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東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
富山道中 鉄と水と赤ら顔
40/50

「鉄の道、城の影、そして水しぶき」

商談を終えた藤兵衛一行は、さっそく話題の鉄道馬車を見に富山駅へと向かった。


「おお、これが…」 と、藤兵衛は目を細める。


鉄の格子のようなレールの上に、馬車の車輪がぴたりと乗っている。

駅馬車のように人が集まるのを待つのではなく、定刻発車とのこと。


「なるほど…決まった道を、決まった時刻に… これなら、荷の到着も読みやすい。商いにも使えそうじゃのう」


商人らしい目線でその利便性に感心する藤兵衛。


「若旦那、目が光っておりますぞ」 と、番頭が苦笑する。


鉄道馬車は、カラコロと軽やかに走り、定刻通りに富山城の近くへ到着した。

富山城は、白壁が美しく、堀の水面にその姿を映していた。


「小田原城に比べると、こぢんまりとしておるが、この静けさがまた、北国の城らしくてよいのう」 と、藤兵衛が感想を述べると、


「石垣の積み方が違いますね!」 と、定吉が目を輝かせていた。


見学を終え、城下の茶屋で一服していると——



「だから飲みすぎだって、弥次さん」


「な~に、大丈夫大丈夫」



……聞き覚えのある声が、隣の茶屋から。


「ま、まさか……」


藤兵衛は、そっと隣の茶屋を覗いた。


そこには—— 顔を真っ赤に染めた、昨日も見たあの男。


「……やはり、おったか」


嫌な予感が、背筋をすうっと撫でていく。 だが、もう遊覧船の時間である。


「……まぁ、まさか船では何も起きまい」 と、自分に言い聞かせながら、藤兵衛は番頭と定吉を連れて乗り場へ向かった。


遊覧船に乗り込むと、船頭が声をかける。


「全員お揃いになるまで、少々お待ちくだされ~」



そして、最後に乗り込んできたのは——


あの二人。


「……これは、絶対何かが起きる」 と、藤兵衛は確信した。


船は静かに川面を滑り出す。 船頭が名所を案内しながら、穏やかな時間が流れる。


「おや、順調ですな」


「このまま何も起きなければよいのですが…」 と、番頭がぽつり。



だが——


「よし、行くぞ!」


突然、弥次さんがばっ!と立ち上がった。


「お客さん! 危ないですから座ってください!」 と、船頭が慌てて声をかけるも、 弥次さんは赤ら顔のまま、両手を広げて叫んだ。


「俺は! 寒中水泳をするんだぁぁぁ!!」


ドボーンッ!!


水しぶきが高く上がり、船内は一瞬で騒然。


「ちょ、ちょっと! 弥次さん!? なんで今!?」 と、喜多さんが顔を真っ青にして立ち上がる。


「すみません! すみません! ほんとすみません! でも放っておいて大丈夫です! あの人、昨日もやってますから!」 と、平謝りの嵐。


「わ~! すごいですね、あの人! ほんとに泳いでる!」 と、定吉は目を輝かせている。


「大丈夫ですかねぇ…」 と、番頭は心配そうに水面を見つめる。


そして藤兵衛は—— 湯呑を手に、ぽつりと呟いた。


「……そういえば、昨日も寒中水泳をしたいと言っておったか。山の池に比べれば、川の水など…まだましじゃのう」


妙に達観した顔で、湯気の向こうを見つめていた。


― 終 ―

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