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東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
動く歩道に乗るの巻
17/65

「―再会は茶屋の香りとともに―」

横濱へ向かう船は、春の海を穏やかに進んだ。陽射しは柔らかく、潮の香りが心地よい。

やがて船は、博覧会の東側入場門近くの波止場に到着した。すでに門の前には長蛇の列ができており、藤兵衛は眉をひそめた。


「こりゃあ、入るまでにだいぶかかりそうじゃのう……」


人混みに揉まれる前に、まずは一服と決め、近くの茶屋へと足を運んだ。

暖簾をくぐると、木の香りがほのかに漂う落ち着いた空間。藤兵衛は空いていた席に腰を下ろし、看板娘に団子と茶を頼んだ。


「少々お待ちくださいねえ」


にこやかな声に見送られ、藤兵衛はほっと息をついた。

その時、背後の席に二人組の男が腰を下ろす気配がした。


「団子と茶、二つな!」


「へい、ただいま!」


その声に、どこか聞き覚えがあるような――と思っていると、ひとりが瓦版を広げながら言った。


「おいおい、さっき買った瓦版に書いてあったぜ。西の門の外に“歩く歩道”ってのがあるらしい」


「歩く歩道? 歩道が歩くのかい? そんな馬鹿な」


若い方の男が呆れたように返す。


「……それは“動く歩道”じゃろうが」


藤兵衛は、心の中でそっと突っ込んだ。


「か~、何言ってんだい、ここは博覧会だぞ!? 歩道が歩いてもおかしくあるめぇ!」


その調子、その声――


「……ん?」


藤兵衛の耳がぴくりと動いた。


「どうだい喜多さん、歩道が歩くかすぐに行こうぜ!」


「いやいや、先に博覧会の中を見てからですよ」


「……ああ、やっぱり」

藤兵衛は、団子を一口かじりながら、ぽつりと呟いた。


「弥次さん喜多さんの二人組か。ここで遭遇するとはなぁ……」


まるで、イの一番の札が引き寄せたかのような再会。もはや偶然とは思えぬ。

弥次さんは団子を一息で平らげ、茶をぐいと飲み干すと、勢いよく立ち上がった。


「よし、行くぞ! 歩道が歩くか、確かめに!」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


喜多さんが慌てて後を追う。

その様子を見送りながら、藤兵衛はそっと笑った。


「……これは、何かが起きるな」


胸の奥に、わくわくとした気配が芽吹き始めていた。

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