表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石と鉄と、私の自由 ~元一級建築士の女奴隷は、古代帝国の礎(いしずえ)を築き上げる~  作者: 極北すばる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/11

第5話:悪徳ギルドの妨害

 エレンの活躍は、腐敗した帝都の建設ギルドの長、アウレリウスの目にも留まった。アウレリウスは手抜き工事で私腹を肥やす、この世界の建築業界のドンだった。


「女奴隷が作った石鹸? 笑わせる。そして、公衆浴場だと? 我々の仕事場を奪うつもりか」


 アウレリウスはエレンの建設商会への妨害を始めた。資材の横流し、職人の引き抜き、そして現場での恐喝。


 エレンは初めて、現場以外の「政治」という汚い戦いに直面した。


「殿下! また資材が届きません! 賄賂で業者が止めている!」


「落ち着け、エレン。これが、帝都の現実だ」


 クラウディウスは冷静だった。彼は法務官として、アウレリウスの不正を証拠固めしていたが、証拠はなかなか見つからない。


「彼は、帝都の集合住宅インスラの設計にも関わっています。あのインスラはいつか必ず倒壊します!」


 エレンは激昂した。インスラは貧しい庶民が住む木造アパートで、手抜きと欠陥で常に火災と倒壊の危険に晒されていた。


「建築とは、人の命を守る盾です! 彼のやっていることは殺人です!」


 その夜、エレンは怒りで眠れず、書斎で図面を引いていた。そこにクラウディウスがやってきた。


「その怒りを、そのまま図面にぶつけろ。それがお前の武器だ」


 クラウディウスは、アウレリウスのインスラの図面をエレンに渡し、分析を命じた。


 エレンは瞬時に欠陥を見抜いた。


「建物を支えるピラスターの厚みが不均一です。特に最下層の積載荷重ライブロード計算が間違っている。そして、垂直剛性を高めるための筋交い(ブレース)がない!」


 エレンはパピルスに、古代の素材でも再現可能な耐震補強の構造図を描き始めた。それは、この時代の職人が決して思いつかない、力学の極致だった。


 クラウディウスは、図面を描くエレンの横顔を見つめた。汗で濡れた銀髪。ペンを持つ細い指先。そして、計算に没頭する冷徹な瞳。


「エレン。お前は、なぜそこまで庶民の命にこだわる?」


「……私の前世での仕事は、命を守ることでした。そして、私は奴隷だったからこそ、あのインスラに住む人々の恐怖がわかるのです」


 エレンはそう言って、初めて過去の片鱗を明かした。


 クラウディウスは、彼女の強さと優しさに、心の奥底で凍りついていた感情が溶けていくのを感じた。彼は、初めてエレンの頬に手を伸ばし、そっと触れた。


「お前が描いた図面は、帝都で最も美しいものだ。そして、お前の思想は、この帝国に必要な『誠実さ』だ」


 エレンは彼の触れる手に、恐怖ではなく、安心感を覚えた。奴隷として生きた彼女にとって、初めて「人」として求められた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ