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東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
富山道中 鉄と水と赤ら顔
36/44

「くねくね道と雷鳥の声」

蕎麦と薬と、雲の上の湯の続きです

書き終わった分から投稿します

服を着たまま温泉に飛び込んだ弥次さんの姿を背に、 藤兵衛、番頭の権兵衛、丁稚の定吉の三人は、 富山へ向けて立山参道を下る旅路へと足を踏み出した。


「まったく…あの男は、最後までやってくれるのう」 と、藤兵衛は肩をすくめながらも、「まぁ、無事で何よりじゃ」 と、どこか安堵の色をにじませた。


ここ室堂からは、まず弥陀ヶ原行きの馬車に乗ることになる。

乗車札を求めると、係の者が丁寧に説明してくれた。


「この道はですね、かなりくねくねと曲がりくねっております。馬車酔いされる方は、あらかじめご注意を」

「くねくね、とな…どのくらいのものかのう?」 と尋ねると、係の者はにっこり笑って言った。

「出発まで少し時間がございますので、展望台からご覧になるとよろしいかと」


「……見ておくか」

「見ない方がよい気もしますが…」

「見たいです! くねくね道、楽しみです!」


三人は吐く息を白くしながら、展望台へと向かった。 雪を踏みしめる音だけが、静かな山の空気に響く。


やがて展望台に立つと、眼下に広がるのは——


まるで龍がのたうつような、白い道の帯。 左右に折れ、ねじれ、また折れ、 まるで誰かがふざけて描いたような、意味不明な曲線の連なり。


「……なぜ、まっすぐに下りぬのじゃ……」 と、藤兵衛は顔を引きつらせた。


「これは…箱根のあの道を思い出しますな…」 と、権兵衛も青ざめている。


「うわぁ、すごい! あれ全部通るんですか!? 楽しみだなぁ!」 と、定吉は目を輝かせていた。


「……若さとは、かくも恐れを知らぬものか」 と、藤兵衛は思わずため息をついた。


三人は乗車待ちの建物へと戻った。 温石を懐に入れ、身支度を整える。

「弥次さんもいないし、旅の安全も祈願したし…  これで、何も起きぬ…はずじゃ…」

そう自分に言い聞かせながらも、 どこか胸の奥に、もやもやとした不安が残る。


そのとき——


「ピュルルル…」


また、あの澄んだ鳴き声が耳に届いた。 雷鳥だ。


「……ふふ、また会えたか」


藤兵衛は、そっと目を閉じた。 雪の中に響くその声は、まるで「大丈夫だ」と囁いているようだった。


「よし、行くか」 と、藤兵衛は背筋を伸ばし、

「さぁ、富山へ向かうぞ」 と、番頭と丁稚に声をかけた。

三人は、くねくね道の始まりへと、静かに歩き出した。

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