表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
東海上中賑やかし
8/25

「空と海のあいだで」

じぇっとふぉいるが港を離れ、静かに滑り出す。最初はまるで水面を撫でるような穏やかさ。

「ふむ、拍子抜けするほど静かじゃのう……」

と思ったその瞬間――

「うおおおおおっ!」

船体が突如として前へ跳ねるように加速し、弥次さんの叫び声が響いた。次の瞬間、背後でドスンという音。

藤兵衛、内心で「やっぱりやってくれたか……」とため息をつく。

「おい、弥次さん、大丈夫かい?」 「……返事がない。ってことは、たぶん大丈夫だな」

喜多さんの声が、どこか他人事のように響く。

やがて加速が収まり、船体が安定した滑りに変わると、船員が通路を歩きながら声をかける。

「現在、安定航行に入りました。しばらくの間、自由にお過ごしください」

と、そこへ――

「だから言ったでしょ! 座ってくださいって!」

先ほどの船員が、床に転がったままの弥次さんに怒鳴っている。

「いや~、すまんすまん。転がったけど、全く問題なし! むしろ景色が逆さに見えて新鮮だったよ!」

と、頭をさすりながらお道化る弥次さん。喜多さんが苦笑しながら彼を起こしつつ、

「まったく、あんたは旅先で転がるのが趣味なのかい」

と呆れている。

船員の説教が一段落すると、弥次さんが「ちょっと外の風でも浴びてくるか」と言い出し、喜多さんもそれに続く。

藤兵衛も気になって、そっと客室を出てみると――

「……おおっ」

目の前に広がるのは、遥か下に見える海面。出発前よりも明らかに高い位置を航行している。

「これは……まさか、本当に飛んでおるのか?」

驚いていると、先ほどの船員が近づいてきて、にこやかに説明を始めた。

「じぇっとふぉいるは、船体の下にある水中翼で海面から浮き上がり、抵抗を減らして高速航行する仕組みです。現在はおよそ5尺ほど浮上しております」

「なるほど……まるで水の上を滑る鳥のようじゃな」

と感心していると、背後からまたもやあの声。

「なあ喜多さん、これってつまり、船なのに飛んでるってことかい?」

「そうだねぇ、つまり“空飛ぶ舟”ってやつだ」

「じゃあさ、これがもっと高く飛んだら“空飛ぶ屋形船”になるのかね?」

「それはもう、屋形船じゃなくて旅館ごと飛んでるよ!」

「そしたら、空中で宴会できるな! “空中どんちゃん騒ぎ”ってやつよ!」

「酔う前に落ちるわ!」

藤兵衛、またもや内心で突っ込む。

(……おぬしら、どこまで行っても変わらぬのう)

空と海のあいだ、じぇっとふぉいるは今日も珍客を乗せて、風を切って進んでゆく――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ