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東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
海月の宇宙と無限階段
24/42

「動く階段、登れば願いも届くかのう」

茶を飲み干し、団子の串をそっと皿に戻した藤兵衛は、

「さて、あの声の主を確かめてみるか」 と、そっと腰を上げ、隣の茶屋を覗いてみた。


……が、そこには誰の姿もなかった。

空の茶碗が二つ、ぽつんと置かれているばかり。

「むむ、空耳だったか…いや、まさか。あの声は確かに……」

と、首をひねりつつも、気を取り直して神社を目指すことにした。


道すがら、案内板に目をやると、こう書かれていた。


「江の島動く階段 神社・展望塔方面行き」


「おお、これが噂の“動く階段”か。まことに、世は進んだものよのう」

どうやらこの“動く階段”なる乗り物、神社だけでなく、さらにその上の展望塔まで連れて行ってくれるらしい。 ただし、帰りは自力で歩くしかないとのこと。

「ふむ、登りは楽して、下りは修行か。ま、よかろう」


札売り場で乗車札を求めると、係の者が丁寧に説明してくれた。

「札は乗り場でお見せください。乗るときと降りるときは、必ず手すりをお持ちくださいませ」

「ふむふむ、心得た」

いざ乗り場へ向かうと、そこにはまさしく“動く歩道の階段版”が、静かに動いていた。

金属の段が、ゆっくりと坂を登っていく様は、まるで機械仕掛けの龍の背のよう。


「これはまた…見事な仕掛けじゃのう」


札を見せ、注意を受けてから、そろりと乗り込む。

ぐい、と足元が持ち上がる感覚に、思わず手すりをぎゅっと握る。

前方を見やると、坂は思いのほか急で、もし歩いて登るとなれば、

「ふぅふぅ言うて、途中で団子を吐き出す羽目になったかもしれぬな…」 と、苦笑い。


いくつかの区切りを経て、最初の降り場に到着。

そこには、朱塗りの鳥居と、静かに佇む神社があった。

藤兵衛は手を合わせ、

「水族館の海月展示が盛況となりますように…そして、海月屋の商いも、ますます繁盛いたしますように…」 と、心を込めて祈願した。


ふと、あの二人のことが頭をよぎる。

「ま、まさかのう。あれは空耳じゃ。そうそう、あの二人に毎度出くわすなど…」

と、自分に言い聞かせるように首を振る。


神社の境内を後にし、さらに上へと続く道を見上げる。

「せっかくじゃ、一番上の塔とやらも見ていこうかのう」

再び動く階段に乗り込む藤兵衛。

その背に、潮風がそっと吹き抜けた。

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