第9話:最後の契約と愛の誓い
エレンの功績は頂点に達した。帝都は清潔になり、庶民の住居は安全になり、疫病の発生は激減した。
皇帝は、エレンに最高の名誉である「貴族への昇格」と、莫大な報酬を与えることを決めた。
クラウディウスが、その勅令をエレンに読み聞かせた。
「これで、君はもう誰もが羨む貴婦人だ。そして、君と私の身分差はなくなった」
エレンは微笑み、首を振った。
「いいえ。私は貴族になりません」
「なぜだ? 念願の自由と名誉だろう」
「私にとっての自由とは、他人の命令を受けないことです。私は、貴族の政治的駆け引きに縛られたくありません」
エレンはクラウディウスの手を取り、彼の掌に自らの手書きの書類を置いた。
それは、「エレン建設商会からクラウディウス・ウァレリウスへの、生涯独占コンサルティング契約書」だった。
「私は、貴方のために、この帝国の未来の図面を描き続けます。その代わり、私の研究と建設には、一切口出ししないでください。そして、私を、貴方の妻としてください」
エレンは、奴隷としての屈辱を乗り越え、自らの知識と力だけで、愛と地位を勝ち取ったのだ。
クラウディウスは言葉を失った。彼は、政治的にも、技術的にも、そして個人的にも、この女性に完全に依存していることを悟った。
「エレン……君の契約は、いつも強引だな」
彼は笑い、契約書を胸に抱きしめた。
「だが、その契約、喜んで受けよう。私にとって、君の知性こそが、この世界で最も得難い宝石だ」
クラウディウスは、エレンに誓った。
「私は君の知識を尊重する。そして、君が描く未来の街を、必ず実現させる」




