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東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
動く歩道に乗るの巻
20/35

「―走るな危険―」

西門へと向かうと、まだこれから入場しようという人々の姿もちらほら見えたが、出るのは実にあっさりしたものだった。門を抜けると、潮風がまた一段と心地よく感じられる。


少し歩くと、前方で係員が大声を張り上げていた。


「こちらから動く歩道に乗れます! 乗ったら立ち止まってくださーい!」


「ふむ、やはり“動く歩道”であったか」


近づいてみると、確かに床が静かに、しかし確実に動いている。

まるで地面そのものが旅をしているような、不思議な感覚。


「これに乗れば、確かに歩かずに済むのう……」


藤兵衛はそっと乗り込み、ゆっくりと進みながら、港に停泊する船の数々を眺めた。

帆をたたんだ和船、黒塗りの蒸気船、異国の旗を掲げた船


――まるで世界がここに集まっているようだった。


その時、背後から再び係員の声が響いた。


「お客さーん! 歩かないでくださいーっ!」


「……まさか」

振り返ると、案の定。


「わ~ってるよ、歩かん! 俺は走る!」

酔いの勢いそのままに、弥次さんが動く歩道の上をだだだだだ~~~っと駆け抜けてくるではないか。


「おいおいおいおい……!」

藤兵衛の横を風のようにすり抜けていく弥次さん。


その先には、動く歩道の終わりが――


「うおっ……!」


つんのめった勢いのまま、弥次さんは前方に大きく飛び出し――


ごんっ!


顔面から見事に地面に激突した。


「だ~から言ったじゃないですか!」


喜多さんが駆け寄り、呆れ顔で弥次さんを覗き込む。

その横で、ぴくぴくと痙攣する弥次さん。


藤兵衛は、思わず立ち止まり、しみじみと呟いた。

「……やっぱり、弥次さんがやってくれたか」

どこか感動すら覚えながら、藤兵衛はその横をそっと通り過ぎた。

春の陽は傾き、潮風は穏やかに吹いていた。

こうして、藤兵衛の横濱博覧会の旅は、笑いとともに幕を閉じたのであった。


― 終 ―

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