「焼き物の里へ、海を越えて」
藤兵衛一行は、島の西にある港を目指して歩いていた。
「島の端から端まで歩けるとは、なかなか風情があるのう」
と、藤兵衛が潮風に吹かれながら言えば、
「東から西へ、まるで島一周の旅ですな」
と、権兵衛が笑う。
「蛸の香りがまだ残ってる気がします!」
と、定吉は鼻をくんくんさせていた。
西の港に着いた三人は、早速船の札所へ。
「じぇっとふぉいる、またですな」
と、権兵衛が札を眺める。
係員に尋ねると、
「師崎港行きと、少し遠い河和港行きがございます。
河和の方が駅馬車の便がよろしいですよ」とのこと。
「ふむ、少し長くても便利な方がよかろう」
と、藤兵衛は河和行きの札を求めた。
乗船まで少し時間があったので、
港近くの茶屋で一服することに。
湯気の立つ茶をすすりながら、
三人は日間賀島での出来事を振り返った。
「蛸、うまかったのう……」
と、藤兵衛が目を細める。
「蛸壺の数には驚きましたな」
と、権兵衛が頷く。
「でも一番びっくりしたのは、やっぱり……」
と、定吉が言いかけると、
「言うな。思い出すだけで壺の中がむず痒くなる」
と、藤兵衛がぴしゃりと遮った。
やがて乗船時刻となり、
三人は慣れた足取りでじぇっとふぉいるに乗り込んだ。
「これで三度目じゃな」
と、藤兵衛が笑う。
「もう、乗り方も完璧です」
と、定吉が胸を張る。
「次は“じぇっとふぉいる指南役”でも名乗れそうですな」
と、権兵衛が冗談を飛ばす。
出発してしばらく、
藤兵衛はふと立ち上がり、外の景色を眺めに出た。
左手には知多半島の陸地、
前方にも陸、右手にも遠く陸が見える。
「なるほど、湾の中というのは、
いつもと景色が違って新鮮じゃのう……」
と、藤兵衛はしみじみと呟いた。
やがて、船は河和港に無事到着。
「……なにもありませんでしたね」
と、定吉がぽつり。
「そうそう何か起こりはせんぞ」
と、藤兵衛が肩をすくめる。
「まぁ、あのお方はまだ日間賀島でしょうしな」
と、権兵衛が静かに言った。
三人はそれぞれの思いを胸に、
海路から陸路へと、旅の舞台を移していった。




