、このズボン履いてみてよ」
「……」
そう言われたので、私は母が履くはずだったズボン(洗濯済み)を受け取る。
「そのズボンさぁ、実はずっときついなぁ辛いなぁって思いながら履いてたんだよね」
「そ、そうなんだ」
母はTシャツを着ながら、私はズボンを黙々と履きながらそんな会話をする。
そしてズボンを履き終わり、私は一言。
「わぁ……ピッタリ」
「プッ……!」
二人一緒に崩れ落ちた。
ひとしきり笑ったあと、呼吸を整えながら母は言った。
「ママさぁ、これさぁ、上も下も……ズボンも緑になっちゃったからさぁ、今全身緑だからさぁ……! グリーンバックになっちゃったよ……! 消えちゃう……!」
「いやっ、グリーンバックの緑とは違う緑だって……!」
「でも緑ではあるじゃん」
「ブッ……!」
母の着たTシャツ(緑色)は、左胸あたりに黒色のニコちゃんマークがある。
つまりグリーンバックがあったら、顔と肘下、そしてニコちゃんマークだけが残ることになる。
それを想像し、案の定私は崩れ落ちた。
想像上の母は、見てーこれーと見せつけるようなニヤニヤ顔を向けてきた。
やめて、笑っちゃうから。お腹痛くなっちゃうから。面白いからいいけど。
喉とお腹が痛い中、笑いはまだまだ続く。
「お互いのっ、サイズがピッタリだっね……!」
「お互いにズボン間違えて持ってきた可能性があったりしてね」
「色が違うからそれはないんじゃない……!」
現在、母は緑、私は青だ。もちろんズボンに話だ。ちなみに、私のTシャツは白い。
「お互いズボンのサイズ間違えてたねぇ」
「ねぇ」
二度言うようであるが、現在母が履いているのがM、私が履いているのがLだと言う事実は、忘れたい。いややっぱり面白いから覚えよう。
ちゃんと強調しておくが、『母が痩せていて、私が太っている』のではない。事実は真逆で、私の履いていたズボンはM、母の履こうとしていたズボンはL。ただ『ズボンのサイズがバクっている』。ただそれだけなのである。
最終的に、ズボンを戻すことなどなく、お互いのズボンで過ごした。
きっとそのうち、お互いズボンの持ち主が変わることになるだろう。
──母がグリーンバックになって消える日は意外と近いかもしれない。
顔と肘下、そしてニッコニコのニコちゃんマークを残して。




