「駅馬車と猫と、焼き物の里へ」
河和港に無事到着した藤兵衛一行は、 港から少し歩いて駅馬車の駅へと向かった。
「このあたりは、じぇっとふぉいるも駅馬車も整っておるのう」 と、藤兵衛が感心する。
「交通の便がよいのは、商いにもありがたいことですな」 と、権兵衛が頷く。
「でも、もうちょっと何か起きてもいいのに……」 と、定吉は少し物足りなさそうに呟いた。
駅に着くと、掲示板には路線図が描かれていた。
「常滑は……北西か。まずは北へ向かい、途中で西に乗り換えるようじゃな」 と、藤兵衛が指でなぞる。
「乗り換えがあるのも、旅の味ですな」 と、権兵衛が笑う。
「乗り換えって、ちょっとワクワクしますよね!」 と、定吉は元気いっぱい。
やがて駅馬車が到着し、三人は乗り込んだ。
「おお、今回はくねくね道ではないようじゃ」 と、藤兵衛がほっと息をつく。
「これなら、酔わずに済みますな」 と、権兵衛も安心した様子。
一方、定吉はというと——
「え~、揺れないとちょっとつまらないです……」 と、やや不満げ。
「……そこは堪えてくれい」 と、藤兵衛が苦笑した。
半刻もせぬうちに、乗り換えの駅に到着。
三人は西行きの馬車に乗り換え、再び出発。
日間賀島での蛸尽くしと、壺の中の赤ら顔の衝撃もあってか、
藤兵衛と権兵衛は、うとうと……
「……すぅ……」
「……むにゃ……蛸が……」
一方、定吉はというと、 窓の外を見ながら、元気に鼻歌を歌っていた。
そのとき——
「若旦那! 見てください! 大きな猫です、猫!」 と、定吉が突然叫んだ。
「……な、なんじゃと!?」 と、藤兵衛は飛び起きた。
「どこじゃ、どこに猫が……」 と、寝ぼけ眼で辺りを見回すが、 そこに猫の姿はない。
「……人よりも大きな猫が、さっき見えたんです……」 と、定吉は真剣な顔で言った。
「……夢でも見ておったのではないか?」 と、権兵衛が目をこすりながら言う。
「まぁ、帰りもこの道を通るじゃろう。その時にでも見ればよい」 と、藤兵衛は再び目を閉じた。
「……でも、ほんとにいたんだけどなぁ……」 と、定吉はぶつぶつ言いながら、再び窓の外を見つめた。
そんなこんなで、駅馬車は常滑の駅に到着。
「さて、着いたか」 と、藤兵衛が伸びをしながら立ち上がる。
「焼き物の里、常滑……楽しみですな」 と、権兵衛が荷を整える。
「猫、また出てくるかなぁ……」 と、定吉はまだ未練がましく空を見上げていた。
はてさて、常滑では何が待ち受けているのか。
焼き物か、猫か、それとも——また“あの顔”か。




