表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
海月の宇宙と無限階段
22/35

「海月の宇宙、静けさの中に」

その朝、藤兵衛はまだ陽も昇りきらぬうちに、深川の町を後にした。 駅馬車の車輪が石畳をガタガタと鳴らし、揺れるたびに、旅の気分が胸に満ちてくる。


「やれやれ、やっぱりこの揺れがないと旅って気がせんのう」 と、窓の外を流れる町並みを眺めながら、心はすでに江の島の海月たちのもとへ。

東海道を西へ、潮の香りが鼻をくすぐるころ、江の島駅に到着。 馬車を降り、潮風に吹かれながら歩を進めると、ほどなくして水族館の姿が見えてきた。


まだ開場前の静けさの中、門のそばに立っていた丁稚に声をかける。

「海月屋の藤兵衛と申す。館長殿にお取次ぎ願いたい」

丁稚はぺこりと頭を下げ、軽やかに奥へと駆けていった。

ほどなくして、館長が笑顔で現れた。

「おお、藤兵衛殿! 本日はようこそ。おかげさまで、展示の準備も滞りなく進みましたぞ」

「それは何より。海月屋の名が、少しでもお役に立てたなら本望にござる」

挨拶もそこそこに、館長は藤兵衛を展示室へと案内した。

「では、こちらへ。少々暗いですが、どうぞお進みを」


通されたのは、ひんやりとした空気の漂う、ほの暗い部屋。

「む…これは…? まさか、まだ準備中か?」 と、訝しむ藤兵衛に、係の者が椅子を勧める。

「どうぞ、こちらにお掛けください。しばらく上を見上げてお待ちを」

言われるがままに腰を下ろし、天井を仰ぐ。 最初はただの闇。


だが、しばらくすると——

ぽつ、ぽつ、と、白く丸い光が浮かび上がる。

ひとつ、またひとつ。まるで夜空に星が灯るように。

「……ほう……」

その光はやがて増え、天井だけでなく、壁の周囲にも広がっていく。

ゆらゆらと揺れ、瞬き、漂うそれらは、すべて海月だった。

透き通る体が、光をまとって宙を舞う。

まるで、海の底に沈んだ星々が、静かに踊っているかのよう。


「……これは……まるで、海月の宇宙じゃ……」


藤兵衛は、ただただ見上げたまま、言葉を失っていた。

商いの喧騒も、江戸の町も、今は遠く。

そこにあるのは、光と静寂と、海月たちの舞だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ