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プロローグ:鉄の味がする目覚め
死ぬときも、やはり現場だった。
日本のゼネコンに勤めて15年。一級建築士として、構造計算と工程表に追われる日々。
徹夜続きでふらついた足が、地上30メートルの足場を踏み外したとき、脳裏をよぎったのは「走馬灯」ではなく「後悔」だった。
(ああ、あの図面の配筋、チェックし忘れてたな……)
(私の人生、コンクリートと鉄筋ばかりで、結局一度も、自分自身の家を設計できなかった――)
風を切る音。衝撃。そして暗転。
次に目覚めたとき、私は湿った藁の上にいた。
体中が痛い。だが、それは落下の痛みではない。鞭で打たれたような背中の熱さと、手足に食い込む鎖の痛みだ。
「起きろ、74番! 水汲みの時間だ!」
怒鳴り声と共に、泥水を浴びせられる。 水たまりに映った自分の顔を見て、私は息を呑んだ。 銀色の髪。痩せこけた頬。そして、鎖骨の下に焼き付けられた、醜い烙印。
そこは、石と埃と暴力が支配する、古代の帝国だった。
私はここで、名前すら奪われた「喋る農具」――奴隷として、二度目の生を受けたのだ。




