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東海道中珍栗毛  作者: なごやかたろう
東海上中賑やかし
10/65

「飛んで、潜って、置いてけぼり」

喜多さんが厠から戻ってくると、そこに弥次さんの姿はなかった。


「……あれ? いない?」


きょろきょろと辺りを見回すが、どこにも見当たらない。


「ま、いっか。あの人、しょっちゅうどっか行くからねぇ」


と、あっさり納得して座席に腰を下ろし、目を閉じてうとうとし始める。


(いやいや……おぬしの真下におるのじゃが……)


藤兵衛、後ろの座席からそっと気配を探る。座席の下からは、かすかに「ぐぅ……すぅ……」という寝息が聞こえてくる。


(まったく、どこまでも自由な男よのう)


そんな折、船内にアナウンスが響いた。


「まもなく竹芝に到着いたします。減速いたしますので、皆さまご着席ください」


船員が通路を歩きながら、乗客に声をかけていく。今回は、弥次さんが立っていない。というより、座席の下にいる。おかげで、何事もなく船は静かに減速し、やがて桟橋に滑り込んだ。


「おお……着いたか」


藤兵衛は荷物を取り出し、ゆっくりと立ち上がる。行きの客船では三刻(約六時間)かかった道のりが、帰りは一刻もかからずに到着した。


「いやはや、これが新型の船か……まことに時代は進んでおるのう」


乗客たちが次々と下船していく。藤兵衛もその流れに乗って、桟橋へと足を踏み出した。

ふと振り返ると、じぇっとふぉいるはゆっくりと港を離れ、メンテナンスのためにドックへと向かっていた。


「……お?」


途中から、船体がふわりと浮き上がり、再び海面を滑るように飛び始める。


「なるほど、あれが……空飛ぶ船か」


遠ざかるじぇっとふぉいるを見つめながら、藤兵衛は改めてその技術に感心する。


と、そのとき――


「弥次さ~ん? どこ行ったの~?」


喜多さんの声が、港に響いた。

藤兵衛、思わず「あっ!」と声を漏らしそうになる。


(まさか……まだ座席の下に……⁉)


だが、喜多さんは「ま、いっか。またどっか寄り道してんだろ」と、あっさりと帰っていってしまった。

藤兵衛も、しばしその場に立ち尽くしたが、やがて肩をすくめて歩き出す。


「……ま、あの男のことじゃ。どこかで勝手に降りて、勝手に呑んで、勝手に帰ってくるじゃろうて」


こうして、空飛ぶ船の旅は幕を閉じた。


風はまだ、潮の香りを運んでいた。


― 終 ―

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