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東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
伊勢の光と、餅の音
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「くねくね道と、いせの香」

読んでいただきありがとうございます。

2026/01/13(火) の[日間]コメディー〔文芸〕 - 連載中ランキングに入りました。


「せっかくここまで来たのだ。この機に、一生に一度のお伊勢参りと洒落こもうかのう」

湯の山温泉の朝、藤兵衛がそう言い出したとき、

権兵衛は帳面を見て「納期は大丈夫でしょうか」と眉をひそめ、

定吉は「お伊勢参り! 行きたいです!」と目を輝かせた。

「納期は……まぁ、なんとかなるじゃろ」 と、藤兵衛は少し目を逸らしながら笑った。


こうして三人は、伊勢行きの駅馬車に乗り込んだ。

最初のうちは、山を下るくねくね道。 馬車は左右に大きく揺れ、車輪が軋むたびに、 藤兵衛と権兵衛の顔色が、じわじわと青ざめていく。


「うぅ……胃が……」

「若旦那、袋はお持ちですか……」

一方、定吉はというと、 「うわー! 今の曲がりすごい! 浮いた! 浮きましたよ!」 と、毎度のことながらきゃっきゃきゃっきゃと楽しんでいた。

「……この子の三半規管は、どうなっておるのじゃ」 と、藤兵衛は内心で突っ込みながら、 窓の外に目をやったが、揺れで視界がぐるぐると回るばかりだった。


やがて道は石畳のまっすぐな道に変わり、 馬車の揺れも落ち着いてきた。

「ふぅ……助かった……」 と、藤兵衛と権兵衛は同時に息を吐いた。

「そういえば、今朝の弥次さん、すごかったですね!」 と、定吉が思い出したように言った。

「……ああ、あの猪の被り物な」 「女将が腰を抜かしておったのう」

「わっはっは! これが俺様が仕留めた猪だ〜!」 という弥次さんの声が、脳裏にこだまする。

「定吉、ああいう大人になってはならんぞ」

「はい! でもちょっと楽しそうでした」

「……そこが危ないのじゃ」 と、藤兵衛と権兵衛は、同時にため息をついた。


駅馬車は、二刻ほどで伊勢に到着した。 ちょうど昼時、腹も鳴る頃合いである。

「おっ、あそこに“いせうどん”の幟が立っておりますぞ」 と、権兵衛が指さしたのは、 軒先に湯気を立てる、こぢんまりとした飯屋だった。

「名物にうまいものなし、とは申すが…」

「いや、名物にしてはうまいものもある、というのが最近の風潮ですな」

「どっちなんですかそれ」 と、三人は笑いながら暖簾をくぐった。


運ばれてきたのは、極太でふにゃりとしたうどんに、 黒々とした甘辛のタレがとろりとかかった一椀。

「これは……うどんというより、別の食べ物のようじゃのう」 と、藤兵衛が箸を入れると、 もちもちとした感触が返ってきた。

「いただきます!」

三人は一口すすり、しばし無言。 そして——

「……うまい」

「これは……癖になりますな」

「タレがしみてて、うどんがとろける感じですね!」


茶をすすりながら、三人はしみじみと味わった。


「さて、伊勢参りの段取りじゃが」 と、藤兵衛が帳面を取り出す。

「今日は外宮を参って、明日、日の出前に内宮へ向かおう。朝日を拝んでから、参拝と洒落こもうではないか」

「いいですねぇ、神様も朝が早いんですね」 と、定吉が感心したように言う。

「……わしらも早起きせねばならんのじゃ」 と、権兵衛が少しげんなりした顔で呟いた。

「はてさて、どうなるやら」 と、藤兵衛は茶をすすりながら、 どこか遠い目をしていた。

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