第10話:帝国の礎を築く者たち
エレンとクラウディウスの結婚は、帝都の歴史において最も異例で、最も祝福されたものとなった。女奴隷が貴族の妻になるという前代未聞の事態だったが、エレンの功績があまりにも巨大だったため、誰もが彼女を尊敬した。
エレンは貴族の称号を辞退し、解放奴隷としての名を残したまま、クラウディウスを夫として支え続けた。
彼女が次に着手したのは、帝都と辺境を結ぶ「新街道」の建設だった。
「従来の街道は、ただ石を並べただけです。長雨で崩れ、水捌けも悪い。必要なのは、水勾配と路盤の層構造です」
エレンは、砂利、砕石、コンクリートを何層にも重ねた『現代式道路工法』を導入。これは物流を劇的に改善し、帝国の経済をさらに発展させた。
ある晴れた日。エレンは、自らが設計した、簡素だが美しく、何よりも「崩れない」自宅の屋根の上で、クラウディウスとワインを飲んでいた。
彼らの家は、最新のローマンコンクリートと、熱効率の高い床暖房、そしてエレンが設計した浄化槽を備えていた。
「エレン。君は、石と泥まみれの奴隷だったはずなのに、なぜこれほどまで強くなれた?」
「私は奴隷でしたが、私の知識は奴隷ではありませんでした。私の知識は、私自身より、この世界の全てより、強かったからです」
エレンは微笑み、クラウディウスに寄りかかった。
「私は、もう奴隷ではありません。私は、私の設計した世界の、自由な住人です」
その視線の先には、エレンが設計した、強固な水道橋、倒壊しない集合住宅、そして清潔な大浴場が広がっていた。
彼女は、血と汗と、そして「コンクリート」によって、帝国の腐敗した構造を打ち破り、その揺るぎない礎を築き上げたのだ。




