妹とその婚約者の話【私はヤンデレ素質のある幼なじみのことを愛している。兄side】
私はヤンデレ素質のある幼なじみのことを愛している。の兄sieです。
「ネイサ、兄様を睨まなくていい」
「でも……」
「私にはネイサだけ」
「リエートア……」
目の前でいちゃついている妹とその婚約者を見ながら、俺は気まずくて仕方がない。
俺の名前は、ベルアッキ・キディグソン。男爵家の長男だ。俺の家は、これといって特徴もない小さな男爵家だ。……ただし妹とその婚約者が原因で、色んな意味で目立ってはいる。
学園の長期休暇、当たり前のように妹であるリエートアとその婚約者であるネイサ様は二人で一緒に男爵領にやってきた。
……ネイサ様はとてつもなく嫉妬深い。俺と弟なんて血の繋がった兄妹なのに、よく睨まれたりする。家族なんだから、いいじゃないか。俺がリエートアと名前を呼ぶだけで嫌そうにしているので、なるべく妹呼びを心がけるようにしていた。
しかしこの二人、何処でもこうやってべたべたいちゃついているのだろうか……。
学園での一件は聞いている。リエートアとネイサ様の関係に物申した連中がちょっかいをかけてきて、ネイサ様がきれたと……。その結果、ようやく二人は思いを交わしたそうだ。
というか、今までこの二人両想いでなかったの? と驚いた。
いつでもべたべたして、互いしか見えていない風で……その時から目の毒だった。なのに、さらにいちゃつきが増している。何か危ない雰囲気もあり、やめてほしい……。この二人、大人の関係にもなってしまったというのを両親から聞いた。
妹のそんな事情、聞きたくもないんだが……。
ちなみにこの話が俺に共有されたのは、俺が次期子爵家当主だからであろう。リエートアとネイサ様は卒業後はほとんど人と関わらない生活を送るだろう。しかし少なからず俺とはかかわりを持つとは思う。
妹はネイサ様になら監禁されても構わないなんて言ってのける人間ではあるし、ネイサ様と比べたら他の人々のことはどうでもいいとは思っている。俺とネイサ様のどちらも危機だったら、迷わずネイサ様を助けるだろう。
とはいえ、リエートアは俺達家族のことを大切にしていないわけじゃない。これから先の未来、二人と俺が関わりをもつだろうと思われているから両親はきちんと情報共有してくれている。
……間違った対応を一つでもしたら、二人とも雲隠れしてしまいそうな傾向にある。浄化の一族の出であり、誰よりも力の強いネイサ様がこの国からいなくなられるのは困るというのが、国の意向だ。もし彼が居なくなったらこの国は大変なことになってしまうだろう。
だからこそ、国王陛下達にとってもネイサ様とリエートアは特別だ。ネイサ様という浄化の力を持ち、魔法の腕もすさまじい存在。そしてそのネイサ様をこの国に留めるための釘のようなものであるのが、リエートア。
だから、つい先日の一件はネイサ様とリエートアがこの国からいなくなるかもしれない危機的状況であった。
「お兄様、何をぼーっとしているの?」
二人のことを考えていたらリエートアからそう問いかけられる。その瞬間、ネイサ様が俺をぎろりっと見た。
普通に怖いからやめてほしい。
ネイサ様って、愛情が重すぎて何をやらかすかどうか分からなくて、ハラハラしてしまう。俺は正直言って、リエートアに執着しすぎているネイサ様を見ていると怖くなる。
でもリエートアは寧ろそうやって執着されることを寧ろ喜んでいるのだから。
それに……ニヤリッと笑っているリエートアに気づいて、俺は小さくため息を吐いた。リエートアはわざとやっている。ネイサ様の嫉妬心を煽りたかったのかもしれない。
妹は基本的に無表情気味だし、何を考えているか分からないとよく囁かれている。無理やりネイサ様の傍に侍らされていると勘違いしている人っていまだに居るし。
だけど妹の愛情もネイサ様と同じぐらい重いし、なんかこの二人の愛情で粘りっこいというかなんとか……凄いドロドロしている。でも考えてみると、純愛ではあるんだとは思う。
お互いに対して誠実というか、別に誰かを無理に傷つけたりとかはしていないのでまだ平和的な婚約者同士なのかもしれないが。
俺はリエートアのことを大切な妹だと思っているが、妹と話す時はいつもネイサ様が傍に居るので妙な緊張感を抱いてしまう。いやだって、対応を失敗したらどんなふうに爆発するかさっぱり分からない。
「妹は相変わらず婚約者と仲が良いなと思って」
「私とネイサは仲良しなの」
無表情ながらに、小さく笑うリエートア。我が妹ながら、可愛らしい見た目をしている。台詞だけ聞いたら、ほほえましいんだけどなぁ。後ろのネイサ様の恍惚とした表情が怖すぎる。
ネイサ様は心からリエートアに愛情を抱いていて、妹以外に興味がない。それだけネイサ様を夢中にさせている妹って凄いなと思った。
「……妹よ、今日はこちらに泊まるのか?」
「泊まるわ」
そう言ったリエートアには、当たり前のようにネイサ様との同室が用意されている。身体を交わる前からそもそもほぼ同棲していたしな、この二人……。
どうせ二人とも部屋にこもってイチャイチャするだろうから、用意されている部屋の周辺に近づかないようにしなければ。
あと食事もネイサ様が手ずから準備しているんだよな。リエートアに食べさせるのは自分が作ったものがいいらしい。
公爵家の次男であり、王家にとっても特別視されている存在なのにリエートアのためなら本当に何でもするんだよな。甲斐甲斐しくいつも世話をしているし、よく小柄なリエートアが抱えられたりするのも見かける。
屋敷内でもよくネイサ様に抱えられているリエートアみるし、あとは膝枕とかも見かける。
……この二人って、羞恥心などないんだろうな。
「ネイサ、部屋に行きましょう」
「うん」
リエートアに連れられて、ネイサ様はそのまま連れられて行く。ネイサ様ってリエートアの前ではとろけるような笑みをしているのだ。
「ベ、ベルアッキ様、あ、あの、お、お二人は居なくなりましたか?」
「ああ」
二人が居なくなった後、現れた侍女がほっと一息を吐く。過去にリエートアとネイサ様にちょっかいをかけたりして解雇された侍女も居る。あれは侍女側が悪いのだが、我が家ではなるべくリエートアとネイサ様には触れるなべからずになっている。まぁ、もちろん、最低限の世話はされているけれど。
リエートアもネイサ様も侍女や使用人達に絡まれるのはあんまり好きじゃないので、そんな侍女や使用人達の態度に気にした様子はないが。
……あの二人、卒業後はどうするんだろうか。完全に二人暮らしか? それとも最低限の使用人だけ雇うのだろうか。
今度、気分を損ねない程度のタイミングで将来のことをきちんと聞いておくことにしよう。俺はそう思うのだった。
俺は妹とその婚約者の傍に居ると、正直凄くハラハラする。生々しい事情なんて知りたくもない。とはいえ、俺にとってたった一人の妹と、その妹が愛してやまない婚約者であることは変わりない。
俺は兄として、これからも二人が穏やかに過ごせるように陰ながら助力をしようとそう思っている。




