「琉球の陽と、まさかの声」
ギィ……と軋む音とともに、藤兵衛がそっと開けた収納の中にあったのは――
「……なんじゃ、これは」
布に包まれた風呂敷包みが一つ。どうやら誰かの忘れ物らしい。拍子抜けしたような、けれどどこかほっとしたような、複雑な気持ちが胸に広がる。
「……流石に、ここに弥次さんがいるわけもないか」
そう呟きながらも、ほんの少しだけ、再会を期待していた自分に気づき、苦笑いを浮かべる藤兵衛。
船は順調に南下し、波穏やかな海を滑るように進んだ。特賞に当たった他の九人とも挨拶を交わし、それぞれが鋼鉄箱での海底遊覧に胸を躍らせている。
「いやはや、まさか当たるとは思いませなんだ」
「海の底が見られるとは、夢のようでござるな!」
皆、目を輝かせて語り合う。藤兵衛もまた、心の奥で静かに期待を膨らませていた。
そして、ついに琉球へ到着。空は高く、陽射しは柔らかくも力強い。江戸の寒さが嘘のような、春の香りが漂っていた。
港から案内されたのは、波止場の端に停泊していた、黒く光る大きな鋼鉄の箱。上部には煙突のような筒が突き出ており、そこから乗り込むのだという。
「これが……鋼鉄箱か」
その姿は、まるで海の中を泳ぐために生まれた鉄の鯨のよう。藤兵衛は思わず息を呑んだ。
江戸組の十人が順に乗り込み、内部を見回すと、壁には丸い窓がいくつも並んでいた。どうやらここから海の中を覗けるらしい。
「ふむ……この窓から、どんな景色が見えるのやら」
皆が興味津々で中を見て回る中、案内役の者が言った。
「上方組が到着するまで、しばしお待ちを」
しばらくして、外がざわつき始めた。どうやら上方組が到着したようだ。
その時だった。
「おいおい、こっちは入口が狭いでござるよ!」
「おぬしの腹が広いのだ、腹が!」
――どこかで聞いたことのある、あの調子。
藤兵衛の背筋に、ぴたりと冷たいものが走った。
「……まさか」
思わず丸窓に顔を寄せ、外を覗き込む藤兵衛。その視線の先に、果たして見えるのは――




