表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
東海上中賑やかし
8/65

「空と海のあいだで」

じぇっとふぉいるが港を離れ、静かに滑り出す。最初はまるで水面を撫でるような穏やかさ。


「ふむ、拍子抜けするほど静かじゃのう……」


と思ったその瞬間――


「うおおおおおっ!」


船体が突如として前へ跳ねるように加速し、弥次さんの叫び声が響いた。次の瞬間、背後でドスンという音。


藤兵衛、内心で「やっぱりやってくれたか……」とため息をつく。


「おい、弥次さん、大丈夫かい?」


「……返事がない。ってことは、たぶん大丈夫だな」


喜多さんの声が、どこか他人事のように響く。

やがて加速が収まり、船体が安定した滑りに変わると、船員が通路を歩きながら声をかける。


「現在、安定航行に入りました。しばらくの間、自由にお過ごしください」


と、そこへ――


「だから言ったでしょ! 座ってくださいって!」


先ほどの船員が、床に転がったままの弥次さんに怒鳴っている。


「いや~、すまんすまん。転がったけど、全く問題なし! むしろ景色が逆さに見えて新鮮だったよ!」


と、頭をさすりながらお道化る弥次さん。喜多さんが苦笑しながら彼を起こしつつ、


「まったく、あんたは旅先で転がるのが趣味なのかい」


と呆れている。


船員の説教が一段落すると、弥次さんが「ちょっと外の風でも浴びてくるか」と言い出し、喜多さんもそれに続く。


藤兵衛も気になって、そっと客室を出てみると――


「……おおっ」


目の前に広がるのは、遥か下に見える海面。出発前よりも明らかに高い位置を航行している。


「これは……まさか、本当に飛んでおるのか?」


驚いていると、先ほどの船員が近づいてきて、にこやかに説明を始めた。


「じぇっとふぉいるは、船体の下にある水中翼で海面から浮き上がり、抵抗を減らして高速航行する仕組みです。現在はおよそ5尺ほど浮上しております」


「なるほど……まるで水の上を滑る鳥のようじゃな」


と感心していると、背後からまたもやあの声。


「なあ喜多さん、これってつまり、船なのに飛んでるってことかい?」


「そうだねぇ、つまり“空飛ぶ舟”ってやつだ」


「じゃあさ、これがもっと高く飛んだら“空飛ぶ屋形船”になるのかね?」


「それはもう、屋形船じゃなくて旅館ごと飛んでるよ!」


「そしたら、空中で宴会できるな! “空中どんちゃん騒ぎ”ってやつよ!」


「酔う前に落ちるわ!」


藤兵衛、またもや内心で突っ込む。


(……おぬしら、どこまで行っても変わらぬのう)


空と海のあいだ、じぇっとふぉいるは今日も珍客を乗せて、風を切って進んでゆく――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ