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東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
焼き物と湯けむりと赤ら顔
64/65

「熱湯と猫と、湯上がりの夜」

常滑での商談を終えた藤兵衛は、 ふと思い出したように口を開いた。


「そういえば、少し東に行った半田に温泉があると聞いたのう。

 窯元の熱気で汗もかいたし、疲れもたまっておる。

 ここらで一風呂浴びて、骨の芯まで癒やされたいものじゃ」

「若旦那、温泉と聞いて目が輝いておりますな」 と、権兵衛が笑う。

「やったー!温泉だー!」 と、定吉はすでに草履を脱ぎかけていた。

「まだじゃ、まだ駅馬車に乗らねばならぬ」


駅馬車に乗り込み、東へ向かう三人。

車窓から外を眺めていると、 先ほど見た招き猫が再び姿を現した。


「おお、またあの猫じゃ」 と、藤兵衛が言ったそのとき——

「若旦那!あれです、あれ!」 と、定吉が指さす。


その奥に、さらに巨大な招き猫が鎮座していた。


「……なんと、まだ上があったとは……」 と、藤兵衛が目を丸くする。

「まるで猫の階級制度ですな」 と、権兵衛が妙な納得をしていた。


やがて駅馬車は半田に到着。


「さて、温泉付きの旅籠を探すとしよう」 と、藤兵衛が歩き出す。

ほどなくして、湯けむりの立ちのぼる旅籠を発見。

そのまま一泊することに決めた。


荷を降ろし、早速温泉へ。

「では、いざ参る!」 と、藤兵衛が意気揚々と湯殿へ向かう。


湯船に足を入れた瞬間——


「熱っ!熱っつ!!」 と、定吉が飛び跳ねた。

「何をそんなに大げさな……」 と、藤兵衛も足を入れて——


「……熱っつ!!」 思わず声が漏れた。


「……ぴりぴりしてきおる……これは……なかなか刺激があるのう……」 と、

若干のやせ我慢を交えつつ、じわじわと湯に沈む藤兵衛。


一方、権兵衛はというと——

「いやぁ、良いお湯ですな」 と、まるで茶の湯のような落ち着きで浸かっていた。

「番頭さん、皮膚が違うんじゃないですか!?」 と、定吉が叫ぶ。


結局、藤兵衛と定吉はぬる湯の方へ避難し、

「ふぅ……これくらいがちょうどよいのう」 と、ようやく落ち着いた。


湯上がりには、夕餉が待っていた。


地元の魚と山の幸が並ぶ膳に、三人は舌鼓を打つ。


「この湯豆腐、口の中でとろけますな」 と、権兵衛。

「さっきの熱さが嘘みたいです……」 と、定吉はほおを赤くしながら白米をかきこむ。

「女将、ここの湯はなかなかの熱さじゃったが、あれは……?」 と、藤兵衛が尋ねると、


「まぁ、うちの温泉はちょっと熱めなんですのよ。

 でもね、成分が濃厚で、身体の芯から効くんですの!

 若い方にはちょっと熱いかもしれませんけど、

 これがまた、癖になるんですのよ~!」


女将の熱弁に、三人はただただ頷くしかなかった。


「……確かに、効いてる気はしますのう……」 と、藤兵衛がぽつり。

「効きすぎて、ちょっと皮膚がびっくりしてます……」 と、定吉がそっと腕をさすった。


こうして、湯と飯に癒やされた三人は、ふかふかの布団に身を沈め、

それぞれの夢の中へと旅立っていった。


その夜、藤兵衛の夢には、 巨大な招き猫が湯船に浸かっている姿が現れたとか、

現れなかったとか——

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