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東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
東海道中珍栗毛
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~焼売なき武勇伝と、別れの品川~

鴨嘴は、静かに横濱の駅を発ち、江戸へと最後の道のりを進んでいた。 藤兵衛は、窓の外に流れる港町の灯をぼんやりと眺めながら、 (……あの二人、戻ってこないな)と、少し心配になっていた。

まさか、焼売を求めて迷子になったのでは…… あるいは、また金が足りずに捕まったのでは…… そんな不安がよぎったそのとき――

「いやー、あの売店の角を曲がったらさ、まさかの“売り切れ”だよ!」 「“完売御礼”って札がぶら下がっててさ、俺、思わず土下座しそうになったぜ!」

どやどやと、あの二人が戻ってきた。 手には、なぜか“横濱煉瓦”と書かれた菓子箱と、謎のパンダのぬいぐるみ。

「焼売はなかったけどよ、これがまたうまそうだったんだよ。チョコの菓子だってさ」 「パンダは……なんか目が合っちまってな。つい」

(……焼売の代わりが煉瓦とパンダとは)

藤兵衛は、もはや突っ込む気力もなく、静かに目を伏せた。 だが、二人は満足げに「イの二」と「イの三」に腰を下ろし、 「誰も座ってなくてよかったなあ」と胸をなでおろしていた。

「さて、もうすぐ品川だな」 と、喜多さんが立ち上がり、荷物をまとめ始める。

「俺、次で降りるからよ。弥次さん、寝て寝過ごすなよ。江戸はその次だからな」 「わかってるって! 大丈夫大丈夫、俺を誰だと思ってんだ」

「……寝るときは“江戸で降ります”って額に書いとけよ」 「おう、じゃあ“江戸行き”って札でもぶら下げとくか」

(……いや、たぶんそれでも寝過ごす)

藤兵衛は、またもや心の中で突っ込んだ。 だが、どこか寂しげな空気が漂っていた。 この珍道中も、もうすぐ終わるのだ。

鴨嘴が品川に滑り込むと、喜多さんは立ち上がり、 「じゃあな、弥次さん。次は江戸でな」と手を振った。

「おう、気をつけてな。……って、パンダ忘れてるぞ!」 「あ、それはおめえのだろ!」

車内に笑いがこぼれ、ドアが開き、喜多さんは人波にまぎれて消えていった。

藤兵衛は、ふと弥次さんの横顔を見た。 どこかぽかんとしているが、少しだけ寂しそうにも見える。

(……さて、江戸まであと一駅。果たして無事に降りられるのか)

鴨嘴は、最後のひと走りに向けて、静かに動き出した。

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