犯罪者の話
注意!
自転車が喋るけど気にしないで!
冬になり、北の方だというだけに大粒の雪が降っている国の中。
「…お金がない!」
メルは国に入って一番、嘆いていた。
「どうする?働く?」
「うーん…でもまずは宿から確保しておきたいなぁ〜。」
「じゃあ…どうする?一応言っておくけど、今晩のご飯すらないよ?」
そう悩んでいるうちに、日が沈んだ。
「食べ物〜…」
「大丈夫?ゾンビみたいになってるけど。」
「食べ物〜…」
「無理か。あ、あの草食べれるやつじゃない?」
「…!食べ物〜!」
草に手を伸ばしたその時。
「あの!すいません…」
後ろから小さな女の子が喋りかけてきた。
「良ければ…ご馳走させてもらえませんか?」
メルは高速で首を縦に振った。
メルの目の前には、豪華な料理が質素なテーブルに乗っていた。
温かいシチューに、温かいパン。そして愛情のこもったハンバーグ。
そこはもう、天国のようだった。
「あ〜!美味しい!」
「ありがとうございます!人に食べてもらったことなくて、味は大丈夫か心配だったんですけど…。」
「メルは空腹だから味とか関係なく美味しいって言うけどね。」
「し!そんな事言わない!いや、でも本当に美味しい!命の恩人だよ〜」
「いえ…私は料理を出しただけですし…あ!もし、旅人さんが良ければ泊まっていきますか?」
メルは涙を流し、少女の手を握り、ありがとうと言った。
その日から、お金を貯める日々が始まった。
冬という旅のしづらい時期でもあり、お金を貯めるいい機会だった。
メルは小さな書店のバイトを引き受けた。
仕事があまり忙しくなく、本を読みながらお客さんを待つ。
お客もみんな人柄が良く、充実した仕事場だった。
家に帰ると、少女と温かい料理が出迎えてくれる。
メルはなぜそんなに優しくしてくれるか、聞いたことがあった。
少女は、両親から旅人には優しくしなさいと教えられていると言った。
それに、一人で寂しかったとも言った。
シドが両親はどこにいるのか聞いた。
少女は黙ったので、二人はそれ以上聞かなかった。
少女にはたまにこれまでの国の話をした。
温かい泉の国だたったり、滅んでいた国だったり、普通の国だったり。
少女はそのたびに目を輝かせた。
広い世界をしって、驚きと感動を隠せなかったのだろう。
メルはたまに少女から料理を教わった。
少女の作る料理は、簡単であるが、とても美味しかった。
メルはそのたびにメモを取った。
旅の途中で再現できそうな物も、いくつかあった。
一方、シドはというと。
走り続けたのもあってボロつき始めていたので、整備工場で毎日整備してもらっていた。
整備工場のおっちゃんと意気投合したと話していた。
◯
雪が溶け始め、旅が始められそうになった頃。
メルの財布は潤っていた。
「おかえりなさーい!」
「ただいま〜…ねぇ、今日は話があるんだ。」
「…はい。わかりました。」
食卓にはいつものように温かい料理が並ぶ。
「いきなりなんだけど、明日、旅に戻ろうかと思ってるんだ。」
「…!…わかりました。寂しくなりますけど応援してます!」
「ありがとう。」
そこからはいつものように楽しく雑談したりして食卓を過ごし、
シャワーを浴びて、ベッドに入った。
その夜。
少女が申し訳なさそうに部屋の扉を開け、中に入ってきた。
「メルさん…起きてますか?」
「うーん…あ、今起きた。」
「起こしてしまってすいません…でも、メルさんが明日いなくなると思うと、寝むれなくて…。」
「いや、大丈夫。…こっちにおいで。」
少女は、メルが腰掛けていたベッドに座った。
少し、肩が触れた。
月明かりが窓から差し込んでくる。
しばらく沈黙が続いた。
しばらくたってから、少女が口を開く。
「メルさん。私の、私の両親の話。聞いてくれますか?」
「…うん。いいよ。」
「私の両親はとても、優しかったんです。ふたりとも私た…あ、私に愛情を注いでくれました。父は一生懸命に働き、母は毎日温かい料理を作ってくれて。それはもう幸せでした。
その幸せは長く、続きませんでした。
何者かによって父は殺されてしまいました。私達は泣きました。何日も何日も。
父が亡くなってから母は痩せ細っていきました。ろくにご飯も食べずに、一人ブツブツと何かを呟いていました。正直に言ってしまうと気味が悪かったです。
ある日、母は父の後を追うように亡くなりました。この、オリジナルレシピ本を置いて。
それからは、私が働いてどうにか生きていました。この国では親を失った子供は、成人したことにされるので働くことができることは、もう知っているでしょう。
毎日辛かったです。仕事でも辛いことばかり。帰っても辛いことばかり。
もう嫌でした。でも、そこでメルさんに出会いました。私は救われました。
寂しかった食卓には花が咲いて、楽しいお話ができて。
だから、行ってほしくないのです。また、一人にはなりたくないんです!
…お願いです!旅なんてやめて私と一緒に暮らしてください!」
少女は頭を下げてお願いした。
メルはきっぱりと言った。
「…ごめん。君と過ごしたい気持ちもあるけど。旅をやめるのはできない。」
「そう…ですよね…すいません…いきなり。」
「いや、大丈夫。それより、勇気を出して話してくれたこと、ありがとう。」
それからまた少し黙った。
そろそろ寝ようか、とメルが言った。
同じベッドで、寝た。
そのベッドは二人では、小さかった。
翌朝、メルはシドに乗り、出国しようとしていた。
シドは不満を言っていた。
「メル〜もうちょっとこの国にいようよ〜。まだあのおっちゃんと話足りない〜。」
「じゃあこの国に置いてくよ?」
「それはやだー。」
「まったく…ん?あ!」
向こうの方から少女が走ってくる。
「メルさーん!待ってください!」
到着した少女は息を整えて、持っている本を差し出す。
「こちら、受け取ったください!」
「え?でもそれってお母さんの…」
「もう、大丈夫なんです。全部覚えましたし。もう、過去から切り離したほうが楽かなって。だから、受け取ってください。私だと思って大切にしてください!」
「わかった。ありがとう。」
メルは出国した。
少女は二人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
「いい国だったね。メル。」
「そうだね〜。あ、次の野営のときにこの本に書いている料理作ってみよう。」
「自転車でも食べれる料理ない?」
「たぶんない。」
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温かい冬のことでした。
私は、ゆっくりと、家に帰っていた。
少し怯えていると、自分でもわかる。
あの家に帰りたくない。
私は扉を恐る恐る開けた。
「た…ただいま…」
いきなり、怒鳴り声が聞こえた。
「何やってるの!」
「す…すいません。お姉さま。」
そこには、私にそっくりの、双子のお姉さまがたっていた。
「珍しく自分で殺すって言ってたから許可したのに!逃がしてどうするの!この三ヶ月が無駄じゃない!」
「ごめんなさい…。ごめんなさい…。」
「次やったら。お前の命もないと思え!」
「わかりました…!すいません…!すいません…!」
私はこのお姉様に逆らえないでいる。
私の両親を殺したのもお姉様だし、私が家に帰ってから辛かったのもお姉様のせいだ。
お姉様は私より賢いし、力も強い。
逆らおうならば、その拳が飛んでくる。
もう…いやだ。
旅人さんがいるときはお姉様は地下室に閉じこもる。
私が旅人さんをもてなして、お姉様が油断したところで殺す。
外見がそっくりな私達が、入れ替わってるなんて誰も思わない。
でも、今回はちがかった。
メルさんは優しかった。
今までの旅人の誰よりも、優しかった。
料理を褒めてくれて、たくさんお話をしてくれて。
殺したくなかった。だから、今回は私が殺すと、嘘をお姉様に言った。
私は逃がしたかったはずだった。
でも、私は一緒に暮らしたいと、口走った。
自分でも何を言っているのかわからなかった。
メルさんが断ってくれて、少しホッとした。
◯
私は、リュックに様々な料理器具を詰め込む。
昨日の夜、私は考えた。
旅に出る。メルさんを見つける旅に。お姉様から逃げるために。
リュックを背負い、お姉様に見つからないように扉を開ける。
「ガタンッ」
建付けの悪い扉が大きな音を鳴らした。
お姉様が気づいたのだろう。走って地下室から上がってくる。
「何してるの!殺されたいのか!」
「お姉様。ごめんなさい!」
私は逃げた。
全速力で。
ちょうど、城門前に出国前の商人の車を見つけた。
私は荷台に隠れる。
商人の車が発車する。
遠くからお姉様が追いかけてくる
「ハルカ!ぜったい捕まえてやる!」
それができないことを私は知っている。
いずれ、お姉様は捕まるだろう。
私は、国を出た。
裏と表と真ん中の人。




